現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
フランスパンを食べてアゴ勇のようになろう 2006年2月22日(水)
2006年02月23日 (木) | 編集 |
久々にフランスパン

Canon EOS D30+EF50mm(f1.8), f2.5, 1/30s(絞り優先)


 食パンを買おうとパン屋さんに入ったら、そこはフランスパン屋さんだった。ん? そうだったかな? そんな話聞いてないぞ。見渡してみたところ食パンの影も形もない。あるのは見慣れない手作りパンばかりだ。その中で唯一知っているフランスパンが目に止まった。むむっとうなって、フランスパンを手にとった私は、さも最初からこれを買うつもりで入った人を演じつつニコやかに代金を払って店をあとにした。フランスパンなんて金輪際食べる予定はなかったのに。
 フランスパンに対して抱いている私のイメージはただひとつ、固い。それしかない。お洒落だとかどうだとかフランス人がどうだとか、そんなものは二の次三の次だ。もし私が総入れ歯なら歯全部持っていかれるに違いないという思い込みはフランス人に対して失礼に当たるだろうか。しかし、思い出の中のフランスパンは異常に固かった。もう二度とこんなもの食うかと思った少年時代。それが何の因果か数十年ぶりの再会となった。あ、お久しぶりです、フランスパンさん。元気でしたか? トントンと軽くノックしてみると、記憶の中にあるのと同じ固さで答えてくれた。やっぱりか!

 買ったからには食べるしかない。肩たたきにさえ使えそうだけど、そんなことをしている場合ではない。思い切ってひとくち。む! 固い!? いや、でもない? 思っていたより柔らかい。確かに表面は固いものの、中は意外としっとりしている。これならいけるかも。少年時代の私はまだアゴが発達してなかったから固すぎると感じたのか。大人になった今ならフランスパンに太刀打ちできる。いざ尋常に勝負、勝負。そんな大げさなものか?
 最初味気ないと感じるけど、噛んでいるうちにほのかな塩味が口の中で広がって美味しく感じられるようになってくる。うん、これはいい。ただ、何も付けずに生で食べるのは限界がある。途中からトーストに切り替えた。ますますカサカサになるけど、バターやピーナツバターを付けたらとても美味しくなった。フランスパン、いいじゃないか。後を引くというかクセになる味だ。食べ終わってまた食べたくなった。
 とはいえ、アゴ疲れるな、これ。このまま毎日フランスパンを食べ続ければ私も、綾瀬はるかのアゴを手に入れらるだろうか? それとも、荒川静香のようなエラが手に入ってしまうのか!?
 フランス人はフランス料理で柔らかいものばかり食べてるくせに、よくこんな固いものが食べられるなと感心する。食事で噛まない分、フランスパンでアゴを鍛えてるのかもしれない。

 ところで、当たり前のことだけど、フランスではフランスパンをフランスパンとは呼ばない。私たちが米を日本米と呼ばないように。向こうでは、ペン・トラディシオネル(pain traditionelle)とか、ペン(pain)と言ってるそうだ。そして形によっていろいろな呼び名がある。ドゥ・リーブル、バタール、バゲット、パリジャン、フィセル、エピ、フォンデュ、クペなど。フランスへ行って、フランスパン・スィル・ヴー・プレ、などと言っても出てこないので気をつけたい。
 フランスパンというのは、小麦粉と塩と水とイーストだけで作られたシンプルなパンのことを言う。フランスで収穫される小麦にタンパク質が少なくて、これでどうにか美味しいパンを作ろうとしたことで生まれたんだそうだ。材料がシンプルだから、私たちでもフランスパンは簡単に作れる。ただし、美味しく作るのは他のパンよりもずっと難しい。卵や乳製品などを一切使わないから均一に発酵させることが困難になる。そこが職人さんの腕の見せ所というわけだ。
 本場フランスで食べるフランスパンは日本のものほど固くないというけど本当だろうか。フランス人が日本で食べるとこれは固すぎるぜ、メルド! となるらしい。実際のところは知らない。セーヌ川のほとりでフランスパンを食べたこともないし、フランス人とは話したことはもちろん見たことさえないから。話によると、フランス人は日本人が米好きなのと同じくらいフランスパンが好きで、毎日買って食べてるらしい。朝はカフェオレ、昼はサンドイッチ、夜はディナーで。もしかしたら、柔らかいイギリスパンなんかは軟弱者の食べ物と思ってるのかもしれない。

 フランスパンの食べ方に関しては、今後研究していく余地がたくさんある。普通にバターやジャムで食べるだけでなく、おかず方面でも美味しい食べ方がたくさんありそうだ。ハム、マヨネーズ、コーン、ツナ、そんなあたりがパッと思い浮かぶ。ピザ風にしてもいいだろうし、夕飯のおかずをそのまま乗せてもいけそうだ。食パンと違って固いから、何でも上に乗せられる。
 一日経って固くなったときは、スライスして霧吹きをかけてからトートとで焼くといいらしい。
 フランス人にならってカフェオレにつけて食べる日曜の午前なんてのもいい。どこに出かけるときは、カバンからさりげなくビヨ〜んと出しておきたい。そして、おもむろに電車の中とかでちぎって食べたりして。うーん、トレヴィア〜ン。

 このフランスパンを買った尾張旭市の「ポルカ」というパン屋さんは、なかなかに評判がいい。単に美味しいとかそういうことではない。まず休みが月曜と火曜というのが素敵。そこで週休二日を持ってくるか。営業時間もお昼頃からという大らかさ。そしてよく休んでいる。もちろん突然だ。店の前を通ると、3回に1回くらいしか開いてないような印象がある。
 常連さんによると、いつ行っても違うパンがあって楽しいそうだ。その反面、お気に入りのパンを見つけても、次にいつそのパンと出会えるかはまったく分からないのだという。時間帯によって並ぶパンの顔ぶれががらりと変わってしまうとか。ちょうど私が行ったときはフランスパンの時間だったようだ。だから、いいタイミング行けば食パンも買える。ただ、そのいいタイミングがいつかというのは予測がつかないのがちょっとだけ困るといえば困る。
 なんて素敵なパン屋さん。それでも11年目というから大したものだ。生地からフィリングまですべて手づくりで、天然酵母、イースト、菓子パン、惣菜パン、食パンまで、これでもかってほどの種類を朝の5時から作ってるという。それなのに店が開くのはお昼から。きっと、パン作りが楽しくて、朝から晩までいろんなものを作ってるのだろう。同じパンを2回買えないことくらいで文句を言ってはいけない。
 次に行ったときは食パンが買えるだろうか。フランスパンも美味しかったけど、また2、3年、アゴを休めたい。

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