現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
貧乏性が招いた小堤西池カキツバタ遅刻 2006年5月29日(月)
2006年05月30日 (火) | 編集 |
天然に弱い

Canon EOS 10D+TAMRON 28-300mm XR(f3.5-6.3), f6.3, 1/200s(絞り優先)



 天然記念物と言われると無条件にありがたがってしまう典型的日本人の私としては、今年もまた小堤西池の天然記念物カキツバタを見に行かずにはいられなかった。だって、天然記念物ですぜ、旦那。オカミが言うんだから間違いねえ。と、このときばかりは何故か長屋の小市民のようになってしまう私。天然の女の子だって嫌いじゃない。
 去年初めてその存在を知って、喜び勇んで駆けつけたのが5月10日。しかしそれは、焦りすぎで早すぎの勇み足だった。今年は開花が遅れているということで、機が熟すのを待ち、満を持して今日行ってみると、出迎えたのは、写真の光景だった。
 ウソーん、遅すぎたー!? わー、しもたー! やってもうたー! と言ってあたりを駆け回りたくなるほどの手遅れ状態。もらいもののメロンを最高に熟すまで取っておいて腐らせてしまったときのような悲しさ。ああ、哀しき貧乏性。
 完全に失敗した。遅れていたとはいえ、25日くらいがピークだったのだろう。カキツバタは一日で花が終わってしまうから、盛りを過ぎたら一気に終わってしまう。それだけに、ピンポイントで最高のときに行くのは難しい。ネットで動向を掴んでるつもりだったけど、4日の遅れは致命的だった。
 訪れている人もポツリポツリと少なく、なんとなく小堤西池一帯はけだるい空気に包まれていた。かつて賑わっていた遊園地がさびれてしまったみたいに。あきらめきれず池の周りをぐるりと一周してみた。ひとりメリー・ゴー・アラウンド状態。しかし、群生してる場所は残っておらず、散漫な紫がどこまでも広がっているばかりだった。

 小堤西池は、刈谷市の北にある灌漑用の溜池で、昔からカキツバタの群生地として有名だった。京都市の大田の沢、鳥取県岩美町の唐川と並んで日本三大カキツバタ自生地と呼ばれている。昭和13年に国の天然記念物に指定された。
 しかし、昭和の終わり頃、ここは一時危機的な状況に陥る。周囲の宅地化などで環境が変わり、ヨシやアンペライが繁殖してカキツバタはかなり数を減らしてしまったという。それ以前は、それはもう見事なまでに紫で一面覆われていたそうだ。そこで、保存会が作られ、地域の人や学生などボランティアで群生地復活の活動が始まった。その成果が表れ、近年またカキツバタは数を増やしてきていた。
 ところがここ数年、またその数が減り始めた。今年は確かに見に行くのは遅れたけど、去年以上に寂しい感じがあった。原因はよく分かってないものの、このままではいけないと、今年から官民連帯で保全に力を入れていくことになったと新聞に出ていた。周囲の山が竹に覆われて養分を吸っているのではないかということで、竹の根を除去するのだという。
 ただ、今年に関しては気候も影響してるんじゃないだろうか。春から初夏にかけて気温が上がらず、日照時間も少なかったから。
 いずにしても、夢のような紫絨毯をぜひもう一度取り戻して欲しい。わー、と言ったきり言葉を失うような光景を見てみたい。今年は違う意味で言葉を失った。

 いずれアヤメかカキツバタ。昔から言われる言葉だ。カキツバタは花の中央にスッと通っている筋が白で、アヤメは網目模様をしている。ノハナショウブは、水辺ではなく陸に生えていて、真ん中の部分が黄色い。フフフっ、これで見切ったぜ、と安心してたら、ジャーマンアイリスとか、オランダアヤメ、ドイツ菖蒲、イチハツなどなど、似たものがたくさんあることを知ってまた深い迷宮に放り込まれた私であった。黄色いのはキショウブだとすぐに分かるんだけど。
 カキツバタは、昔から日本中どこでも咲いている当たり前の花だった。朝鮮半島や中国、シベリアあたりにも自生してるという。万葉集や伊勢物語の中でも歌われている。在原業平がカキツバタのそれぞれの文字をとって詠った、から衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来ぬる たびをしぞ思ふ、はとても有名だ。これは小堤西池から少し離れた知立で詠われたもので、その無量寿寺もカキツバタの名所となっている。あちらは天然ものじゃないけど、去年見に行った。
 名前の由来は、昔この花の汁を布などにこすりつけて染めたことから、「書き付け花」と呼ばれ、それが転じたといわれている。
 通常は杜若という字を使い、燕子花が当てられることもある。尾形光琳の代表作「燕子花図(かきつばたず)」は、こちらが使われている。

 来年こそ、満開の見頃のとき来ます、そう約束をして小堤西池をあとにした。去年は早すぎて今年は遅すぎた。三年目はタイミングを間違えずに行きたい。なんなら一週間前からテントを張って張り込んでみるのもいいかもしれない。ご近所の方は、差し入れをお願いします。
 来年はきっと、見頃になったら私を呼んでおくれよ、小堤西池のカキツバタたち。たとえマムシに噛まれた足を引きずってでも駆けつけるから。もし、マムシに噛まれた感じで右手にカメラを持って前のめりに倒れてる人を見たら、急いで救急車を呼んでください。

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