現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
自転車に乗って風になるためには尻の肉が必要だ 2006年12月21日(木)
2006年12月22日 (金) | 編集 |
自転車だらけ

PENTAX istDS+Super Takumar 50mm(f1.4), f1.8, 1/320s(絞り優先)



 自転車屋の店先で大量に積み上げられた自転車を見ると、万景峰号(マンギョンボンゴウ)を思い出す。一体彼らはどこからあれだけの自転車をかき集めてきたのだろうという思うと、万景峰号が入ってこなくなったら放置自転車は増えるんだろうかなど、様々な思いが交錯する。その自転車は置いてあるのです、捨ててあるわけではないのです。
 高校の3年間、私は自転車通学をしていた。片道40分、雨の日も、雪の日も、暑い夏も、なんの工夫もなく自転車をこいで学校へ行っていた。梅雨時のカッパ通学はつらかった。雨と汗でずくずくになって、着いたときには一日のやる気をすべて失っていたものだ。若かった。今思えば雨の日くらいバスで行けばよかったし、雪の日くらい休めばよかった。なのに、なんであの頃はなんの疑問も持たずに自転車だったんだろう。高校生の僕たちはみんなバカだった。
 高校3年間ですっかり自転車には乗り飽きた私は、それから長い間まったく自転車にまたがることさえなかった。少し話は脱線するが、小学生のとき、大須スケート場で伊藤みどりの自転車を見てまたがったことがあるというのが私の数少ない自慢の内のひとつだ。スケートリンクの真ん中では、レオタードを着たチビの伊藤みどりがクルクル回っていた。脱線ついでにもうひとつ思い出話を語ると、中学時代は当時流行ったチョッパーというハンドルに交換した自転車に乗っていた。映画『イージーライダー』とかで出てきた、びよ〜んと長く上に伸びているハンドルだ。しかし不良でもなんでもない私は、街で本物の不良と出会ってカツアゲされないかと心配でならなかった。そのうちその見えないプレッシャーに負けて普通のハンドルに戻したという微笑ましいエピソードも残っている。ハンドルのゴムの部分を色付きのものにしたり。
 それはともかくとして、再び自転車に乗るようになったのは去年のことだ。散策をしていて、車に折りたたみ自転車を積んでおけば現地での行動範囲が広がるに違いないと思いつく。そんな軽い思いつきで買った折りたたみ自転車は、尻に対してものすごく厳しいシロモノだった。安さで選んだために、サドルにスプリングさえ付いておらず、ヤワになっていた私の尻が悲鳴を上げるのに時間はかからなかった。15分乗ったところで、もう勘弁してくれという激しい抗議が尻から来て、私としても聞き入れざるをえなかった。
 それから何度か乗ってはみるものの、やはり尻痛に負けてしまう日々が続いている。便利は便利なのだけど、タイヤが小さいのですごく疲れるし、ちょっとした坂でも登れないというのが難点だ。折りたたみ自転車、侮りがたし。思いがけないところに敵は潜んでいるものだ。
 今日はそんな自転車について勉強してみようと思った。自転車のことをよく知って理解すれば、私ももっと自転車に乗ろうと思うだろうし、尻痛にだって勝てるかもしれない。もしかしたら、「僕の歩く道」の草なぎくんのように突然、ロードレーサーの自転車を買ってしまうかもしれない。いや、60万円は高すぎて買えないぞ。

 自転車の歴史はまだ浅く、現在の元となった自転車が作られてからまだ100年、原形と言われるドライジーネからまだ200年も経っていない。こんなに一般庶民が乗るようになったのも戦後のことだ。
 世界で一番最初に自転車が作られたのはドイツで、ドライス男爵が二つの車輪を縦に並べてハンドルを付けた自転車もどきで地面を蹴って進んでいたのが始まりとされている。それがヨーロッパの一部で流行り、当初は遊び道具だった。
 それから時は流れ、19世紀の後半、フランスの乳母車を作っていたミショー親子がペダル式の自転車を発明して、これが世界に広まっていった。
 その後、いろいろな工夫や発明があり、非公式には江戸時代の末期、公式には明治の始めに日本にもオーディナリー型というのがやって来きて、ダルマ自転車と呼ばれた。
 現在の元となったセーフティ自転車が登場したのが1885年。イギリス人のスターレーが作ったローバー号が近代自転車の原形と言われている。
 1888年にはダンロップが空気入りのタイヤを発明して、自転車のスタイルはほぼ完成した。ただし、欧米ではすぐに一般にまで浸透した自転車も、日本においては長らく上流階級のステータスシンボルであった。当初は高価で庶民が買えるようなものではなかった。
 日本人が当たり前に自転車を乗るようになったのは、戦後しばらく経ってからで、高度経済成長のときにひとつのピークを迎えることになる。誰もが買えるものとなり、日本は世界一の自転車輸出国となった。現在、その地位は中国に譲っている。やはり自転車といえば中国だ。
 日本人で一番自転車が似合うのは、中野浩一でもヤクルトレディでもなく、金八先生の大森巡査だと思う。

