現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
誰の目をしても見えなかった太陽を横切る水星の野郎 2006年11月9日(木)
2006年11月10日 (金) | 編集 |
水星が通過してるはずの太陽

OLYMPUS E-1+Super Takumar 200mm(f4), f22, 1/400s(絞り優先)



 太陽の前を水星が通過するというニュースが目に止まった。普通なら、ふーん、っていうくらいで特に気にもかけないところが、次に見られるのが26年後と聞いて、むむむっ、となった。せっかくだから見ておくかと思い、朝っぱらからデジに望遠レンズをセットしてそのときを待つ。6時40分、ようやくビルの横から顔を出した太陽を捉えることができた。さあて、水星は写ってるかいな。部屋に戻って早速PCに取り込んで確認したところ、写ってなーい! あ、これかな? と思ったら、モニターカバーについた傷だった。ええい、紛らわしい! トリミングして、西川きよしのように目を大きく見開いてにらみつけてみた。時間帯としては、太陽の下の方の中央くらいにあるはずなのだが、いっこうに見えてこない。逆に五木ひろしのように目を細めてみたけど、やっぱり水星は確認できない。一体、私は誰の目をすれば水星が見えるのだ!? いや、そういう問題じゃないだろう。
 あとから知ったところによると、見た目は太陽の直径の約200分の1と小さすぎて肉眼では見えないらしい。それを先に言ってくれ。なんのために私は朝っぱらの6時から準備してたんだ。望遠の200mm(400mm換算)程度では見える望みはなかったのだ。私の中のイメージとしては、千昌夫のホクロくらいに見えるはずだったのに。それでも、水星が太陽面から離れるとき(第4接触)ならデジの望遠でも捉えられたかもしれない。あるいは来日直後のサンコンさんなら肉眼でも見られたのだろうか。
 前回の水星太陽面通過は3年前だった。水星は公転面が地球より約7度傾いているから、なかなか太陽の前を横切らないのだ。横切っても夜なら当然見ることはできない。だいたい13年ごとに同じような配列になるものの、微妙なずれがあって、今回のようにしっかり見られることは少ないという。次は予定でいくと26年後の2032年。自分はどうなっているだろう。のんきに水星なんて見てられるだろうか。2012年の金星の太陽面通過はなんとか見られそうだけど。

 太陽系の第一惑星である水星は、惑星の中でもかなり地味な存在と言えるだろう。私こう見えても水星が滅茶苦茶好きなんですよ、などと告白する人に会ったことがない。水星について50字以内で説明しなさいという問題が出て答えられる人も少ないと思う。そもそも水星を見たことがある人さえあまりいないんじゃないだろうか。
 何しろ水星は太陽にもっと近い星なので、いつも太陽のまぶしい光に埋もれて地球からほとんど見ることができないのだ。わずかに見えるのは朝と夕方のごく短い時間に限られ、地平線近くで小さく光っている。肉眼で見たことがある人はあまりいないと思う。地動説をとなえたコペルニクスでさえ、死の床で「ワシは生涯、水星を見ることができなんじゃった(談話を超訳)」と嘆いたほどだった。
 それでも紀元前3,000年頃のシュメール人などはすでに水星の存在を知っていたというから、観察することの偉大さをあらためて知る。ローマ人やギリシャ人も知っていて、ローマ神話ではメルクリウスとして、ギリシャ神話ではヘルメスとして登場している。
 冥王星が惑星資格を剥奪されてしまった今、太陽系の中で水星は最も小さな惑星となった。ちょうど月と同じくらいで地球の6分の1ほどだ。中心から70パーセントくらいは鉄のカタマリで、あとは二酸化ケイ素などでできている。大気はほとんどなく、薄いガス(カリウム、ナトリウム、酸素など)で覆われてるだけなのに加えて、太陽のお隣さんなのでべらぼうに暑い。地球の10倍くらいで、最高気温は400度以上。なのに夜になると今度はマイナス180度にもなってしまう。大気がないから雲もなく雨も降らず水もないため、こんなことになる。ものすごく暮らしづらい星だ。
 動きがまた変わってる。太陽の周りを88日という超高速(秒速47キロ)で回ってるくせに、自転速度がものすごくゆっくりで一回転するのに59日もかかってしまうのだ。ということは、水星の一日の長さは176日ということになり、朝起きて一日過ごして寝て次の日起きたら2年も経っていたという不思議なことになってしまう。というか、88日間昼が続き、次の88日間はずっと夜ということなので、そんなに起きてられないし寝てられない。太陽もいったん昇りだしたと思ったら逆に戻っていって、また同じ所から登ってくるという優柔不断な動きを見せる。
 表面はクレーターだらけのデコボコで、この点でも月に似ている。太陽の引力に引き寄せられた星や隕石なんかがボコボコ当たっていったからそんなことになってしまった。大気も薄いしダイレクトアタックになる。

