 Canon EOS 10D+SIGMA 18-50mm(f3.5-5.6), f8.0, 1/30s(絞り優先)
夕暮れの空にクジラが泳いでいた。大きなおおきなクジラが。 人は大きな生き物に対して敬意を抱く。そして、その大きさが自分の想像を超えると、敬意は畏怖心に変わる。どんな人間も、シロナガスクジラの前では自らの小ささを思い知ることだろう。 クジラは世界最大のほ乳類であり、その中で最も大きなシロナガスクジラが世界で最も大きな生き物だ。最大で体長30メートル、重さは200トン近くになる。それは10階建てのビルに相当し、ティラノサウルスの3倍も大きい。近年は絶滅が危惧されているけど、なんとかこの大きな生き物には生き延びてもらいたいものだ。地球が地球らしくあるためにも。
クジラとイルカは同じものだと知っているだろうか。その境目は曖昧で、3メートル以上のものをクジラと呼び、それ以下のものをイルカと言っているにすぎない(いくつかの例外はあるけれど)。 クジラ・イルカ類と呼ばれる生き物は、約80種類くらいいると言われている。分類学上2種類に分けられる。歯を持ったハクジラ亜目と、ヒゲが特徴のヒゲクジラ亜目とに。イルカなどのように小型のものは歯を持っていて魚などを食べ、プランクトンは食べない。大型のクジラはハクジラで、プランクトンなどを主食とする。ヒゲといっても猫のヒゲのようなものではなく、口に歯の代わりに生えていて、それがエサをかき込む役割をする。 まだ誰も知らないクジラやイルカがいて、今後発見される可能性もあるそうだ。海は広い。 言うまでもなくクジラはほ乳類なので、人や犬、猫と同じように肺で呼吸し、赤ちゃんで子供を産み、お乳で育てる。頸椎も人と同じ7個だ。当然、水の中で肺呼吸はできないので、水面に上がってきて呼吸している。 潜水能力は種類によっても違うけど、数十分は潜ったままでも大丈夫らしい。これは血液にたくさん酸素をためこんでおくことができるからだ(ヘモグロビンが多いから)。肺も伸縮自在で水中では潰れてしまうので、水深数千メートルまで潜ることができる。 クジラといえば潮吹きというイメージが強い。あれは、冬場に吐く息が白くなるのと同じ原理だ。飲み込んだ海水を吹き出してるわけではない。クジラの体温は38度くらいあって、空気は暑くても35度以下なので吐いた息が白く見えるというわけだ。すごく鼻息が荒いとも言える。
こんな大きな体をしたクジラだけど、大昔は陸で暮らしていた。どういうきっかけで海へ向かったのかは、今となっては分からない。おそらくはエサの問題だったのだろうけど、海に自由とロマンを求めたのかもしれない。 ムカシクジラは今から6,000万年ほど前にカバと共通の祖先から枝分かれして誕生したと言われている。手足があって、陸で生きていた。四肢に蹄(ひづめ)を持った偶蹄類と呼ばれるもので、草食動物だったようだ。最近の研究で、カバに最も近いことが分かったそうだ。 飛ぶことをやめて陸で生きるというのは分からないでもないけど、陸を捨てて海で生きることを決めたというのはよほどのことだったのだろう。どうやって海中で順応するように進化できたのか不思議だ。人間も、シンクロナイズドスイミング一家が何代にも渡って水中で過ごしていたら、やがて水の中で生きていけるようになるのだろうか。 海中は陸に比べたらはるかにエサが豊富だ。クジラは嬉しかったことだろう。こんなに美味しいものが食べ放題だなんてと。そうして、どんどん大きな体になっていった。現代のクジラは、大きなもので一日数トンものエサを食べているという。
食べるといえば、鯨の肉。私が子供の頃は確か給食でもクジラの肉が出てきたと思う。ちょっとクセがある独特の旨味だったようなかすかな記憶がある。 現在、クジラの肉はタブーとはいかないまでもそう簡単には食べられないものとなった。1988年に商業捕鯨からほぼ完全に撤退したからだ(今でもわずかに小型捕鯨は行われているけど)。江戸時代(1606年)から始まった日本の捕鯨は、382年目にして終止符を打った。 これは乱獲によってクジラ全体が絶滅の危機に陥ったというのではなく、動物愛護の観点から政治的に止められたのだった。あんなに雄大で知性を持った生き物を捕って食べるなんてもってのほかというわけだ。そうなったらなったで、今度は他の魚がクジラに食べられすぎるなどの問題もあるようだけど、それにしても人類はクジラを捕りすぎた。鯨油と肉とクジラひげのために。紀元前2,000年くらいにはノルウェイあたりで捕られていたというから、クジラの受難時代は長く続いたことになる。 クジラの肉なんて食べなくても不幸じゃないし、クジラを捕らなければどうしても困るなんてこともないんだから、個人的には捕鯨禁止はいいと思う。海の生態系のことは海に任せておけばいい。人間がどうこうコントロールすることもでもない。 死んだクジラは、深海に向かってゆっくり静かに沈んでいく。その肉は、太陽も届かない暗い海の底で暮らす生き物たちにとっての命綱となる。骨までも余すことなく。
いつかクジラを見に行こう。ホエール・ウォッチングのポイントとしては、国内では高知県、沖縄、北海道、東京小笠原あたり、海外ではハワイ、メキシコ、ニュージーランドあたりが有名だ。いずれも遠いのが難点だけど、いつかきっと、クジラの歌を聴きに行こう。 月明かりの下の暗い海、舟に揺られて目を閉じると、風に乗ってクジラのノクターンが聞こえてくる。それは、いつか交わした遠い約束。
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