現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
ヒクイドリとツルに学ぶそれぞれの在り方と自由について 10月14日(土)
2006年10月15日 (日) | 編集 |
ヒクイドリさん

OLYMPUS E-1+Super Takumar 200mm(f4), f4, 1/250s(絞り優先)



 ひと目見て、こいつぁ恐竜だと直感的に思った。鋭い目や肌の質感が確かに恐竜を思わせた。実物の恐竜を見たことはないけど、遺伝子の遠い記憶が私にそう告げた。
 名前がまた恐ろしい。ヒクイドリという。漢字で書くと、火食鳥。火を吐くのではなく食ってしまうのだ。いや、もちろん本当に火を食べたりはしない。ノドから赤い肉が一対たれ下がっていて、これを見た江戸時代の人がまるで火を食べたみたいだというんで、そう名づけた。この赤い部分は、気分によっても変化するらしい。立派なトサカも強そうだ。
 凶悪さは見た目にとどまらない。まず図体がデカい。体長170センチ、体重80キロにもなり、鳥の中ではダチョウにつぐ世界第二位の大きさを誇る。がっちりした柔道部みたいな体つきだ。
 性格は用心深さと凶暴さを併せ持ち、ばったり出会った人間を突然襲ってくることがあるという。脚は長く太く強力で、3本の指のツメはナイフのように鋭く尖っている。ナイフみたいに尖っては触るものみな傷づけてしまうギザギザ・ハートのヒクイドリさんなのであった。実際、森で蹴り殺された人もいるというから本当に危ないのだ。もし、うっかり出会ってしまったら、助かる方法はただひとつ、木の上に昇ることだ。逃げたらやられる。なにしろ、深い森の中でも時速50キロで走れるのだから。
 ただ、日常生活の中でヒクイドリに出会う確率はないので安心していい。動物園にいるのはおとなしいし。野生の生息地は、ニューギニアとオーストラリア北西の熱帯雨林のみと、かなり限られている。かつてはもう少し広い範囲にいたようだけど、熱帯雨林の減少に伴って数を減らした。
 これだけの体なので、やはり空は飛べない。体重80キロもあって空を飛べたら、人間はとっくの昔に飛んでいる。鳥だから当然羽はあるものの、退化してしまっている。こういう飛べない鳥のことを、走鳥類という。
 そんな荒くれ者の一面を持つヒクイドリではあるけど、肉食ではなく果物を食べて生きている。たまに昆虫や小動物を食べたりすることもあるようだけど、主食はあくまでも果物だ。
 かわいげがあるところとしては、オスはメスにちっとも頭が上がらないというところ。メスは適当な巣を作って、交尾したあと卵を4、5個ポロッと産んで、そのままフラッと出て行ってしまう。卵を温めるのも、ヒナを育てるのも全部オスの役目だ。ヒナがかえったら、9ヶ月くらいは付いて世話をする。メスはどこへ行ったかというと、その頃には別のオスのところへ行って、また卵を産んでいる。で、そこも出て行ってしまう。なんて自由なんだ。
 なんにしても、ヒクイドリは一見の価値がある。おそらくこの鳥を見たら、たいていの人が、こいつは恐竜だと思うんじゃないだろうか。これを見ると、恐竜は進化して鳥になったという説を素直に信じられるようになる。恐竜の体色も、図鑑なんかに載ってるような地味なものではなく、実際はこんなふうに鮮やかな色をしてたはずだ。暖かいところに生息する生物が派手になるのは、昔も今も変わらない。

ホオカザリヅル

 ヒクイドリは恐竜のような荒っぽさがあるけど、ツルには鳥の鋭さがあって、これはこれはちょっと怖い。厳しい目つきといい、あまり和やかな雰囲気ではない。
 写真のものは、エチオピアからモザンビークあたりにかけてのアフリカの東南部に生息するホオカザリヅルという名のツルだ。左右にたれ下がった肉を頬にたとえて名づけられたのだろう。
 水辺を好むツルで、アフリカでは川沿いの湿地などで暮らしているという。現在7,000羽ほどに減ってしまったらしい。
 体長は130センチほどで、灰色の頭と半分赤い顔はよく見ると面白い。
 エサは、水草、昆虫、貝、カエルなどで、食料が豊富なところでしか生きていけないそうだ。
 ツルはやはりサギなんかとは存在感がまるで違う。単に体が大きいとかだけではない。サギとは違うのだよ、サギとは、とでも言いたそうな目をしている。

 ツルというと、すぐに北海道のタンチョウヅルを思い出して、なんとなく日本の鳥のような気がするけど、実際はそうではなく世界中にいろんな種類のやつがいる。だいたい17種類くらいに分けられて(亜種を入れるともっと多くなる)、南極大陸と南アメリカ大陸をのぞく大陸に広く分布している。日本で見られるのは7種類。釧路にやって来るタンチョウヅルの他に、山口や鹿児島などに冬鳥として渡ってくるナベヅル、マナヅルあたりが有名だ。逆に言うと、それらの地方以外の人は野生のツルを見る機会はほとんどないというのが実情だ。昔、ドラマ「池中玄太80キロ」で西田敏行がタンチョウヅルの写真を撮っていたのを思い出す。私もいつか釧路でタンチョウヅルの写真を撮ってみたい。
 かつての日本ではもっと各地にツルが飛んできていたんだろうか。昔から、鶴は千年亀は万年などという言葉があったり、物語としても姿としてもいろいろ描かれてるから、今よりはもっと身近な鳥だったのだろう。「鶴の恩返し」もあるし。
 ただし、もちろんツルは千年も生きない。動物園で50年くらい、野生で30年くらいだと言われている。それでも、ツルはいったんつがいになると、どちらかが死ぬまでずっと一緒に過ごすというから、そういう意味では縁起がいいというかおめでたい生き物と言えるだろう。

 ひとくちに鳥と言っても世界には実に様々なやつがいる。こんなにもたくさん種類はいらないだろうと思うけど、これが地球のいいところだ。多様さの贅沢がある。決して無駄なんかじゃない。みんなそれぞれに可能性を追求していった結果がこうなった。絶滅していった鳥たちも多かったことだろうけど、それらもまた今につながっている。
 飛ぶことだけが鳥じゃない。森を猛スピードで駆け抜ける鳥がいてもいい。色だって、地味には地味のよさがあり派手には派手のよさがある。ペアの在り方も、子育ての方法も、生き方も、すべてそれぞれでいい。どうすれば正しいかなんて決まってはいないのだ。人もまた同じこと。みんなと同じような格好をして同じように生きる必要はどこにもない。自然の生き物たちみたいに自分の可能性を追い求めればそれでいい。私たちはみんな、生物としての進化の途中にいるのだから。




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