 Canon EOS D30+TAMRON 28-80mm(f3.5-5.6), f4.5, 1/500s(絞り優先)
深夜に何度も窓を開けて外を見た。雪はいっこうに降り止む気配を見せず、果てることなく空からゆっくりと音もなく落ち続ける。そして朝、ドアを開けるとそこは雪国だった。 なんだこの景色、こんなの見たことないぞ。川端康成もびっくりして更に目をむいてしまいそうな光景がそこには広がっていた。こんなに降っちゃありがたくない。おなかが空いていて大盛りを注文したら予想以上の山盛りで丁重にお返ししたくなったような気分だ。天の雪降らせ担当者、居眠りでもして止め忘れたか? 名古屋でこんなに降らせちゃいけないよ。23センチはちょっと多すぎ。 でも58年ぶりってことは、こんなに名古屋で雪が見られるのは最初で最後かもしれない。そう思えば、いいもん見せてもらったと有り難くちょうだいしておくべきか。これで冥土のみやげもできたってもんだ。まだその予定はないけど。
大雪の記憶は、高校1年のときと、大学3年のときが記憶に残っている。大喜びで雪合戦をした高校の思い出と、大学のときはテストの帰り道、本山交差点でシビックが坂道を滑りまくって死ぬかと思った。わー、止まらなーい。これがハイドロプレーン現象なのか!? と思いながら滑りにすべってギリギリ助かった。 それ以外にも覚えてる雪の日はいくつかあるけど、いい思い出というのは特にない。道で滑って転んだ女の子を助けてそれがきっかけでつき合うことになった、なんて都合のいいことが起こるはずもなく、せいぜい自分で勝手に転んで女子高生に笑われたくらいだ。雪の日に革底の靴を履いちゃいけないよ。
もうひとつ雪で印象深いのは、高校の修学旅行だ。私が行っていた貧乏学校は、こともあろうに修学旅行は岐阜県の高山でスキーだったのだ。隣の県なんて近すぎるだろう。しかもスキーって! 雪を見たこともない沖縄の高校生なら喜ぶかもしれないけど、何が悲しくて修学旅行でスキーなんかしなくちゃいけないんだ。断固反対を訴えた私だったが(心の中で)、周りのみんなは楽しみだみたいなことを言ってるではないか。ウソ〜ん。イヤ〜ん。反対してるの私だけ? そんなはずはぁ。 私がスキー好きだったら問題はなかった。一度でも経験していればなんてこともなかっただろう。しかし、スキーなどやったことも、やろうと思ったこともなかった私にとって、はじめてのスキーが修学旅行というシチュエーションに大いなる不安を覚えたのだった。当時の私はカッコ悪いところを人に見せたくない年頃で、人前で転ぶ自分なんて許せなかった。 しかし、不安を覚える一方、私はスキーというものを軽く考えていた。侮っていたとさえ言える。2、3時間も練習すれば私のことだ、それはもうすいすいに滑ってるに違いない、ハハハ、キミ、楽勝だよ、楽勝、ってな感じだった。気分はもう雪上のアメンボ野郎。アメンボ赤いなあいうえお、発声練習もぬかりない。 スケートは大須スケートリンクに小学校のときから通っていて自信があった。バックでも滑れるようになっていたし、転ぶことなんてめったになかった。チビの伊藤みどりがリンクの中央でくるくる回ってるのを見たことがあったし、そのとき外で「伊藤みどり」と名前の書かれた自転車を見つけてサドルにまたがったこともある。だから、スケートが得意の私がスキーが滑れないなんてことはあり得ないと思っていた。 しかし、3日間の最終日に私は思った。スキーは好きーじゃない、と。 ……。 私にとってスキーはものすごく腕の疲れるスポーツだった。なぜって? 足で曲がれないもんだから、ストックで強引に方向転換しようとして腕への負担がとても大きいからですよ。両腕超筋肉痛。友達に言ったら、おまえ、それは根本的に間違ってるぞと言われた。私もそう思う。 スケートで鍛えていたからとりあえず左には曲がれるようになった。スケートリンクでは常に左回りだから。でもどうやっても右へ曲がれないのだ。その感覚が分からない。行く前は、板をそろえてピョンピョン跳びはねるように滑ってる自分の姿が確かに想像できていたのだが。おかしい。こんなはずでは。 自爆で転ぶだけならともかく、見ず知らずの他人に突っ込んで巻き沿いを食わして叱られ、後ろから滑ってきた人に気づかず急に方向を変えたら、私の板に乗って3メートルほどジャンプして向こうで誰かが頭から雪に突っ込んでもがいている。え? 私のせい? 助け出すほど器用に滑れないので離れたところで笑ってたら、友達が怒って雪から出てきた。 あれ以来、一度もスキーはやっていない。でもあれを生涯最後のスキー体験にしてしまうのはちょっと悔しい。いつかまた行きたいという思いもある。誰か私をスキーに連れてって。左曲がりの三上博史と呼んでもらってもいいと思う。
この冬はまだ雪が降りそうだ。そのときこそ、今までの雪の思い出を全部吹っ飛ばすくらい素敵な思い出を作りたいと思う。雪の降る日、首にマフラーを巻いて斜め上を見上げながら微笑むメガネの男が名古屋市内を練り歩いていたそれは私の可能性があります。見かけたら、チュンサン? と優しく声をかけてください。

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