現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
トラベルトレーナーから純と蛍の靴を経てガラスの靴へ 2006年11月11日(土)
2006年11月12日 (日) | 編集 |
トラベルトレーナー2足

PENTAX istDS+Super Takumar 50mm(f1.4), f1.8, 1/100s(絞り優先)



 出会いはおととしのオークション。それまでジョニー・スウェード野郎だった私は、持っている靴といえばスウェードのプレーントゥ、スウェードのローファー、スウェードモカシンくらいしかなく、散策に履いていく靴がなかった。一度モカシンで山に行ってエライ目に遭い、歩きのためのウォーキングシューズが必要不可欠だということを痛感することとなった。
 漠然とナイキあたりで何かないかと探していたけど、これというものが見つからない。私は行動の大部分が車と歩きで、車を運転するときはドライビングシューズ(底が薄いぺったんこの靴)に履き替えるため、ヒモ靴は最初から頭になった。車に乗り降りするたびにいちいちヒモを結んだり解いたりなんてしてられない。とにかく履きやすいことと脱ぎやすいことが絶対的に必要な条件としてあった。
 そのときふと目についたリーボックのトラベルトレーナー。これいいかもしれない。とりあえず安いから(確か3,000円くらいだった)他にいいのが見つかるまでつなぎで履けばいいやと軽い気持ちで買ってみた。あれから2年。これまで出かけた散策地のほとんどすべてはこれを履いていっている。まさかこんなに自分に合う靴だとは思いもしなかった。ハードな山歩き以外なら、森歩きから街までこなすオールラウンダーのこいつは、携帯用の域を軽々と超えている。
 右の茶色いのが最初に買った初代タイプで、もう4、5年前のモデルになるんだろうか。けっこう流行ったから、見たことがある人や実際に買ったという人もいると思う。履き心地のよさは、普通のスニーカーをハードのコンタクトレンズとするなら、これはソフトコンタクトレンズのようだと言えばいいだろう。とにかく軽くて違和感がない。重さは120gほどだろう。デザインもジーンズから多少かっちりした服装にも合う幅の広さを持っている。
 もともとは名前のTRAVEL TRAINERでも分かるように、旅行用の携帯シューズとして開発されたものだった。くるりと折り曲げて丸めて持ち運ぶことが出来る。そういう用途で買った人も多いだろうけど、日常的にも充分活躍できる靴だから、眠らせておくのはもったいない。

 あまりにも気に入って2年も履いたので、そろそろ靴底も減ってくたびれてきた。そこで今回買い足したのが左のトラベルトレーナー2だ。確か2003年発売のモデルだったと思う。2というからにはいろいろ進歩もしていて、やや激しいスポーツにも対応できるような靴底になっているのが大きな変化だ。
 少し履いてみた感じは、慣れのせいもあるだろうけど初代の方が履き心地はいい。特に素足で履いたときの素材感は初代の方が私には合っている。ただ、やっぱりこれはいい。足にピタリと吸い付くようなフィット感は変わらない。同じスリッポンでも足首近くまでホールドするから、モカシンのようにパカパカしない安心感というか安定感がある。トラベルトレーナーは、私が今まで出会った靴の中で個人的なベストであることは間違いない。一生履いてもいいと思えるくらいだ。じじになってもトラベルトレーナー。
 現在はモデル4になっていて、デザインもかなり変わった。3もちょっと違うんじゃないかというような変化をみせていたけど、4はどうなんだろう。いつか機会があったら買ってみたいとは思っている。色もいろいろあるしレディースもあるので、いろんな人にオススメしたい。1万円以下で買えるので、そんなに高い靴でもない。ただし、オークションや通販で買う場合は、普段履いてるサイズのワンサイズ大きいものを買わないといけない。細身ということもあって、いつもと同じサイズだとかなりきつく感じるはずだから。

 リーボックは、どういうわけか日本ではあまり人気がないメーカーだ。1980年代後半に一時かなり人気が出たものの、その後低迷が続き、現在では国内で5位くらいに落ちている。1位はなんといっても宣伝上手のナイキ様で、これはもう動かしようがない。リーボックは機能性重視で、あまりオシャレじゃないところが日本人には受けが悪い理由だろうか。アメリカではナイキについでシェア2位らしいのだけど。
 もともとは、イギリスの陸上選手だったジョセフ・ウィリアム・フォスターが、自分のために手作りした靴を売り始めたことから始まった会社だった。当時はまだリーボックではなく、J.W.フォスター社という名前で、創業は1900年のことだ。そのスパイクを履いた選手がロンドンオリンピックで大活躍したことで一気に名前が売れた。
 リーボックに社名変更したのは1985年のことで、reebokとはアフリカにいる大鹿の呼び名だ。現在はイギリスを代表するスポーツ用品メーカーに成長した。と思ったら、去年2005年にドイツのアディダスに買収されてしまった。日本での巻き返しはあるのかないのか。

