 PENTAX istD+smc Takumar 55mm(f1.8), f1.8, 1/25s(絞り優先)
ショートケーキをもらった、撮った、食った。スタンダールの「生きた、書いた、愛した」と比べると随分志が低いけど、それくらい堪能したということだ。春日井のSincere(シンシア)というところのケーキで、これがかなり旨〜い、甘〜〜〜い。最近は甘さひかえめのケーキが多くなった中、これは不快になるぎりぎり手前まで甘さを突き詰めていて、その加減が絶妙だった、個人的な感覚として。だから、一口目で、あ、これ美味しいと反射的に思ったのだった。モンブランもオーソドックスでよかったけど、苺タルトが特に美味しかった。これはオススメできる。 ショートケーキ、訳すと遊撃手洋菓子(違う)。ショートするほど美味しいからこの名が付いた、わけではない。広岡のようにうまいからでももちろんない。この場合のショート(short)は、短いではなくサクサクしたという意味で使われていて、元々はビスケットのようなものにイチゴなどの果物を挟んで、その上にクリームを載せたものをショートケーキと呼んでいた。それが日本に入ってきたとき、日本人の好みに合わせてスポンジケーキに変えたものをそのままショートケーキと呼んだというわけだ。それが1922年(大正11年)のことで、不二家の創設者、藤井林右衛門が日本で最初のショートケーキを売り出したということになっている。 なので、海外で日本にあるようなショートケーキを探してもまず見つからない。洋菓子の本場フランスでもないという。フランスに彼女と旅行に行って、ショートケーキが食べたいから買ってきてなんて言われたとする。もし、その彼女が長谷川理恵のような女の人だった場合、あなたは石田純一のように激しくののしられることになるだろう。この役立たず! と。そんなこと言ってもないものはないんだよぅ、と泣くしかない。あとは、クッキータイプのケーキを買っていて、これが本場のショートケーキなのだと彼女を説得するより他にあなたに残された道はない。 英語圏では、クッキーなどのことをshort-breadなどと呼んだりする。ケーキ(cake)は、ケイクだ。ケーキ、プリーズ、などと言ってもケーキは出てこない。ドイツではクーヘン(Kuchen)、フランスではガトー(gateau)、イタリアではトルテ(torta)またはドルチェ(dolce)がケーキに当たる。
洋菓子を作る職人のことをパティシエと呼ぶというのを知ったのは、そんなに昔のことではない。一般的に使われるようになったのは1990年代の終わりくらいからだろうか。更にドラマ「アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜」(2001年)の影響も大きかったに違いない。実際、あのドラマが放送された翌年はパティシエ学校の入学希望者がどっと増えたという。あれはホントに面白くていいドラマだった。原作のよさに加えて、滝沢秀明、椎名桔平、藤木直人、阿部寛、小雪と出演者も揃っていて、脚本は岡田惠和で、演出は本広克行とくれば、面白くないはずがないというくらいの顔ぶれだった。全編に流れるミスチルの曲といい、すごく印象に残っている。個人的なオールタイムオールベストテンにもこの作品は入っているくらいだ。パティシエや洋菓子についても、あのドラマを観たことで私自身ずいぶん意識が変わった。 ただ、パティシエの仕事はあんなに甘いものじゃなさそうだ。職人というだけでなく芸術家であることも要求されるし、その中で大多数の人が美味しいと感じられる洋菓子を作るのは難しい。舌の肥えた消費者は飽きっぽく、次々と新作を考えなければならない。体力的にも一日中立ち仕事できつそうだ。よほど好きじゃないとやってられない。実際、最近ではパティシエの数が減ってきているらしい。その一方で、女の人が増えているという。女性の場合は、パティシエールとなるので、女性の洋菓子職人に向かってパティシエ呼ばわりすると恥をかくことになる。 ドラマといえば、「ストロベリー・オンザ・ショートケーキ」というのもあった。「ショートケーキの上の苺、あなたは先に食べますか、それとも最後に食べますか?」そんな宣伝コピーだったと思う。私は途中で食うぞ。
ケーキのルーツを辿っていくと、古代ローマ時代にまでさかのぼる。このとき作られていた甘いパンがケーキの始まりだと言われている。近代のケーキが作られるようになったのは、10世紀、十字軍がエルサレム遠征で砂糖を持ち帰ってきたことからヨーロッパで広まった。その後13世紀頃にはなかり本格的なケーキが作られるようになっていたようだ。 日本の場合は、「いごよさんか鉄砲は」の1543年、種子島に流れ着いたポルトガルの船に積んであったカステラがケーキとの初対面だった。初めてカスティーリャを食べた信長はどう思ったんだろう。びっくりするくらい美味しかったけどあんまりはしゃぐと家臣の手前格好が悪いから、いつものように、で、あるか、などと涼しい顔を装ってたのかもしれないな。 日本で本格的にケーキが広まって一般庶民も食べるようになったのは、戦後になってからだ。不二家の功績も大きい。世のお父さんたちは、子供の誕生日やクリスマスなどに、大きなデコレーションケーキのケースを抱えて家に帰ったものだった。 ショートケーキといえば、やはりなんといってもイチゴのショートケーキが定番だろう。これは昔も今も変わらない。子供が描くショートケーキの絵もイチゴのショートケーキが圧倒的に多いはずだ。ケーキの中で一番美味しいとは思わないけど、人に贈るときも自分で食べるときも安心感がある。いくつか買ったらひとつは入れておきたいと思う。 モンブランも昔からあっていまだにすたれてないケーキの代表だ。だいたい日本では写真のこのスタイルが多いけど、フランスなどでは違っていて、メレンゲを乾燥焼きしたものの上に生クリームと茶色いマロンクリームを盛りつけたスタイルなんだそうだ。1903年創業のパリの菓子店「アンジェリーナ」が発祥とされている(フランスのサヴォワ地方とイタリアのピエモンテ州などで食べられていたものが原型という説もある)。日本のものは、昭和の始まりに自由が丘の洋菓子店「モンブラン」で発売されたものが原形となっている。
ケーキというものは、幸せに属するものだ。甘いもの好きの人間にとってはケーキを食べているときは至福の時間だし、甘いものが苦手という人がいるにしても、これは間違いなく平和時にしか食べられないものだ。戦時中にのんきにケーキなんか食べてはいられない。逆に言えば、戦争をしてるようなところにはケーキを大量に差し入れしたらどうだろう。こんなに甘くて美味しいものを腹一杯食べたら、戦う気もなくなるんじゃないだろうか。 ただ、「黄金伝説」で南海キャンディーズが挑戦していた「全国の超人気ケーキベスト100を食べ尽くす」というのは、見ているだけでつらそうだった。あれは私ちょっと自信がない。そこまでケーキ好きじゃないし。年に数回、もらいものを食べるくらいが私にとっては一番幸せなんだと思う。いや、一番の幸せはやっぱりケーキ入刀だろう。入刀したいぞ、入刀したい、入党したい。ん? 入党? 私はどこに入ろうというのか? 妄想で頭がヘンになったか!? そろそろ寝て、ケーキ入刀の甘〜い夢でも見るとするか。明日の朝は枕によだれがたれてそうだ。
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