現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
半田はミツカン酢の中埜家が作った酢の香りに包まれた町だった
2007年01月17日 (水) | 編集 |
半田運河

OLYMPUS E-1+SIGMA 18-50mm DC(f3.5-5.6), f7.1, 1/800s(絞り優先)



 知多半島のほぼ中央東海岸沿いに半田市がある。西海岸には常滑市があり、その沖合には中部国際空港セントレアができた。しかし、半田と聞いて何か具体的なイメージを思い浮かべることができる人はさほど多くないだろう。名古屋市民の私でも今回初めて訪れてみるまでは何ひとつ知らないも同然だった。県外の人の多くは半田市の存在そのものを知らないかもしれない。
 半田へ行ってみて今の私が言えることは、半田は中埜(なかの)家のミツカン酢のものだ、ということだ。豊田市がトヨタのものであるのと同じように。
 中部国際空港ができて以来、常滑と共に半田も注目されるようになった。知多の海以外の観光を担う二大拠点として。しかし、観光地としての歴史が浅い半田市は、実際に訪ねてみると観光客を迎えるムードは希薄だった。半田運河にしてもミツカン酢にしても赤レンガにしても、直前まで行ってみないと案内看板さえ見当たらず、あたり一帯はごくごく普通の住宅地が続く。本当にここらなんだろうかと不安になるほどだ。
 地図を調べ、いくらか道に迷いながらなんとか「酢の里」に辿り着いた。半田観光はここから始まる。

 半田運河沿いにはミツカン酢の蔵が並び、古い時代の面影を色濃く残す。これはいい。映画のセットみたいだなと思ったら、1940年に黒澤明監督の『姿三四郎』の撮影がここで行われたそうだ。
 しかし、ここは単なる観光地ではなく、現役の施設でもある。外観は古い時代のものを保ちつつ、内部は最新の設備が整った酢の醸造蔵なのだ。景観を損なわないために、電柱や電線を地下に埋めるところまで徹底している。
 ここまでこだわっているのだから、もっと観光地として宣伝すればいいのにと思うけど、ミツカン酢という企業は地元では古くからの名士ということで、そういうあざといことはあまりしたくないのかもしれない。黒板塀に描かれたミツカン酢のマークもさりげない。
 運河沿いには散策路が整備されていて、ぶらぶら散歩するのは気持ちがいい。ただし、周囲一帯は強烈な酢の香りに満ちているので、酢が苦手な人はつらい。一日ここで過ごしたら、白米を食べても酢飯を食べてるような感じになるかもしれない。逆に、酢が大好きという人には、とても魅力的な場所だ。酢の匂いだけでご飯三杯はいける。環境省の「かおり風景100選」にも選ばれている。

酢の里

 「酢の里」前で団体の見学者ご一行様と一緒になった。歩いていたら、いつの間にか団体さんに飲み込まれていて少し驚く。
 ここは江戸時代から続く酢づくりを見学できる、日本で唯一の酢の総合博物館だ。事前に予約すれば無料でガイドさんが案内をしてくれる。コースは2時間ほどで、酢の試飲などもできるそうだ。
 ここは全国的にもなかなか有名なようで、年間8万人ほどが訪れるという。セントレアができて以来、各地から人がやってくるようになったんだとか。近年はお酢が体にいいということで見直されているということもあるのだろう。いつか機会があれば私も見学してみたい。お酢を試飲しまくって血液サラサラになるのだ。

 江戸時代から半田は良質なわき水が出る土地で、酒やしょう油などの醸造が盛んなところだった。更に海運業の発達と共に発展していくことになる。
 1804年、この地で酒づりをしていた中野又左衛門が、酒をつくると大量にできる酒粕を何とか利用できないだろうかと考えて作ったのが粕酢だ。それまで捨てるしかなかった酒粕をいかした見事なアイディア。それを運河から江戸や大坂に運んで売るようになり、ちょうど江戸で始まっていたにぎり鮨ブームに上手く乗った。
 それまで長い時間をかけて自然発酵させていた鮨に、酢で味を付けることで即座にできることが受けて、たちまちミツカン酢は評判になる。その後、にぎり鮨は全国に広まっていった。

中埜酒店

「酢の里」の左側にも目立つ建物がある。旧・東海銀行半田支店、現・中埜酢店中央研究所ビルだ。大正13年に建てられたネオルネッサンス様式のビルの中では、最先端のバイオテクノロジー研究が行われているという。
 ミツカン酢という企業は、いろんな意味で他の企業とは違うところがある。古き良き伝統と最先端という両方の顔を持ち合わせているのが、黒板の蔵やこういうビルからも見て取れる。酢メーカーとしては国内シェア70パーセントのトップ企業でありながら(世界では2位)、借金なしという昔気質の一面もあり、社長は世襲制で代々又左衛門を名乗っていたりもする。
 現在は大きなグループ企業に成長して、調味料としての酢だけでなく様々な製品を出している。味ぽん、ゆずぽんや、飲むための純玄米黒酢、最近では金のつぶなどの納豆も売っている。
 おなじみのミツカンマークには意味があった。酢の命である味、きき、香りの3つの要素を丸くおさめるという意味で、明治20年に四代目又左衛門が考案したそうだ。

 今までほとんど何も知らなかった半田市とミツカン酢が、私の中で一気に身近なものとなった。半田にはこの他にも、中埜兄弟の酒店やカブトビールの赤レンガ工場、中埜家住宅、紺屋海道などの見どころがある。それらと知多の海、セントレアをセットで見て回れば、一日充分楽しめる場所だ。「ごんぎつね」で有名な新美南吉のふるさともある。そのあたりについても、またこのブログで紹介していきたい。半田といえば半田ごてが思い浮かんでいた人にも、半田といえば半田市を連想してもらえるように。
 愛知県の人でも、半田観光へ行ったことがない人が多いと思うから、これを機にぜひ一度出かけてみてください。お弁当は、ちらし寿司がいいでしょう。運河沿いで食べるちらし寿司は、周囲の酢の香りと相まって、かつて味わったことのないような強烈なちらし寿司となるでしょう。ち〜らし〜寿司〜な〜ら、この〜す〜し〜太〜郎〜 あった〜かご飯に混ぜるだけ〜 ちょいとす〜し〜太郎〜♪ と北島のサブちゃんのモノマネもお忘れなく。




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