 靴の歴史は古く、文明の始まりと共に靴はあった。古代エジプトでは鼻緒がついたサンダルが作られてみんな履いていたし、ヨーロッパの北方騎馬民族などは今でいうモカシンを履いていた。サンダルとモカシンが靴のルーツと言ってよさそうだ。
 日本ではワラジや草履、下駄などから始まり、西洋の靴が履かれるようになるのは江戸時代の終わり頃からで、坂本竜馬がブーツを履いていたのは有名な話だ。
 ただし、文明以前にも靴はあったに違いない。原始人だって裸足はイヤだったに違いないから、何かあるもので工夫して靴を作っていただろう。獣の皮や植物などを利用して。誰かひとりが思いつけば、そこからみんなに広まっていくのに時間はかからなかったはずだ。
 スニーカーのルーツはブラジルにあった。ゴムの木からとれた樹脂を固めて足の裏に貼り付けていたのがスニーカーの原形ということになっている。
 靴としてのスニーカーは新しいようで案外古く、1832年にまでさかのぼる。ニューヨークのウェイト・ウェイブスターという人物が、靴の底にゴムを貼った靴を作って特許を取ったことが現在のスニーカーの始まりとされている。
 当時、スニーカーは靴底にゴムが貼ってあるものすべてを指していた。だから、ブーツの底がゴムならそれはスニーカーだった。スニーカーという言葉は、1837年に新聞の通販で使われたのが初めてだそうだ。もしくは、1916年にKedsが静かな靴というのをセールスポイントにした靴を発売されたときに生まれたという説もある。最初は正式な英語ではなく、忍び寄るという意味のSneakから来た俗語だったようだ。
 当初はスポーツ靴だったスニーカーが一般人の街履きになったのは、1920年代のアメリカ東海岸の大学生(いわゆるアイビーリーガー)が履くようになってからだそうだ。コンバース・オールスターは1917年に発売されている。
 日本でスニーカーという言葉が普通に使われるようになったのは、1960年代以降だ。アイビーブーム全盛の時代に、ヴァンのジャケットにスニーカーというような格好が流行って、そのとき盛んに使われるようになった。そういえば、私たちが子供時代はスニーカーではなく、運動靴やズックと呼んでいた。
 アメリカでは、現在はどうか分からないけど、スニーカーという響きを嫌がる人もいてテニスシューズと呼んだりもしたそうだ。イギリスではトレーナーと呼ぶことも多い。なので、この靴はトラベルトレーナーなのだ。

 新しい靴を買うと、「北の国から」の純と蛍の靴を思い出す。母親の葬式のとき、汚い靴ではみっともないと恋人だった伊丹十三が純と蛍に新しい靴を買い与えた。ふたりは大喜びでそれまで履いていた靴をそのまま靴屋で捨ててしまう。けど、「その靴は父さんに富良野で買ってもらい、明らかにデザインよりも値段で選んでおり、その靴は雨の日も雪の日も嵐の日も僕らの足を守ってくれ…、その靴を洗い、破れたら父さんが縫い、その靴を僕は捨ててもいいと言い…」と純は夜になって激しく後悔する。ふたりは靴屋へ行くがシャッターが閉まっている。ゴミの山を探したけど見つからない。あきらめようとしたところに現れたお巡りさん(平田満)が事情を聞いて一緒に探してくれたけど、とうとう見つからなかった。その夜、純は川に流されている靴を裸足で蛍と追いかけている夢を見るのだった。
 物に執着するのはよくないとはいえ、世の中には捨ててはいけないものや大事にしなければいけないものもある。たとえそれが履き古したオンボロの靴であったとしても。私も、トラベルトレーナーが破れたら縫い、靴底が減ったら古タイヤのゴムを切り取って貼り、最後まで履こうと思う(ホントかよ)。
 それと同時に、どこかにガラスの靴の片方が落ちてないか地面を探すのも忘れないようにしたい。下を見てウロウロしている私を見て、コンタクト落としました? などと声をかけていけない。もっと大事なものを探しているのだから。もし、見つかったらお知らせしますので、サイズが足に合うかどうか試しに来てくださいね。でも、合わなかったからといって腹立ち紛れに私のトラベルトレーナーを履いて帰るのはやめてください。




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