現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
コハコベで幕を開けた2006年春の野草シーズン 2006年2月3日(金)
2006年02月04日 (土) | 編集 |
コハコベが知らせる春

FUJIFILM FinePix S1 Pro+TAMRON 28-200mm XR(f3.8-5.6)+MCON35, f5.6, 1/6s(絞り優先)


 春を探して海上の森2005番地。
 1時間ほどさまよい歩いて、ようやく日没後に見つけたのがこのコハコベだった。やっと春の野草があった。なんだよ、こんなところにいたのかい。探し回っちゃったよ。灯台もと暗し。遠くの親戚よりも近くの他人。家の中の盗人は捕まらぬ。森の入り口近くに春はいた。
 あまりにもありふれた野草で、あとひと月もすればまったくありがたくもなんともないコハコベも、2月に咲いているとなると話は違ってくる。3歳でしゃべる子供は当たり前だけど、1歳から流ちょうな日本語を話す赤ん坊はすごいのと同じだ(同じか?)。

 写真で見ると大きく見えるけど、実はこれ、かなり小さい。5mmくらいしかない。クローズアップレンズで撮ってるからこんなふうに写ってるだけで。この時期、こいつを見つけようと思うと、かなり地面に注意しながら歩く必要がある。このときの私を後ろから見ている人がいたら、かなり怪しい人と見えたかもしれない。異常にキョロキョロ地面を探しながら歩いてる人となっていたから、気の毒にあの人何落とさはったんやろかぁ、と思っただろう。何か食いもんが落ちてないか探し回る腹を空かした野良犬みたい、と自分でも思った。
 それにしても、海上の森にまだ春は訪れてなかった。目当てだったオオイヌフグリも見つからず、ホトケノザも咲いてなかった。他のところでは咲いてるという便りもあったから期待してたんだけど、ちょっと気が早かったようだ。2週間くらいしたら出直そう。

 これをコハコベだと確信できたのは、この前買った「野に咲く花」のおかげだ。去年までコハコベとミドリハコベの区別がはっきりつかなかったけど、今年は心強い味方を得て分かるようになった。よく似たウシハコベやノミノフスマとの識別だってできてしまう。コハコベは茎が紫で、ミドリハコベは茎が緑色、ウシハコベだけは花柱(真ん中の小さな白いベンツのマークみたいなやつ)が5個、ノミノフスマは花弁がガク片よりも長くて毛がない。うーん、マンダム(アゴをさすりながらつぶやいてみる)。もし、このあたりで区別がつかないときは私に訊いてください。でも、じゃあ、ミヤマハコベやオランダミミナグサの区別はどうなんだよ、ついてないっていうならその場で飛んでみろよ、などと責めないでください。泣いてしまうので。紅はこべはどうなんだ?

 コハコベとミドリハコベは春の七草のひとつだ。あとの6つは覚えるたびに忘れてしまう。セリ(芹)、ナズナ(薺)……、えーと、それから、ごにょごにょごにょ。あらためて調べてみたら、ゴギョウ(御形)、ハコベラ(繁縷)、ホトケノザ(仏の座-正しくはコオニタビラコ)、スズナ(菘)、スズシロ(蘿蔔)だった。またすぐに忘れそう。
 ミドリハコベは在来種で、コハコベは明治時代(大正時代という説もある)にムギ類にくっついてやって来た帰化植物らしい。日本製と外国製がこんなにも似てるとは不思議なこともあるもんだ。なんでもハコベは世界中いたるところにいて、仲間が100種類以上もいるんだそうだ。そこまでありふれた野草だったのか、ハコベめ。そこまでいくとむしろ偉いぞ。世界には変わった人間もいるから、このハコベを求めて世界中を回ってる人もいるかもしれない(たぶん、いないな)。
 昔は食べるものがなかったときに食用とされていたらしい。柔らかい葉っぱの部分などを、ゆでたり、炒めたり、刻んだり、揚げたりして。体にもけっこういいというから、今度機会があったらやってみてください。塩を加えて歯磨き粉にもなるという話だ。歯磨き粉も買えないくらい貧乏になったらやってみよう。
 小鳥の好物みたいで、これを餌に混ぜてやってもいいんだそうだ。ヒヨコグサやスズメグサと呼ばれることもあったり、正岡子規も、「カナリヤの 餌に束ねたる はこべかな」と詠んだりしている。

 ハコベはハコベラの省略した呼び名で、語源ははっきりしないらしい。「波久倍良」という表記が変化したものではないかという説や、葉の配列がいい感じで、葉配りが利いている、葉配り、ハクベラ、ハコベラ、ハコベとなっていったという説もある。
 中国名は「繁縷」で、茎が縷(糸)のように繁る様子から付けられたのではないかと言われている。英名のchickweedはニワトリの雑草の意味で、学名のStellariaはギリシャ語の星形を意味するStellarisからきているという。
 こんな小さな雑草だけど、ググッと至近距離まで迫ってみれば、なかなか面白い背景や歴史があるもんだ。そうやってお馴染みになると、もう安易に踏みつけたりはできなくなる。しかし、農家さんにとってはけっこうやっかいもののようで、畑に生えると引っこ抜かなくてはならないらしい。その引っこ抜いたやつは、食用として一ヶ月一万円生活でいつも負けている濱口マサルさんにあげて欲しいと思う。それでも彼はまた負けるんだろうな。

 いよいよ春が間近に迫り、私の下を向いてのキョロキョロ歩きはますますエスカレートしていくことになる。前を向いてなくて木にぶつかったりする回数も増えていくだろう。そして何かを見つけたら、落とし物をやっと見つけ出した人のように嬉しそうに駆け寄ってしゃがみ込み、何やらゴソゴソしてる人となる。そんな私の後ろ姿を見た人は、落としたコンタクトレンズを探しているのかしら、と思うかもしれない。そのときは脅かさないように優しく声をかけてください。コンタクトですか? と。すると私は、あ、いや、使い捨てなんで、大丈夫です、はは、と愛想笑いを浮かべてザリガニのように後ずさっていくでしょう。顔の前で手を左右に振りながら。決して深追いしないでください。

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