 Canon EOS D30+EF28-105mm(f3.5-4.5), f4.0, 1/10s(絞り優先/三脚)
食パンが好きですか? そう問われたら、ノーと言える日本人になりたい。目をしばつかせながら。 実際、日常的にほとんど食パンは食べない。せいぜい年間5枚くらいだと思う。パンが嫌いなわけではない。菓子パンはほとんど毎日食べているからむしろ好きな方だ。何故食パンを食べないかといえば、単純に美味しいという印象がないからというのが第一の理由になる。美味しく仕上げるには手間暇がかかるからと言い換えてもいい。バターを塗って、トースターで焼いて、食べれば粉がぼそぼそ落ちて邪魔くさいことこの上ない。ジャムは垂れるし、ピザトーストは具が落っこちてきて手が汚れる。ええーい、トーストめ、こうしてくれる! と、かんしゃくを起こしてブーメランのように7階のベランダから放り投げたくなる。 というのはウソだけど、手間を考えるとどうしても敬遠しがちになるのは確かだ。それより手っ取り早い菓子パンを買って食べてしまう。 それからもうひとつ、食パンに対して好意を寄せていない理由として、給食でさんざん食べたからというのもあるのかもしれない。よく覚えてないのだけど、私が小学校の時はほぼ毎日食パンだったような記憶がある。しかも、袋入りのマーガリンをつけて生のまま食べさせられるもんだから、あれはとてもじゃないけど美味しい食べ物とは言えなかった。それなら家からジャムでも持っていけばよさそうなものだけど、幼い頭ではそこまで気が回らなかった。あれで食パンへの印象は早い段階で決定的に悪くなったんじゃないかと思う。食パンと私との不幸な出会い。
あれから多くの時が流れ、私も食パンの味が分かる年頃になった(食パン適齢期はもうとっくに過ぎていやしないか?)。GHQが押しつけた小麦粉の野郎め、といういきどおりの気持ちも和らぎ、そろそろ食パンとの和解交渉のテーブルについてもいい時期だろう。ここらで私食平和条約を締結して、末永い友好関係を築きたい。 これまでの悪いイメージを一気に吹き飛ばすには特別に美味しい食パンでなければならない。そして今回選んだのが、天白区の原にある「パン工房 小麦館」の食パンだ。どうしてここにしたかというと、特に深い理由はない(なんだ、それ)。ネットで近所のパン屋を検索したらここが出てきたからに過ぎない。でもなかなか評判はよさそうだ。さっそく出向いて買ってきた。 買ったのはいいけど、これ、大きすぎないか、私? 何も考えずに置いてあったものを手にとって買ったんだけど、660円です、と言われて高いもんだなと思ったが後には引けず、小脇に抱えて家に持ち帰り、あらためて部屋で見てみたら、やはりでかい。これまで年間5枚しか食べてなかった私がいきなりこの量は食べきれるのだろうか? これまでの消費量からして3年分くらいありそうではないか!? でも買ってしまったからには食べるしかない。で、食べてみた。まずは基本として、トーストにしてバターのみで。ひとくち、ふたくち目は、ん? 薄い? というものだった。かなりあっさり味だ。でも、更に食べ進めてみると、これは非常に上品な味だということが分かってきた。スーパーなんかで売ってるのとは方向性がまるで違う。食べるほどにほのかな甘みが口の中に広がり、これは旨いなとなってくる。変にクセがなくて、自己主張がきつくないところがいい。適度なふわふわ感とサックリ感がほどよく調和していて、全体として破綻したところがない。仕事もできて、上司や同僚、後輩からの受けもよく、誰にでも好かれる爽やかヤングリーダーみたいな食パンだ。若大将食パンと名づけよう。 最初高いと思った660円も、3斤でこの値段ということは1斤220円だから、むしろ他より安いくらいだ。 用意したジャムも必要ないまま一気に完食してしまった。食パンがこんな美味しいものだったとは知らなかった。何故、給食のとき、これを出してくれなかったんだ、名古屋市のばかー、と思った。これなら毎日でも食べて3斤なんてすぐになくなってしまうだろう。カモにあげる耳さえ残らない。もちろん、和平条約にも判を押した。 ここに私と食パンとの長く冷え切った関係は終わりを告げ、あらたなる友好関係の第一歩を踏み出したのだった。
ところでこの山型をしたパンをイギリス食パンと呼ぶことを今回初めて知った。産業革命の頃、イギリスで作られたからそう呼ばれるようになったんだとか。焼くときにフタをしないで焼くとこんなふうに上がふくらんだ形になって、トーストにしたとき、カリカリ、サクッとした食感が楽しめる。 真四角をしたものは、サイコロ食パンとかプルマンブレッドとか呼ばれ、アメリカで生み出された。フタをして焼くと四角になって、キメが細かくなり、しっとりした食感になる。 それぞれ好みの問題だけど、私は山型の方が好きだ。関西人は一般的に四角を好むらしい。もちっとした食感のものが好きだからだそうだ。たこ焼きとかうどんとかと同じように。 関西といえば面白いのが、関西の食パンは厚切りだということだ。1斤5枚切りや4枚切りというのがよく売れるんだとか。それに対して関東は8枚切りの薄いものが好まれるようだ。中間の名古屋はどうかというと、6枚が多いらしい。ホントかどうか詳しくは知らないけど、確かにモーニングとかで出てくる名古屋の食パンはそれくらいの厚さのものが多い気がする。 もうひとつミニ情報として、食パンの斤という単位は、長さではなく重さの単位だ。350〜400グラムくらいが一般的に1斤とされ、公正競争規約で340グラム以上と定められている。
そんなわけで、ぜひ近所の人は「パン工房 小麦館」の食パンを買って食べてみてください。そして次の日の朝、食パンをくわえたまま遅刻気味に家を飛び出して駅やバス停まで走ってみてくださいね。わー、遅刻、遅刻ー、と声に出しながら。素敵な女子または男子とぶつかって、そこから恋が生まれる……かもしれませんよ。もし、どうしても誰にもぶつかれない場合は私に言ってください。あなたの街の曲がり角に隠れてスタンバイしておきますので(男子は不可)。

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