 PENTAX istDS+Super Takumar 50mm(f1.4), f2.8, 1/60s(絞り優先)
人と本との縁はときに不思議で、でもきっとすべてが必然なのだろう。何気なく手に取った本はその人に読まれることを欲しているに違いない。その本の存在を知らなかったときは尚更だ。 「Book off」で、普段絶対買うこともページをめくることもない「美肌スキンケア」(今井龍弥著)などという本を、どうしてそのときだけ中身を見てみる気になったのか、自分でもよく分からない。なんとなく目について、どういうわけか中を確認してみたくなった。パラパラとめくってみると、写真やアニメ入りで肌にいいローションや石けんの作り方が書かれていて、それにちょっと惹かれた。面白そうだ。でもやっぱりいいやといったんは棚に戻した。いやしかし、石けん作ってみたいかもしれない私、と思い直しもう一度手に取ってしばし迷う。やっぱり買うことにしよう。無縁のところに生まれた小さなとっかかりは大切にした方がいい。 家に帰ってきてからネットで検索したら、今井龍弥氏の美肌水というのは超有名らしい。何年か前に雑誌などで紹介されてかなりブームになったというから、女性の間ではもはや常識なのかもしれない。実際に作って自分も使ってますという人も多いのだろう。そういう人たちにとってはナタデココ並みに今更なのだろうけど、男性陣は知らないだろうし、中にはそんなもの見たことも聞いたこともないという人もいるかもしれないので、紹介してみたいと思う。美肌水って、もうナウくないですか?
まず買ってくるものは、尿素とグリセリン。聞き慣れないものだけど、簡単に手に入って安いので心配はない。尿素はホームセンターの園芸コーナーで小さな粒状の500g入りが250円くらいで売っている。グリセリンは透明な液体で、ドラッグストアなどで50ml入りが300円ほどだ。基本はこれだけ。 あと、はかりや計量カップ、500mlのペットボトル、それと美肌水を入れるための容器が必要になる。容器は化粧品の空きがなければ100円ショップで揃う。スプレー式やプッシュ式でもいいし、適当なプラ容器でもいい。ただ、原液を入れておくものと薄めて使うため用のと最低2つ用意しないといけない。 まずペットボトルなどに水道水を200ml入れ、尿素50gを加えてよく振って混ぜる。水はミネラルウォーターや浄水器を通さない普通の水道水を使う。これは塩素が入っていることで防腐剤の役割を果たすからだ。更にグリセリンを5ml(小さじ1)を加えて混ぜれば、もう完成。なんてあっけない。簡単すぎて詰まらないくらいだ。 これが原液の濃度20%となり、顔につけるときは10倍に薄めて使う。その他、体なら5倍、ひじやひざなら2倍、かかとや手のひらなら原液というように、皮膚の弱い部分ほど薄いものを使うのが基本となる。皮膚の強さには個人差があるので、そのへんは自分の体と相談しつつ。
一週間使ってみてどうかというと、これは効くんじゃないの、いや、ホントに、というのが偽らざる感想だ。水道水に尿素とグリセリンを混ぜただけで肌にいいなんてちょっと信じられないところもあるんだけど、実際効果を実感できるのだから認めないわけにはいかない。とにかく保湿力がすごい。顔も手も一日中しっとりしている。これから冬場に向けて乾燥していくから、この美肌水は毎日使っていきたいと思う。 本に載っている使用者の声を全面的に信じるほどお人好しではない私でも、これはかなりオススメできると思う。少なくとも、クレオパトラもつけていたラピスラズリのペンダントをつければあなたもクラスでモテモテというやつよりは効く(当たり前だ)。 顔、体だけでなく髪にもいいという声もある。肌や髪の毛をしっとりさせ、肌トラブルを解消し、アトピーや発しんも治すという。美白効果もあるらしい。 尿素もグリセリンも化粧品などに使われてる安全な成分で、添加物など一切含んでないという安心感もある。そして何よりアホくらい安いのがいい。尿素とグリセリンの600円で原液20mlを10回作れるから、10倍に薄めたら2リットルの大きいペットボトル10本。ということは、2リットルペットボトル1本分で60円ということだ。どんだけ安いんだ、とツッコミのひとつも入れたくなる。 男にはそんなもの必要ないだろうと思ったあなた、今は甲子園球児もハンカチで汗を押さえる時代なのだ、野郎だってきれいでいなくちゃいけない。アフターシェーブローションの代わりにもなるし、痔も治す。冬場は手荒れをする人もいるだろう。手にマメができてる人はそれが柔らかくなるということもある。しかし、フォークギター野郎にだけはオススメできない。せっかく左手の指が固くなったところに美肌水をつけてしまうと、指の腹がフニャフニャになってナガブチとか弾けなくなってしまう恐れがあるからだ。せっかく苦労してマスターしたFコードも美肌水のせいで鳴らなくなってしまうかもしれない。
