 Canon EOS 10D+EF28-105mm(f3.5-4.5), f5.6, 1/400s(絞り優先)
東谷山フルーツパークのしだれ桜は満開の最後を迎え、降りそそぐように咲き誇っていた。空も見えないほどに。それは、2006年の桜シーズン最後としては申し分ないものだった。今年はもうこれでいい。満足、納得の一年となった。 ここの桜は、ヤエベニシダレ(八重紅枝垂)という種類のしだれ桜で、名前の通り、八重で紅色が濃く、見栄えがいい。髪の毛ふさふさの人がソバージュにしたようなものだ。葉加瀬太郎的しだれ桜と呼びたい。葉加瀬太郎が髪の毛をピンク色に染めるとこんな感じになるに違いない。ぜひ、桜の季節だけでもやってもらいたいと思う。花見の席に来てもらって、ピンクのソバージュを振り乱しながら奏でるバイオリンの音色に酔いしれたい。 シダレサクラというのは、枝が枝垂れているからそう呼ぶのではなく、野生のエドヒガンを品種改良して作られた園芸品種名としてそう呼ばれている。別名、イトザクラ(糸桜)。 どうして枝が枝垂れるかというと、若い枝がどんどん伸びて、枝自身の強さより重さが勝ってしまうため、重力に負けて枝垂れてしまうことになる。重力なんかに負けるな頑張れと応援しても、その声がシダレザクラに届くことはない。そんなにどんどん背が伸びたら服がすぐに着られなくなっちゃうから背を伸ばすのを止めなさいと言っても無理なのと同じだ。
東谷山フルーツパークのしだれ桜は、約1,000本。園内の通路の両脇に並べて植えてあるところが多いので、あちこちで桜のトンネルとなっている。普通の桜や、ヨシノザクラなどもある。ちょっと面白い存在として、ウジョウシダレ(雨情枝垂)という種類の珍しい木が2本あることだ。 童謡「赤い靴」の作詞家としても有名な野口雨情の住んでいた宇都宮の住宅の庭にあった木で、本数が少なくてあまり出回ってない希少種だ。東谷山フルーツパークは、業者からまとめてしだれ桜の苗木を買ったら、その中で2本だけ紛れ込んでいたんだそうだ。ラッキーといえばラッキーだけど、業者さんのうっかりと言えばうっかりだ。 普通のヤエビニシダレと比べると、花びらが平べったくて平らに咲くのが特徴らしい。日本庭園の芝生と、カキ園に立っている。 ここのしだれ桜は、咲くタイミングがソメイヨシノよりも遅く、この地方では一番最後に満開を迎える桜だ。この日も最後の桜を見ようと、大勢の人でにぎわっていた。毎年この期間は桜祭りが行われていて、今年は4月5日から16日までだった。
東谷山フルーツパークは、1980年に多目的農業公園として開園した。無料の植物園というのか、フルーツ園というのか、説明がやや難しい。しだれ桜の名所として最も名が通っているけど、それだけではない。様々な果物を栽培している果樹園、熱帯・亜熱帯の果物を育てて展示している世界の熱帯果樹温室(ここだけ有料で300円)など、家族で行って遊ぶのはもちろん、写真ネタもたくさんある。特別なイベント以外は駐車場も入園も無料なので、ふらっと立ち寄るにもいいとこだ。ただし、夕方4時30分で閉まってしまうのは残念なところ。月曜日定休。 しかしここ、名古屋の一番はずれにあって、交通の便が悪い。JR愛知環状鉄道高蔵寺駅からは徒歩25分もかかるし、ゆとりーとライン東谷橋からでも15分歩かないといけない。ということもあって、車で行く人が多い。そのため、しだれ桜のシーズンは、近くの道路渋滞は大変なことになってしまう。北から行くにしても南からにしても一本道だから。 東谷山フルーツパークはサラリーマン泣かせと言えるだろう。
今年の個人的な桜シーズンは、これでいよいよ終了となる。五条川で終わりだと思っていたけど、思いがけず東谷山フルーツパークも行けてよかった。 今シーズン最も印象深かったのは、なんといっても奥山田のしだれ桜だった。大きな老木の魅力をあらめて教えてもらった。それと同時に、しだれ桜に関しても大きく見直すこととなった。ソメイヨシノが桜のすべてじゃない。しだれ桜が強い風に吹かれてたなびく姿は、風情があってとても絵になるのだった。 来年はもっと県外まで有名な桜を見に足を伸ばしたいところだけど、それはもう少し歳を取ってからの道楽として残しておいてもいいかもしれない。全国にはきっと、たくさんの桜オヤジや桜おばさまがいることだろう。桜前線とともに北上して桜を追いかけているような人たちが。私もいつかそんな人たちの仲間入りができるだろうか。今年あらためて知った桜の魅力や多様性を思うと、やってみたいという気持ちが高まってくる。 桜への思い入れが歳と共に強くなっていくのは、たぶん、多くの人が思い心の中で自問するこの言葉がすべてを物語るだろう。 自分はあと何回、桜を見られるんだろう。 また来年、きっと、桜の季節に戻ってこよう。再会を約束して、少しの間さよならだ。

|