現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
人と共に生まれ人と共に消える染井吉野は今、天に向かって赤 2005年11月19日(土)
2005年11月20日 (日) | 編集 |
紅葉の桜並木

Canon EOS D30+SIGMA28-80mm(f3.5-5.6), f5.6, 1/350s(絞り優先)


「次の休みは桜並木の紅葉を見に行こうか」
「うん、そうだね、そろそろきれいに染まった頃だろうね」
 そんな会話、聞いたことがないし、自分がしたこともない。でも桜並木は今、この通りきれいに赤く染まっているのだ。
 桜も紅葉するということは知られているけど、桜の紅葉見物が一般的でないのには理由がある。桜の葉っぱは表面だけが赤くきれいに色づいて、裏側はだいだい色というか茶色で今ひとつきれいにならないからだ。だから、桜並木を歩きながら見上げる桜の紅葉はパッとしない。鈍い赤と緑と茶色のまだら模様で。
 でも上から見下ろすとこれがなかなかいいのだ。カエデやモミジほどじゃないけど、並木のように続けて植わっているとけっこう見応えがある。
 高い建物に登って紅葉した桜並木を見物することをおすすめしたい。とはいうものの、私のうちには来ないでください。

 ソメイヨシノはすべて一本の雑種桜のクローンだというのはよく知られた話だ。江戸時代、エドヒガンとオオシマザクラが自然交配したものを江戸に住む植木屋のオヤジが「吉野」の名で売ったことから始まった。
 その花の美しさから明治時代に入って一気に日本中に広まったソメイヨシノだけど、自ら子孫を増やすことはできない。ソメイヨシノのサクランボってそういえば見ないなと思ったことがある人もいるだろう。そう、まさにだからクローンなのだ。今日本中、世界中に生えてるソメイヨシノは一本残らず江戸の植木屋のオヤジの木から接ぎ木で広まったものだ。オヤジお手柄だけど、名前は知られてない。染井にいたらしいのだけど(だから染井吉野)。
 桜ってどれを撮っても一緒なんだよねと思いがちだけど、実際そうなんだから仕方がない。うちの近所に咲いてるやつも、ワシントンD.C.のポトマック河のほとりに咲いてるやつも同じものだ。

 クローンという言葉はあまりいい響きではない。クローン人間、クローン羊、クローン牛など、耳にするニュースはネガティブなものがほとんどだ。
 自分のクローンがいたらどうなんだろうと、多くの人が空想したことがあるんじゃないだろうか。しかし、よくよく考えてみると、今更自分そっくりのクローンが誕生することはないのだ。理論的にはほぼ間違いなく可能だろうし、その気になればすぐにでもできるのだけど、どこかの研究機関に自分の遺伝子を持って行って、じゃあこれお願いしますと出して、それでは一週間後に引き取りに来てください、という話には決してならない。
 ん? どういうことだ? と思うだろうか。いや、だって、遺伝子を培養して育てたらむくむくと大きくなって一週間で自分の原寸大になるはずがないではないか。そりゃそうだ。もし作るにしても、(くわしいやり方は分からないのだけど)きっと卵子とかに受精させて、人間のお母さんのおなかで10月10日かかって生まれてこなければならないんだと思う。そこをショートカットして、いきなり20才なり30才なりの自分を作り出せるわけではないはずだ。今のクローン技術や理論では。
 ということはつまり、現在自分が20才だとして、20才の自分のクローンを作るためには20年かかるわけで、そのとき自分は40才になっている。だから、自分とそっくり同じクローンが目の前に現れることはない。
 それに、母親も育った環境も時代も違うとなれば、まったく同じ人間にすることは不可能だ。クローンは自分のコピーというわけではない。
 クローン問題、終了。
 って、それでいいのか!? まあ、これ以上は長くなるのでまた別の機会に。

 ソメイヨシノは確かにクローンだけど、だから価値が下がるというわけではない。毎年私たちに季節を知らせ、花の美しさと潔さを見せて楽しませてくれる。
 私もソメイヨシノが大好きだし、これを毎年見るためだけでも長生きする意味があると思っているくらいだ。
 けど、ソメイヨシノの寿命は長くて60年といわれている。これは桜の中では短命な方だ。エドヒガンなどは樹齢数千年といわれるものもけっこうある。そこにクローンゆえの悲しみを少しだけ感じる。
 そして、ソメイヨシノは人間の滅亡と共に滅びる桜であるという言い方もできる。自分では子孫を残せないのだから。
 目を閉じて想像すると、人が滅んで60年後、老木となった最後のソメイヨシノの花びらが一斉に舞って、ひとけのないあたり一面をピンクに染める中、もの言わぬ生き物が静かに佇んでる光景が見えるような気がする。そいつは私の代わりに涙を流してくれるだろうか。

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