 OLYMPUS E-1+ZD 14-45mm(f3.5-5.6), f5.6, 1/250s(絞り優先)
国道19号線を東に向かって走り、「上山町2」の交差点を左に曲がると、突然目の前に中世ヨーロッパが現出して驚く。おおっ! と小さく叫び声ももれるかもしれない。多治見修道院との初めての対面は、食パンをくわえて走りながら角を曲がったらいきなり美少女とぶつかったときのような思いがけない出会いだった。 それまで教会やキリスト教には一切無縁だった私に、教会の魅力と親しみやすさを教えてくれたのが、ここ多治見修道院だった。その存在を初めて知ったのが去年の2月。一度どんなところか遠巻きに見てみようとおそるおそる出向いてみた私は、修道院の建物に圧倒されつつ、導かれるように大聖堂にふらふらと入り込んでしまった。そして、その空気に触れたとたん、私はかつて味わったことのない厳粛さに打ちのめされ、と同時に心地よさに包み込まれてしばらく動けずに立ち尽くことになる。
多治見にあるカトリック神言修道院は、1930年(昭和5年)に神言会の宣教師モール神父によって、修道生活と修道士育成のために建てられた。最初の30年は神言会の日本本部として機能していた伝統のあるところで、男子日本三大修道院のひとつとされている。ただし、残りふたつがどこかは定かでない? 調べても、多治見の修道院が三大修道院のひとつという情報しか出てこないのだ。北海道の聖ベネディクト女子修道会・札幌修道院と長崎のフランシスコ会・長崎修道院が日本三大修道院というのはあったけど、これが本当かどうかもよく分からない。 神言会(しんげんかい)というのは、1875年にドイツのアーノルド・ヤンセンによって作られたカトリックの修道会で、日本には1907年に入ってきた。名古屋や秋田、長崎などで活動が行われ、名古屋の南山大学もこの系列になる。多治見修道院も南山大学のものという一面(全面的に?)もあるようだ。 修道院の建物は、地上3階、地下1階の木造建築(石造ではないのはちょっと残念)で、建坪1,000坪、ぶどう畑は3,000坪という、かなり広い敷地を持っている。建物を正面から見ると細長いかまぼこ型のように見えるけど、実際はコの字をしている。白い壁に赤い屋根、尖塔に鐘楼、アーチ窓と、どこをとっても本物感満点だ(そりゃ本物だから)。 裏手に回ると、南山の関係者が研修や合宿などに使うログハウスや、広い畑、修道士や神父の墓やマリア像などがあり、こちらの空間はより俗世との隔絶感がある。 大聖堂内部は、白と青を基調とした涼やかな色合いで、窓にはステンドグラスが入り、壁には宗教画などが描かれている。基本的には撮影禁止なのだけど、人が少ないときに頼めば撮らせてくれるようだ。
ここの空気感が、他の教会よりも更に濃密なのは、かつては修道院でもあった歴史とも無関係ではないだろう。ドイツなどからやって来た多くの修道士たちが、ここで日々祈りの生活していたそうだ。世間とは断絶した中での彼らの思いや息づかいが、今でもこの場所につなぎ止められているように感じる。 ドイツ人宣教師たちによってもたらされたものは、キリスト教だけではなかった。何しろ酒好きの彼らだ。でも修道院でビールというわけもいかない。やはり修道院といえばワインだろう。そのワイン作りは今でも受け継がれ、修道院ワインとして地元ではちょっとした名物となっている。 前の畑で作っているブドウから作った自家製ワインは、一般にも販売されていて、大聖堂入口を入ってすぐの売店で買うことができる。赤、白、ロゼとそれぞれ1,500円ほどのようだ。ただ、少人数の手作りのため、年間で5,000本ほどしか作れないというからなかなか貴重と言えるだろう。私は酒類は一切ダメなので買ったことも飲んだこともないのだけど、飲んだ人によると、やや渋めでこびない味らしい。今度、川島なお美に飲んでもらおう。 ちょうど11月23日は、多治見ワインフェスタが開催される。前売りチケットが2,000円で、コンサートやパフォーマンスなどが行われ、ワインも飲み放題だとか。しかもなんと、俳優の天野鎮雄さんと女優の山田昌さんもやって来ます! って、どなたでしょう、その人たち……。手品もあるというから、まさか超天才マジシャン山田奈緒子じゃないだろうな。それなら私も見たいぞ。まるっとお見通しなのか?
 この多治見修道院は非常に素晴らしいところなのだけど、残念なところもいくつかある。たとえばこの写真に写ってるように、エアコンの室外機がむき出しになっていたり、建物正面に関係者の車が置かれていたりして、中世の雰囲気に浸りきれなかったりする。進入禁止の黄色いやつ(あれ何て名前だろう)や赤いコーンが無造作に置かれていて、それが写真に写ってしまったり。作られた観光施設ではないだけに、そのへんの徹底さがなくて、逆にムードを壊してしまっている。うるさい監督さんなら、美術さんや大道具さんが怒鳴りつけられていることだろう。時代考証が間違っとる! とか。 勝手な願望だとは思いつつ、そのあたりの演出をもう少し考えもらえると更に素晴らしいところになるに違いない。ちょっともったいない感じがある。
月曜定休で、大聖堂に入れるのは、9時から4時まで。外は半開放状態なので、外観の写真を撮るだけなら夕焼けでも夜でもいい。無料駐車場もある。 ログハウスは一般でも、1棟1泊10人で25,000円で借りられるようだ。大聖堂では結婚式もできる。 日曜日には当然ミサも行われている。ただし、このときはさすがに一般の見学は無理だろう。 日本でも屈指の大きなパイプオルガンがあるので、機会があれば一度は聴いてみたいと思う。
 教会や修道院なんて一般人は近寄りがたい場所と思っている人も多いと思う。私も去年まではそう思い込んでいた。へたに入っていったら信者にされてしまうんじゃないかとさえ思っていたくらいだ。でも実際はまったくそんなことはなく、ひとりでふらりと訪れて、大聖堂の中にひょいっと入っていっても全然平気な場所なのだ。もちろん、誰かが話しかけてくるとかそんなこともない。神社やお寺と同じようなものと思って間違いない。 大聖堂や礼拝堂の空気感というのは、日常の生活空間とはまったく異質のもので、その場にいかなければ決して味わうことができないものだ。そしてそれは、驚くほど心地がいい。10分も坐っていると、心が落ち着いてふっと気持ちが軽くなる。出てきた後は、自分が浄化されていることがはっきり分かるほどだ。番組で訪れた坂東英二でさえ無口になっていた。 この多治見修道院は、私がこれまで散策した中で一番のお気に入りの場所であり、オススメの場所だ。ぜひ機会があったら訪れてみてください。デートにもいいし、親子で行くのも悪くない。もちろん、ひとりでも。 もし、私が多治見修道院へ行こうと誘ったとしたら、それは私があなたを好きということだ。誘われないように気をつけてください。
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