現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
近づいて見てこその美しさを教えてくれたベニシジミ 2006年4月25日(火)
2006年04月26日 (水) | 編集 |
シーズン初ベニシジミ

Canon EOS 10D+TAMRON SP 90mm(f2.8), f3.2, 1/250s(絞り優先)


 今年の春はなんだか涼しい。過ごしてやすくていいと思う反面、少し物足りないようにも感じている。曇りの日が多く、気温も連日20度を下回っている。
 おかげで虫が飛ばない。この春見たチョウといえば、モンシロチョウとキチョウくらいで、アゲハやシジミチョウなどは今のところまったく遭遇しない。森に行っても去年のこの時期と比べて飛んでる虫の数が圧倒的に少ない。虫が苦手な人は喜んでるかもしれないけど、虫好きの私としては早く暖かくなって欲しいと思う。
 そんな中、この前松平郷へ行ったときようやく今シーズン初のシジミチョウであるベニシジミと会うことができた。もっともありふれたシジミチョウではあるけど、やはり初ものは嬉しいので、喜んで撮りまくりの私であった。というか、この日はかなり強い風が吹いていて、ベニシジミは花に掴まるのに精一杯で私から逃げる余裕はまるでなかったというのが実際のところだ。たぶん、おでこにマジックで「肉」と書かれても動けなかっただろう。いや、小さすぎて書けないけど。米つぶに字を書く名人とかじゃないし。

 子供の頃、チョウといえばアゲハチョウで、モンシロチョウもモンキチョウもありがたみはなく、こんな小さなベニシジミなんてザコ扱いで捕まえたことさえなかった。黒いアゲハなんか見かけた日には嬉しくてどこまでも追いかけたものだ。シジミチョウなんて名前さえ知らなかった。
 このシジミを見直したのはつい最近、写真を撮るようになってからだ。アップで撮ったときの思いがけない美しさにハッとして、見方が大きく変わった。いいじゃん、シジミチョウ。幼なじみの女の子が大人になってよくよく見てみると思いがけずきれいだったことに気づいたときと似ている。そんな個人的経験はないけど。
 肉眼で見ると、灰色っぽい印象で取り立ててきれいとは思えないベニシジミだけど、写真で見ると白いビロードを身にまとった貴婦人のようだ。オレンジのポイントカラーも効いている。ただし、羽(翅)を広げたときのオレンジと黒のツートンはやや品を欠く。あか抜けない感じで。だから私は、こうして羽を閉じた裏側の姿が好きだ。

 春先一番早く姿をあらわすベニシジミは、3月から11月までほぼ一年中日本中どこでも見ることができるチョウだ。北海道から九州までと言われるけど、沖縄にもいるという話もある。沖縄本島以南にはいないはず。
 シジミチョウの仲間は世界中に分布していて亜種も多い。そのコレクターもたくさんいるそうだけど、コレクターに最も人気がないのがこのベニシジミなんじゃないだろうか。あまりにもありふれすぎているから。姿の美しさだけなら充分人気者になれる条件を備えているのに。
 年に3回から6回くらい、段階的に発生する中で、春・秋型と夏型に分けられる。春に生まれるものは羽の表側のオレンジが鮮やかで面積が大きいのに対して、夏型は黒が多くなり全体的に黒っぽい感じになる。そして秋になるとまた春と同じようにオレンジが勝ったものが生まれてくる。それは日照時間が関係すると言われている。ただし、寒いところや高度が高いところでは夏型もあまり黒くならないというから気候も関係してるのかもしれない。
 成虫では冬を越せないので、11月になるとみんな死んでしまうワンシーズン限りの命だ。幼虫の状態で冬を越す。スイバやギシギシに産みつけられた卵からかえった幼虫は、冬の間、その葉っぱを食べて育つ。春先にはサナギになり、3月になるとチョウになって飛び始め、私のようなカメラ野郎に撮りまくられることになる。春先だけの人気者。でも、不人気ゆえに捕まったり追いかけ回されたりすることがないことは、ベニシジミにとってみたら幸運なことだったとも言える。ギフチョウのようになったら大変だ。
 大きさは約3センチと、チョウの中では一番小さい。
 漢字では紅小灰蝶。
 シジミチョウの名前の由来は、羽の形や色が貝のシジミに似てるところから来ている。これはオレンジ色だからベニシジミ。他にはヤマトシジミやルリシジミなどがいる。
 オスとメスの区別は微妙。羽の先がやや尖っているのがオスで、丸みを帯びたものがメスというのだけど、見分けるのは難しい。写真のはオスっぽいけど自信はない。
 こいつを飼ってみようという人はあまりいないと思うけど、エサはスポーツ飲料でもいいという話だ。室内で放し飼いもできるかも?

 灯台もと暗し。そんな言葉を思い出させてくれるベニシジミ。近づいて見ればその美しさに気づくこともあるということも教えてくれた。その教訓を得て、自分のまわりをよくよく見直してみれば、そこにはベニシジミのような可愛い娘が……いないなぁ。いやいや、きっといるはずだ。私は目が悪いからもっと近づいて見なくてはいけないだろう。もし、マクロレンズを付けたカメラを持った男が、あなたの顔の前10センチくらいまで近づいてきたら、それは私かもしれません。そんなときは、優しく突っ込んでください。ベニシジミじゃないんだから、と。

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