現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
胸にどーんと来た、東野圭吾『秘密』 2006年4月18日(火)
2006年04月19日 (水) | 編集 |
東野圭吾秘密

Canon EOS 10D+TAMRON SP 90mm(f2.8), f5.0, 4.0s(絞り優先)


 このブログを始めたのは去年の9月。それから毎日書いてるのに本についてはこれまでほとんど書かなかった。たまには本について書こうと思う。
 私のことを牛乳瓶の底のようなメガネをかけた文学少年だったに違いないと、もしあなたが思っているとしたら、それは大きな間違いです。だいたい、きょうび、牛乳瓶の底のようなメガネなんて売ってないし、瓶で売ってる牛乳を見たことがある若者はあまりいない。
 小学校の頃はいつもみんなと外で遊んでたし、中学はテニス部で、高校は仲間とダラダラ過ごすという普通の少年だった。本なんてまるで興味がなく、本を読んでる人間をなんだそれと思ってさえいた。夏休みの読書感想文も、「宝くじ必勝法」という本で2年連続書いたくらいだ。
 そんな私が本を読むようになったのは大学に入ってからだ。あまりにも時間を持て余してしまって、しょうがないから本でも読むかと思ったのが始まりだった。
 太宰治から始まって、世界文学に流れ、日本の純文学に戻り、海外ミステリ、SF、詩、日本人作家、国内ミステリと変遷し、今に至っている。全盛期は一日200ページをノルマに読んでたけど、今は月に2、3冊しか読んでいない。広く浅くは読んでるだけで、本物の読書野郎ではないということだけはここに言っておきたい。って、誰に?

 前置きが長くなった。今日は東野圭吾の『秘密』について書こうと思う。といっても、東野圭吾と個人的に親交があって、誰も知らない彼の秘密を握ってるんですよ、フフフ、とかそういうことではない。『秘密』という作品についてだ。知ってるって? 広末涼子主演で映画になったので、そちらを観てる人は多いだろう。
 なんで今さらその原作本を読んだかといえば、この前直木賞をとったことと、ドラマ「白夜行」の原作者ということで東野圭吾のことを久々に思い出したところへもってきて、「Book off」の100円コーナーでこの本を見つけたからだ。作品との縁というのはそういうものだ。
 映画についてはあまり印象がよくなったので、この原作も最初は期待してなかった。実際、前半は軽い気持ちで読み進めて、まずまずだなくらいに思っていた。これはもしかするとすごく大切な作品になるかもしれないと思い始めたのは、中盤から後半にかけてだった。気づいたらすっかり引き込まれて夢中になってどんどん読み進めて止まらなくなり、寝る時間になって途中でやめたもののどうにも寝付けず、また電気をつけて最後まで一気に読んでしまったのだった。
 そして、読み終えた後、あまりにも切なくて悲しくて、まったく眠れず、次の日も自分の悲しみのように感じて、一日すごく沈んだ気持ちで過ごしたのだった。
 なんと切なく切ないラブストーリーだろう。まるで自分の経験のように感じた小説は、島田荘司の『異邦の騎士』以来だ。小さい娘を持ったお父さんがこの作品を読んだら、途中で胸が張り裂けそうになって読み進められないかもしれない。
 映画の比較でいうと、断然小説の方がいい。時間の経過という要素がこの作品では非常に重要なのに、その部分を映画は描けていなかったから。配役も個人的にはあまり好きじゃない。
 この作品は、女性側から読むと男が読むのとはまったく違う感想を持つことになるだろう。小さい女の子を持つお母さんはこの作品を読みながら何を思うのだろう。共感するのか、反発するのか、それとも自分なら別の道を選ぶと思うだろうか。
 あのラストをどうとらえるかは人それぞれ。私がもっと若かったら別の思いがあっただろう。今読んでちょうどよかったのかもしれない。それにしてもあのオチはやるせなかった。自分なら、あのあとの人生を耐えていけるかどうか。
 娘の名前に込められた東野圭吾のメッセージもまた切ない。モナミはフランス語で、私の友達、または私の恋人、あるいは私の愛する人など、微妙なニュアンスを含んだ言葉だ。

 これは誰にでも無条件にすすめられるというタイプの作品ではない。謎解きのミステリと思って読むと肩すかしを食うし、作品として客観的に批評するような読み方をすれば必ずしも出来の良い作品とは言えない部分もある。のるかそるかの分かれ目は、主人公の体験を自分のこととして共有できるかどうかにかかっている。自分がこの登場人物だったらどうするだろうという考え方をする人なら、試してみる価値はある。もし、上手くシンクロできれば、他の作品では得がたい貴重な体験的読書になると思う。
 それにしても、東野圭吾が直木賞作家になるなんて、デビュー作『放課後』を読んだ頃は思いもよらなかった。全体的にそつなくまとまってはいるけど、何かこうパンチが効いてないというか、印象の弱い作家だなと思ったのを覚えている。でも考えてみると、あれから多くの年月が流れた。たくさんの作品を書き続けたからこそ、今の東野圭吾がいる。これからもますます期待できる作家となっていくだろう。
『白夜行』、『容疑者Xの献身』、『パラレルワールド・ラブストーリー』あたりを今度読んでいこうと思う。

 本ネタもなかなかいいもんだ。また何か面白い本に当たったら、このブログでも書いていこう。映画も、ゲームも。
『秘密』は何年かぶりで、胸にどーんと響くいい作品だった。生きるということは、こういう体験を味わえるということでもある。自ら経験することだけが人生の醍醐味ではないし、体験するだけが感動のすべてでもない。本、映画、ゲーム、テレビ、心を開いてこちらから求めていけば、どこにでも感動の種は転がっている。楽しいことがいっぱいで、生きることに退屈してる暇なんてない。

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