 Canon EOS D30+EF75-300mm(f4-5.6), f5.6, 1/30s(絞り優先)
木の上に引っかかった凧を久しぶりに見た。かつてはよく見かけた光景だけど、ここ最近はまったくといっていいほど見なかったから、なんだかとてもなつかしく感じた。私自身、もう20年くらい凧揚げはしてないだろう。 私たちが子供の頃は、誰もがお正月には凧揚げをしたものだ。もやしっ子も、女の子も、老いも若きも。ちょうど小学生のとき、ゲイラカイトが大ブームになった。ゲリラカイト? なんだそれ? 過激派か!? などととぼけたお年寄りを驚かせた例のあれだ。正式名は、セミフレクシブル・ソアリング・デルタということをさっき知った。なんですか? お年寄りというほどではない私でもそれは覚えられないぞ。そんな名前だったのか。 冬休みに入る前、凧揚げは広いところでやりましょうとか、電線に引っかかったら感電するので電柱に登って取らないように、などという注意事項があったことを覚えている。実際、鉄塔に登って感電して死んだ人なんかもいたりして、大げさな話でもなかったのだ。テレビでも電力会社からそういうメッセージが流れていたと思う。正月明けはそれで電線マンは何度も出動させられていた。 ここ10年くらい、凧を揚げてる人の姿を見てないような気がする。田舎でも見ないし、名古屋の公園でも見かけない。まったくやってないことはないんだろうけど、とにかく流行らなくなったことは確かだ。何年生まれくらいのところで凧を揚げられる人間と揚げられない人間の境があるんだろう?
凧の発祥は中国だとする説が有力だ。春秋時代とも紀元前300年頃とも言われ、記録に出てくるものとしては、紀元前200年くらいの韓信というおっさんのエピソードが初登場とされている。敵の城を攻めるときに凧を作って揚げて、その糸の長さで距離を測ってトンネルを掘って、攻め落としたんだそうだ。それがはじまりのはじまりでもないだろうけど、最初は軍事目的だったというのは想像がつく。遊びとして揚げられるようになったのはずっと後のことだろう。 紀元前100年頃には紙の凧が作られるようになり娯楽の要素も加わって、朝鮮から日本、東南アジア、南太平洋諸島、アジア大陸からヨーロッパ、アメリカ方面に伝わったようだ。 ただ、ポリネシアやソロモン諸島などにはヤシやバナナなんかの葉を使った原始的な凧が今でもあるそうだから、必ずしも中国で発明されたものではなくて、同時発生的に世界のあちこちで生み出されたものなのかもしれない。 日本に凧が伝わったのは、平安時代かその前くらいだったようだ。日本でも当初は武士や公家の武具として使われたらしい。庶民が揚げるようになったのは鎌倉時代からで、端午の節句に祝凧として揚げられるようになったことで一般に定着するようになった。庶民の遊びとなったのは江戸時代になってからだ。何しろ平和でやることがないから、江戸時代の人たちはいろんな遊びを考えた。江戸には多くの凧職人が生まれ、参勤交代で地方からやってきた武士が地元に持ち帰ったことで日本中に凧ブームが巻き起こることになる。ケンカ凧でホントのケンカになったり、火がついた凧が江戸城に落ちて大問題になったりで、凧揚げ禁止令もたびたび出されるほどブームは加熱したようだ。 その後時代は明治、大正、昭和と新しいものが喜ばれる時代になり、凧は少しずつ衰退していった。平成の今は見る影もない。このまますたれてなくなってしまうには惜しい。
ところでタコは元々イカだった。しっぽのヒラヒラがイカっぽかったのでそう呼ばれていたのを、意地っ張りの江戸っ子が、関西でイカならおいらたちはタコと呼ぶぜこんちくしょうとか言い出して、そこからだんだんタコになっていったようだ。タコアゲってのも考えてみると語感としてはちょっとヘンだけど、イカノボリってのもなんか気が抜けている。ずっとイカのままだったら違和感はなかったのかもしれないけど。 タコは漢字で書くと凧。これは中国から来た漢字ではなく日本で生まれた文字だ。風がまえの中に布を意味する巾が入ってるというのは言われてみると当て字っぽい。中国では風箏と表記するそうだ。 英語のkiteはとんびが語源で、ドイツ語は龍、フランス語はクワガタムシ、スペイン語は彗星、ポルトガル語はオウム、ロシア語はヘビを語源とする言葉が凧となっているんだとか。ここまでそれぞれの国でイメージがバラバラな言葉も珍しいんじゃないだろうか。
日本ではすっかり流行らなくなった凧だけど、伝統を守るという意味での凧揚げは今でも冬の風物詩として各地で行われている。新年のニュースでもよく見かける。百畳の大凧だとか、連凧だとか、ケンカ凧だとか。 形もいろいろあって、四角だけでなく、菱形、六角形、セミ、イカなどがあって、種類としては300種類もあるんだとか。各地の代表的な伝統凧として、江戸凧、津軽凧、六角凧、ケロリ凧、浜松凧、わんわん凧、土佐凧、八角凧などがある。 凧揚げ大会は日本各地だけでなく、世界各国で行われていて、それぞれ活況を呈しているそうだ。世界中を回れば、一年中休むことなく凧揚げ大会に出ることができる。もしかしたら、凧揚げだけで食っているプロという人もいるのかもしれない。 私とは関係ないところでみんなこっそり凧揚げしてたのね。私も誘って欲しかったよ。でも、おい、新人、思いっきり走れ! とか言われて、ハイっ! と勢いよく走り出したはいいけど、50メートルもいかないうちに足がもつれて顔面から地面に落ちそうな悲しい予感。なにやってんだ、おめぇ、使えねえな! とか言われて即クビ。正月早々、ひとりぼっちの私。そんな未来予想図が見えるから、やっぱり凧揚げに誘われても理由を付けてお断りしよう。すみません、ボク、四十肩で腕が上がらないんですよ、とかなんとか言って。それでも許してもらえなければ、ヒザに爆弾を抱えてることにしよう。 でももし、河原でひとり、左手でゲイラカイトを揚げながら右手に持ったカメラで嬉しそうに写真を撮っている男がいたら、それはきっと私です。だからといって、凧揚げ大会に誘うのはやめてくださいね。

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