現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
男前豆腐を食べて、おれは男だと早朝の海岸で叫ぶのだ
2007年01月10日 (水) | 編集 |
男前豆腐

PENTAX istDS+SMC Takumar 55mm(f1.8), f2.0, 1/160s(絞り優先)



 今さら言うまでもないことだが、私は男装の麗人ではなく、男だ。しかし、世の中には私のことを女性だと思っている人がいるらしい。そんなぬぐいきれない女性疑惑を払拭するために、男前豆腐を食べてみた。これを食べれば私も高倉健さんのように男らしくなるかもしれない。草刈正雄のように男前になるのも悪くない。でも、間違ってピーターや美輪明宏に近づいてしまったらどうしよう。一体あなたはどちらなんですかと訊ねるのがためらわれるような組合の人にはなりたくない。男前への道のりは意外と遠いのか。
 ちなみに、私は猫系の女の人が好きなくせに、竹野内豊やミスチルの桜井くんのような犬顔に憧れていたりする。自分がもし女なら、柴咲コウみたいな顔がいい。ただ、柴咲コウが好きというのではないし、竹野内くんラブとかそういうことでもないので、誤解されないようにお願いします。
 そんなどうでもいい情報を交えつつ、今日は豆腐について書こうと思う。

 豆腐は中国からやって来たことを知っているだろうか。大昔から日本にあるから日本で生まれた純和風のものだと思っていた。いろんな説があってはっきりしないのだけど、一説によると紀元前2世紀、前漢時代の淮南王(わいなんおう)だった劉安(りゅうあん)が発明したというのがある。ただ、この時代にまだ大豆がなかったというから、違っているのかもしれない。ただ、唐代には作られていたようなので、中国発祥というのは間違いなさそうだ。
 いつ頃日本に渡ってきたのかというのもはっきりしていない。奈良時代、遣唐使の僧が中国から製法を持ち帰って紹介したのが最初ではないかと言われている。初めて文献に出てくるのはずっと後の1183年のことだ。沖縄には別ルートで伝わったという話もある。
 最初は僧侶たちの精進料理として食べられていたものが、貴族の知るところとなり、朝廷にも献上され、やがて武家社会にも伝わっていった。庶民が豆腐を食べるようになるのは更に後のことで、江戸時代も中期に入ってからだった。最初は大奥で食べられていたものが大名も食べるようになり、それぞれ国に持ち帰って庶民の食べ物となった。1782年には豆腐料理の本「豆腐百珍」が出版されてベストセラーになったのも大きかった。
 現在は、中国や日本だけでなく、朝鮮半島や、広く東南アジアでもよく食べられている。近年はアメリカ人も健康にいいということでよく食べているらしい。それを広めたのはヒラリー・クリントンだという話もある。クリントンもきっと家で食べさせられていたのだろう。豆腐はそのままtofuという英単語になっている。中国では豆腐、朝鮮ではトブ、ミャンマーではトーフー、ジャワ島ではトーフと、みんな似ているところからも、出所は一ヶ所なのだろう。

 現在は美味しさだけでなく、栄養があって健康にいいということでも注目されている。植物性たんぱく質が豊富でカロリーが低く、消化吸収がいい。必須アミノ酸やビタミンB1、E、カルシウムや亜鉛、鉄など、人の体に必要な栄養素が詰まっている。ただし、食物繊維は少ない。
 料理方法としては、冷や奴や湯豆腐などそのまま食べる他、田楽にしたり、おでんに入れたり、鍋やすき焼きの脇役にするのがおなじみだ。豆腐ハンバーグや豆腐ステーキなどのように、ダイエット中の肉の代用などに利用したりもする。私もサンデー料理で、くだいてよく使っている。
 中華料理では麻婆豆腐が一番有名だろう。他にも中国にはたくさん豆腐料理がある。韓国では豆腐チゲなどが有名どころだろうか。
 油揚げ、がんもどき、おからなども豆腐の変形と言っていい。湯葉などもたいして美味しいとは思わないけど、京都で食べるとどういうわけかみんなありがたがって食べる。
 日本における豆腐の消費量は、一世帯で年間75丁ほどだそうだ。これは数字としてはかなり少ない気がする。4人家族でひとり年間20丁。食べている人は、年間で100丁以上は食べてるはずだから、食べる家庭と食べない家庭が両極端なのかもしれない。
 ところで、豆腐の丁という単位は、正式に何グラムなどと決まっているわけではないらしい。昔は地域によってかなりバラつきが大きかったそうだ。それで、ひとかたまりを丁ということにしたのだとか。都会では300-350グラム、地方では350-400グラムというのが相場らしい。沖縄だけは一丁1キロというから、かなり感覚的な違いがある。そんなに買ったら一人暮らしの人は困ってしまうだろうに。
 豆腐の「腐」という字は、本来弾力のある柔らかいものを指す言葉だった。腐ってないのに何で豆腐なんだろうと思ったことがある人も多いんじゃないだろうか。
 作り方は昔から基本的には変わっていない。大豆を水に8-18時間ほど浸けて柔らかくした後、くだいてつぶして、汁をしぼる。これが豆乳だ。しぼりかすがおからになる。
 豆乳に凝固剤を加えて固めれば豆腐になる。このとき、塩を作る際に出るにがり(塩化マグネシウム)を使う古典的な方法と、硫酸カルシウム(すましこ)を使う方法がある。今はにがりはほとんど使われていない。
 作り方は単純なので、家庭でも豆腐は作れる。豆乳を買ってきてにがりを入れてレンジで加熱すれば豆腐もどきができるし、大豆からだって作れないことはない。
 木綿と絹ごしは少し作り方が違う。絹ごしは、大豆の5倍の水で豆乳を作ってそのまま固めるのに対して、木綿は10倍の水でいったん固めたあと、くだいて型箱で押し固めて水分を絞って固め直す。どちらも絹でこしたり、木綿でくるんだりなどの作り方からではなく、食感から名づけられたのだった。

