現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
まさかの大遅刻となった鳳来寺のヤマユリ 2006年7月26日(水)
2006年07月27日 (木) | 編集 |
終わっていた鳳来寺のヤマユリ

Canon EOS 10D+TAMRON SP 90mm(f2.8), f5.6, 1/25s(絞り優先)



 立てば牡丹、坐れば芍薬、歩く姿は百合の花。そんな女の人がいたら怖くて逃げ出してしまいそうだ。妖艶でいて凛として、立ち居振る舞いは清楚で優雅。自分の周りにそんな人はいないから心配する必要もないのだけど、もしいたとしてもそこまで揃ってしまうとかえって近づきがたい。声をかけられても、ザリガニのように後ずさってしまうだろう。
 もともと牡丹も芍薬もそれほど思い入れのある花ではない。色が鮮やかすぎるし、ちょっと大きすぎる。私は小顔だし(そんな情報はいらない)。けど、百合だけは好きだ。中でもヤマユリ(山百合)がいい。大きいし派手だけど品がある。飽きがこない美人のようだ。ヤマユリのような人が理想のタイプというわけではないけれど。

 そんなヤマユリの季節がまた巡ってきた。雨続きだった名古屋もようやく青空が戻り、去年より4日遅れで鳳来寺に向かった。去年の暑かった初夏に比べたら今年は涼しいし太陽もあまり出てないから遅れているだろうという予測の元に。
 しかし、現地で私は愕然とすることになる。……ない。終わってる? 嘘? 本当に? なんで……?
 去年道ばたにたくさん咲いていたものも3輪ほどが枯れかけて残っているだけで、奥へ進めど進めどきれいに咲いているものがまったくない。わずかに数輪残ってはいるものの、去年とは明らかに様相が違う。信じられないことだけど、完全に遅かったようだ。認めたくないものだな、遅さゆえの過ちというものを(シャア改)。
 それにしてもおかしい。去年のあの数十輪咲き乱れていた様子から、4日やそこらで花が影も形もなくなるなんてことはちょっと考えられない。それに、ヤマユリは比較的花期が長くて、7月の上旬から8月にかけて順番に咲いていくはずだ。それがつぼみさえ一切残ってないのだ。今年の春先から初夏にかけての天候不順でやられてしまったのだろうか。長雨で根っこから傷んでしまったのかもしれない。ただ単に遅かったというだけではない違和感があった。
 写真の場所は、四谷の千枚田に違いかなり奥まったところだ。日陰の場所でようやく数輪咲き残っているのを見つけることができた。ここも去年は10輪以上咲いていた場所だ。
 今年はとにかく春から花のピークをことごとく逃している。ヤマユリだけは万全を期したはずが、もっとも致命的な遅れとなった。春からもう一度やり直したいくらいだ。今年の天気がうらめしい。

咲き残りヤマユリ

 ヤマユリは北海道、北陸をのぞく近畿以北の山地に咲く日本固有の花だ。咲いているところの名を取ってヨシノユリ(吉野百合)とかエイザンユリ(叡山百合)などともいう。私が見に行ったのは鳳来寺に咲いているからホウライジユリ(鳳来寺百合)と呼ばれている。
 かつては日本の野山に当たり前に咲いていた。それが近年、激減している。根を動物に食べられたり、人が持っていったりというのにくわえて、人が山に入らなくなって山が整備されなくなったからという理由が大きいとも言われている。ヤマユリにとっていい環境とは、ある程度日当たりがあって、周りに雑草があまりなく、風通しがよいこと、などが挙げられる。種ではなく球根で増えるので、一度枯れてしまうと、もうそこからは生えてこない。
 かなり古くから自生していたようで、縄文人は球根を食べていたらしい。と同時に花も愛でられていて、万葉集にも詠われている。上はきれいな花で下は食用という点では蓮とレンコンに似ているところがある。戦国時代なども非常食として育てられていたそうだ。
 昔の人はこんなに普通に咲いているヤマユリが、将来珍しいものになってしまうなんて思いもよらなかったことだろう。その流れを作ってしまったひとつの原因として、1873年のウィーン万博出展がある。これがヨーロッパで大評判になってしまって、以来、ヤマユリの球根は重要な輸出品としてじゃんじゃん海外に送られることとなる。それが向こうで掛け合わされてカサブランカなどが生まれたのだけど、日本の野生ヤマユリは本当に減ってしまった。

 背丈は1.5メートル、花の直径は20センチ以上と、ユリの中でも最も大きい。香りもかなり強い。日本の野草に似つかわしくないようにも思えるけど、実物を見ればこれはやはり間違いなく日本の花だと納得する。海外の大作りな花とは違う繊細さや可憐さも併せ持っている。ユリの王様と呼ばれることも多いけど、私としてはぜひユリの女王と呼びたい。これは男じゃない。
 梅雨が明けた頃、乾いた夏の風にゆっくり揺れる姿は、まさに女王の風格充分だ。
 日本には他に、ササユリ、ヒメサユリ、オニユリ、カノコユリ、海岸のスカシユリ、沖縄のテッポウユリ、台湾から入ってきたタカサゴユリなどの自生種がある。ユリ園などに行けば色とりどりに咲き誇るたくさんのユリを見ることができる。けど、私が見たいのはそういうものじゃないのだ。山の中のちょっと薄暗いような斜面に、ポツリ、ポツリと白く浮かぶように咲いてるヤマユリが見たい。それこそ高嶺の花のように手の届かないところで咲くヤマユリを。
 来年はどうしようか。もう一度しっかり咲いてる鳳来寺のヤマユリを見たい思いもありつつ、別の場所で探し当てたいという気持ちもある。いずれにしても、7月20日よりも前に行く必要がありそうだ。
 私を待っていてくださいね、女王様。そして、私をいい時期に呼び寄せてください。オオタ、早く来るがいいわ。もうよろしくてよ、と。




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