現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
うつむくチゴユリといつか正面から向き合いたい 2006年4月14日(金)
2006年04月15日 (土) | 編集 |
チゴユリ咲き始め

Canon EOS 10D+TAMRON SP 90mm(f2.8), f3.5, 1/40s(絞り優先)


 スプリングエフェメラルたちが帰り支度を始めるころ、林の中ではあらたな花たちが出番を待ちかねたように咲き始める。写真のチゴユリはその中のトップバッターと言っていいだろう。しかし、立ち居振る舞いはいたって地味で謙虚。トップバッターというより二番セカンド小坂みたいなやつだ。
 やや暗めの林の中でうつむきがちに咲いているチゴユリは、普段のスピードで歩いてたら見逃してしまいそうになるほど華やかさとは無縁だ。街で小坂に会っても分からないように。地面に近いところで下を向いて咲いてるから、少し離れるとまったく目立たない。正面からご対面をしようと思うと、腹ばいのほふく前進スタイルでもまだ足りず、あお向けになって逆方向に見上げる格好をしなければならないほどだ。このチゴユリに、てめぇ、今ガンつけたなっ! とケンカを売るのは80年代の気合いが入ったヤンキーでも難しい。
 そんなわけで、写真も本当はもっと下から撮りたかったんだけど、ファインダーをのぞいての手持ちではこれが限界だった。ビニールシートも持ってないし、アングルファインダーなんて気の利いたものはもちろん持ってない。服がドロドロになってもチゴユリ撮ってやる、というほどの気合いは持ち合わせていない私であった。まだ咲き始めということで花も少なく、選択の余地はなかった。もう少したくさん咲いてくると、多少上向きの花も出てくるだろう。

 北海道から本州、四国、九州、朝鮮半島、中国あたりに分布する多年草で、平地から低い山の林の中で咲いている。図鑑などの説明では明るい林と書いてあるけど、私の印象としてはやや暗くて湿ったところで見かけることが多い気がする。それも写真を撮るのを難しくさせるひとつの要因となっている。
 地上10センチ、葉を入れた全体の大きさは20センチくらいと小さくはないのだけど、花自体は1センチくらいないので、小さい花というイメージがある。
 4月から5月にかけて茎の先に通常1個の白い花をつける(2個の場合もある)。6枚の花びらに見えるものは内側の3枚が花びらで、外側の3枚はガクだ。ヤマユリなんかも同じ構造をしている。ただし、チゴユリは球根ではないので普通のユリとは違う。
 名前の由来は、小さいユリみたいということで稚児みたいな百合というところから来ている。英名がないところをみると、あちらでは知られていないものなのだろう。
 秋には深い藍色の小さな実がなる。

 こんなに小さくて可憐な姿をしてるから、か弱くて人が守ってやらなくてはならないのではないかと思うと、意外にしたたかで繁殖力も強い。咲いているところでは家の庭でも勝手に群生してるそうだ。人も花も、守ってあげたくなるような見た目をしてると、必要以上に大事にされることがある。そんな女の子のことを、あの子ってチゴユリっぽいよね、とどこかで使ってみたい。野草に興味のない人に言っても、何それって言われるだろうけど。
 繁殖力が強いのは二段構えの戦略によるものだ。実が種になってその場でまた咲いてくるのに加えて、地下で茎を伸ばしてその先で芽を出して増えていく。それは自分の子供というより分身で、毎年自分自身で生まれ変わっているとも言える。そうやって自分を確保しつつ種でも増えるから、なかなかなくなることはない。ただ、種子での発芽確率は高くないようなので、爆発的に増えることはないのだろう。
 毎年見てる人なら、咲く場所が移動してることに気づくかもしれない。それは、地下で伸びて、芽が出たら古い自分を消してしまうからだ。

 このチゴユリが咲いていた豊田市自然観察の森は、まだ春本番を迎えてなかった。桜が散り始めたらすぐに春真っ盛りだと思い込むのは間違いだった。蝶もトンボも残念ながら出会うことができなかった。今日は日差しが弱くて気温も上がらなかったからだろう。
 豊田市自然観察の森のベストシーズンは5月と6月。この時期は一歩歩くごとに目の前で何かの生き物が動く。蝶やトンボ、なんだか気味の悪いものや、ハチやハエや鳥やカエルや、ときにはヘビなんかも。蚊や小さな羽虫もすごいことになっている。そこはまさに昆虫天国。あるいは人にとっては昆虫地獄と言うべきか。クモの巣が顔中に貼り付きまくる季節まであと少し。また汗だくになることを思ってもちょっと気が重くなる。
 どんな季節もいいことと悪いことがあるけど、春から初夏はやっぱり楽しみが多い。今年も初めての出会いがたくさんあるといいなと思う。

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