 美肌水の効果には満足したものの、化学の実験テイストという点では完全に拍子抜けだったので、次に石けん作りに取りかかることにした。これは説明を読んでいるだけで非常に危険な香りが漂ってくるシロモノだ。その正体が苛性(かせい)ソーダ。手につくと皮膚が溶けるので必ずゴム手袋をはめてください、という注意書きに腰が引ける。しかも、禁断の劇薬指定。劇薬って。なんでも、そんじょそこらの薬局では売ってなくて、買うときも白衣を着た人にこっそり耳打ちして苛性ソーダくださいとささやいて、じゃあここに住所、氏名、使用目的を書いて、ハンコを押してください、と言われてしまうというのだ。おお、想像しただけでめくるめく禁断の世界へようこそここへ遊ぼうよパラダイスではないか!? そうなのか? という妄想はひとまず置いておいて、冷静になって対策を検討してみる。何も悪いことに使おうというわけではないから、そんなにおどおどすることはない。薬局へ行っても大きな声で注文すればいいし、偽名を使うこともない。使用目的も石けん作りと書けばいいだけだ。間違っても使用目的の欄にヒ・ミ・ツなどと書いてはいけない。薬局の人と目を合わせようとしなかったり、逆に麻生太郎のようにクチビルを歪めてニヤリとするのもやめておいた方が無難だろう。 そんなもろもろのイメージトレーニングを積んだ私は、冷静を装い、ドラッグ「スギヤマ」へと向かった。まずはマシュマロとかコエンザイムQ10などをさりげなく買い物カゴに入れ、ヒマそうな店員を探す。するとおあつらえ向きに若手の白衣を着た男の人が商品を棚に並べているではないか。ここしかないと思い定めて、思い切って、でもあくまでも柔らかに訊ねる。 「こんにちは。苛性ソーダって置いてありますか?」 すると、思いがけず「はい、ありますよ」という軽い返事が返ってきて驚く。ええー、あるのかよ、と。ドラマ「HERO」で、注文するとなんでも「あるよ」と答えるマスターみたいだ。 サービスカウンターの下から取り出してきた苛性ソーダは280円くらいだった。住所と名前を書いてハンコを押したら、動揺したのか90度右に倒れたオオタとなってしまって店員の失笑を買う。
そんなこんながありつつ、なんとか手に入れた苛性ソーダを使って、石けん作りを始める。美肌水を作っていたら、他に必要なものとしては、ゴム手袋、ペットボトル、食用の廃油などで、石けんを固めるときのプラスチック製の容器などがあればそれを使ってもいい。食用の油は、天ぷらなどでいったん使ったものの方が酸化していて石けん作りには向いているらしい。固めるときの容器はアルミは不可で、プラケースかそのままペットボトルを混ぜるのと固めるのと両方で使ってもいい。 まずはゴム手袋をつけて、ペットボトルに水道水50mlと苛性ソーダ15gを入れて、しっかりフタをする。苛性ソーダが溶けるまで1-2分左右に振る。このとき、ペットボトルが熱くなるので注意。このあたりから化学の実験テイストが満載となってくる。 尿素5gを加えて、もう一度軽く振る。やや不安を覚えるほどの熱さになるけど、たぶん大丈夫。ここではまだ完全に溶けてなくてもいい。さらに廃油を100g入れる。そして、あとはシェイク、シェイク、シェイク。フタをしっかり閉じることだけは忘れずに。前後左右に激しく30秒振り、1-2分休ませ、また30秒振り、1分ほど休むを繰り返し、振り時間が合計5分ほどになれば完成だ。『カクテル』のトム・クルーズのようなシェイカーぶりの私の姿を見せたかった。 あとは固まるのは待つだけなのだけど、これにちょっと時間がかかる。完全に固まるまで2日ほど。容器から取り出して外気にさらして更に一週間ほど寝かせてようやく使えるようになる。あまり焦って使わない方がいいと思う。
美肌水と美肌石けんを使ったあかつきには、もう全身はツルツルのツヤツヤになって、思わずハダカの上にコートを羽織って突然人前で前を開けたくなってしまうかもしれない(それはダメ)。でも、ちょっと触ってみる? とか言いたくなったり、人にお裾分けしたくなるというのはある。知ってたけど作ったことはないという人はぜひ一度試してみて欲しい。とにかく安上がりなので、2、3回で飽きてしまっても出費は500円か600円で済むし、気に入って一家で使っても使い切るまでには何ヶ月もかかる。 本にはこの他、ミョウバン水やシャンプー、リンスの作り方も載っているので、今後それらも作っていこうと思っている。もともと化学の実験は好きだったし、使うよりも作る方が楽しい。まさか自分が劇薬なんてものを買う日が来ようとは思ってもみなかったけど、それもまた貴重な経験となった。あのときこの本を手に取らなかったら、私はずっとこれらの存在を知らないまま、安くはないボディーソープや洗顔剤やアフターシェーブやシャンプーなんかを買い続けていただろう。それに、これはひとつの伏線で、また別のところにつながっていくようにも思う。こうしてブログに書いたことで、読んだ人が使ってみて長年の悩みが解消されて、それを教えた別の誰かに伝わってというふうに波及していけば、それはまさに映画『ペイ・フォワード』の世界だ。巡りめぐって、美肌水をつけたみのもんたが美白顔でテレビに登場する日も来るかもしれない。白い松崎しげるも見てみたい。
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