 人類はまだ水星の実態をほとんど何も知らない。これまでに水星を調査するために打ち上げられたのは、今から30年以上も前の1973年のマリナー10号ただ一機だから。そのときは金星を調べるために行ったついでにちょっと水星まで足を伸ばした程度で、わずかに3回接近してちょこっと写真を撮ったり温度を調べたりしたにすぎない。なので、人類はまだ水星の45パーセントの地図しか持たない。
 その後、水星探査は後回しに次ぐ後回しが続き、ようやく2004年の7月にメッセンジャーが打ち上げられた。今回は長期にわたる観測を目的とするため、熱対策や燃料の問題などクリアすべき課題が多く、実現までにかなり時間がかかってしまった。更に最善の軌道を通って水星に向かうため、6年半もかかってしまうこととなった。79億キロという長い旅路の果てに水星軌道に乗るのは2011年3月。無事に到着すれば、水星に関して多くの情報を人類は得ることになる。それを楽しみに気長に待つことにしよう。

朝焼けの街

 宇宙にある星の数を知ってから、私は生きることに絶望するのをやめた。宇宙の広さはあまりにもばかばかしくて、個人の存在など限りなくゼロに近いことに気づいたから。私は宇宙に対して責任はない、そう思ったらふっと気が楽になって無責任に生きられるようになった。宇宙は個人の絶望など相手にしてくれない。
 地球から人の目で見える星の数は5,000とか7,000とか言われている。都会では頑張っても数百くらいだろう。ここまではいい。これくらいならスケール感として理解できる。でも、この先がいけない。私たちの地球は、天の川銀河の中の太陽系に所属している。太陽を中心として、太陽系の中には5,000個くらいの星がある。けど、太陽系は銀河系のごく一部にすぎず、銀河には約2,000億個の太陽(恒星)があるのだ。ということは、ひとつの銀河の中に1,000兆個の星があるということになる。すでにめまいを覚えるけど、まだ話は終わらない。銀河はひとつではなく、有名なアンドロメダ銀河大マゼラン銀河などがり、この数があろうことか5,000億個だというのだ。こうなると星の数は26ケタとかになってしまってどう表記すればいいのか分からない。お金にたとえると、1円玉で5,000円積んだマンションの部屋が400万室あるのが太陽銀河系。400万室ある銀河マンションが5,000億棟あるのが宇宙となる。って、余計にイメージできなくなった。失敗だ。
 更に言えば、宇宙に星はバラバラに散らばっていて、決して混雑などしてない。よく言われるたとえに、星の大きさをスイカにたとえると、太平洋に3つ浮かんでるくらいというのがある。そう、宇宙は実にスカスカな空間なのだ。光の速度は秒速30万キロ。1光年を距離にすると約9兆4,000億キロ。宇宙の広さは、140億光年だと言われている。宇宙の果てには何があるか? その先には別の果てがある。

 この現実を受け入れて日常生活に戻ったとき、人はもう笑って過ごすしかなくなる。生きている間に日々の暮らしを目一杯楽しめばそれでいい。そして私は思う、宇宙に意味なんてないのさ、と。宇宙はただそこに在るだけだ。意味は私たちの中にある。それは与えられるものじゃなく、私たちが作っていくものだ。それで充分じゃない?
 夜空に輝く無数の星は、書き割りのようなもの。恋人たちと天体野郎たちのためにあるんだよ。




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