男前豆腐中身

 それはそうと、男前豆腐の味はどうなったんだと先ほどから気になってよだれを垂らしていた人もいるだろう。ひょっとしたら、いつの間にか手にしょう油を持っていた、なんて人もいるかもしれない。結論から言うと、けっこう美味しいんじゃないかな、というものだった。
 絹ごしと木綿の中間のような独特の舌触りと濃厚な味は、他のノーマル豆腐とは一線を画すものがあるのは認める。しかし、所詮は豆腐。豆腐以上の何モノかではない。何も言わずに食卓に並んだら、そのまま食べて家族の話題にも上らない可能性もある。話のネタとして出て、意識して食べれば、なるほどちょっと違うねとはなると思うけど。
 普通よりも高めの280円という値段は、毎日食べている人にはちょっと厳しいかもしれない。

 ところで、男前豆腐って京都でしか売ってないんじゃないのと思っていた人もいるかもしれない。私もそう思っていた。私が買った男前豆腐のパッケージを見ると、茨城県の三和豆友食品となっている。なんだ、なんだ、ニセモノか? 気になって調べてみると、そこにはこんな事情があった。
 三和豆友食品の社長の息子である伊藤信吾氏が常務のときに、これを考えて作って売り出した。それが評判になったので、伊藤信吾氏は男前豆腐店という会社を作って、独自に売り始めるようになる。その後、三和豆友食品は大手の篠崎屋と業務提携をして、経営陣が一新される。そこで何があったのかは知らないけど、結果的に三和豆友食品と男前豆腐店は別れることになった。ここで話はややこしいことになる。
 独立した男前豆腐店と、元々の三和豆友食品が同じ「男前豆腐」を売ることになったのだ。どちらが本家とも言えないこの微妙な関係。更に、現在「波乗りジョニー」などの商品名の豆腐もあり、これも混乱を招いている。最初男前豆腐店は「京都ジョニー」として売り出し、三和豆友食品側は同じ物を「波乗りジョニー」とした。そこで今度は男前豆腐店が「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」と商品名を変更する。一体、ジョニーって何だよと思ったら、伊藤社長のあだ名だそうだ。
 そんな大人の事情があるものの、男前豆腐はどちらで買っても味はほとんど変わらないのだと思う。心意気としては男前豆腐店側で買ってあげたい気もするけど。と同時に、最近、三和豆友食品から新発売になった「やっこはん姉妹」シリーズも気になるところだ。
 何にしても、話のネタとしては面白いので、スーパーなどで見かけたら一度買って食べてみてください。美味しいことは間違いなく美味しいから。男なら、パッケージのまま学校や会社に持っていって、直接しょう油を回しかけて食べて欲しい。それが男の中の男というものだ。そして、立ち上がって大きな声で、おれは男だ! と叫ぶのだ。叫ぶシチュエーションとしては、早朝の海岸でももちろんオーケイだ。
 私は家でおとなしく食べたいと思う。人前でおれは男だなどと叫ぶことに比べたら女性疑惑に甘んじている方がましだから。




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