 自転車競技の歴史は古い。何か新しい乗り物を発明すると、それで競争してみなければ気が済まないのが人類らしい。1896年のオリンピック第1回アテネ大会から競技に採用されているし、ツール・ド・フランスは1903年に始まっている。1903年モーリス=ガラン、1904年アンリ=コルネ、1905年ルイ=トゥルスリエ、1906年ルネ=ポチエ、1907年ルシアン=プチブルトン、1908年ルシアン=プチブルトン、1909年フランソワ=ファベール、1910年オクアブ=ラピズ……。もちろん、覚えてるわけではない。カンニングしただけ。日本でも明治31年(1898年)には最初の自転車競技会が開かれている。
 競技は大きく分けて4種類。トラックレース、ロードレース、オフロードレース、その他。おそらく競技人口は驚くほど多いのだろうけど、私はほとんど見たことも聞いたこともなく、周りに自転車レースをしてる人もいないので、まったく未知の世界だ。競輪もやったことがない。中野浩一のアデランスのCMは覚えているけど。そういえばケイリンというのは今や世界語となっている。
 マウンテンバイクやBMXなどは知らないわけではないものの、実際の競技は見たことがない。海上の森を歩いていたらマウンテンバイクにひかれそうになったことはあった。
 サイクルサッカー、サイクルフィギュアなどというマイナーな競技もある。

 こうして見てくると、自転車というのは馴染み深い身近なものであると同時に、広がりと奥行きのあるものだということを知る。今まで知らなかったことを今日勉強してたくさん知った。
 知らなかったといえば、自転車と道交法との関係も今まで知ってるようで知らなかった。あれを読むと、この世で正しく自転車に乗ってる人はひとりもないということになる。
 まず自転車というのは、馬や牛、リヤカー人力車などと同じ軽車両に分類されるので、歩道を走ってはいけないということになる。つまり、自転車は車道の左端を走らなければ道交法違反ということになるのだ。そんなアホな。車道なんかを高校生の通学で走られた日には危なくてしょうがない。お年寄りがフラフラしながら運転されても困る。
 自転車も車と同じ制限速度が適用されて、それを超えるとスピードオーバーとなるということだ。だいたい普通の自転車はどんなに頑張っても40キロくらいしか出ないから大丈夫なのだけど、細い道で30キロ制限のところを全速力で走ると違反になる。更に驚くことに、一方通行も逆走したら一通違反となるというのだ。本気だろうか。逆走するときは自転車を降りて歩行者とならなければいけないらしい。
 酒飲み運転は懲役3年以下または50万円以下の罰金、信号無視、一時停止無視、右側通行、踏み切りでの一時停止無視は懲役3ヶ月以下または5万円以下の罰金、夜間の無灯火走行、傘差し運転、右折左折のときに腕で合図をしないと5万円以下の罰金、二人乗り、並走、歩行者の通行妨害は2万円以下の罰金となっている。ベルで歩行者をどかせてしまっても違反となる。誰が守れるかっ。
 しかも恐ろしいことに、自転車の場合免許がないので車の青切符に当たるものがなくて、いきなり刑が執行されてしまうというところだ。それはつまり前科が付くことを意味する。実際、大阪で二人乗りの女子高生が警官の注意を無視して走っていたら捕まって赤切符を切られたなんてこともあった。自転車って、そんな危険な乗り物だったのか。

 世界的な流れとして、みんなで自転車に乗ろうという動きがある。地球に優しくするために、なるべく車には乗らないようにしようということで。欧米では自転車通勤をする人も増えているそうだ。ハリウッド映画でもそんなシーンがけっこう出てくる。都会では特に自転車が見直されているようで、渋滞や満員電車を考えると自転車の方が早くて快適ということもある。お金はかからないし、運動やダイエットにもなる。
 子供の頃田舎のじいちゃんが乗っていた自転車を思い出してみると、自転車というのもずいぶん進化したものだと思う。スタイルだけでなく素材も変わってきている。乗り心地やスピードもきっと上がってるのだろう。電動付き自転車が生まれ、この先自転車の未来はどうなっていくのだろう。もうチョッパーハンドルは二度と流行らないのだろうか?
 実現不可能なことでいえば、乗らないときはポケットに入るくらいコンパクトになって、乗るときは取り出してリモコンで瞬時に戻ってくれると嬉しい。ドラえもんがやって来たら頼もう。現実問題としては、雨の日どうにかならないものだろうかと思う。関西のおばちゃんご用達の「さすべえ」ももうちょっとお洒落アイテムに生まれ変わって欲しい。雨の日だけピザ屋のバイクみたいになると、もっと気軽に自転車に乗れるのに。
 私もそのうち、もう少しいい自転車を買って、風になりたい。急な下り坂で友達を後ろに乗せて風になろうとしてガードレールに直撃して友達が空を飛んだときが今懐かしく思い出される。ただ、私の場合は、もう一度尻を鍛え直すところから始めなければならない。今のままでは15分でカラータイマーが点滅してしまう。尻だけに肉をつけるにはどうしたらいいんだろう? 丈夫な無駄肉を持ってる人は私に少し分けてください。いや、そんなにたくさんはいりません。
 女子と自転車の二人乗りもしたことがないから、いつかしてみたい。男子高校生と女子高生の嬉し恥ずかしの世界が無理なら、『明日に向って撃て!』のポール・ニューマンとキャサリン・ロスのように。「雨に濡れても」を歌いながら。




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