現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
湯島聖堂にあるのは白梅ではなく孔子像と中国風異空間
2007年03月06日 (火) | 編集 |
湯島聖堂-1

PENTAX istDS+TAMRON 28-200mm XR(f3.8-5.6),f5.0, 1/400s(絞り優先)



 予備知識なしに湯島聖堂を訪れて、梅がないじゃないかと探しているのはド素人である。私はもちろん、そんなことは思っていても口に出したりはしない。ただ、なんかここって中国っぽいよねとうっかり口走ってしまって、まったく分かってないことがバレてしまったというのはある。あれ? 孔子さん、なんでこんなところにいるの?
 帰ってきてから勉強して湯島聖堂ってそういうことだったのかと初めて納得した。そりゃあ、中国っぽいはずだ。昔、さだまさしが「檸檬」の中で、♪或の日湯島聖堂の白い石の階段に腰かけて 君は陽溜まりの中へ盗んだ檸檬細い手でかざす♪と歌ったのは、この湯島聖堂だったのか。
 しかし、湯島聖堂と湯島天神が同じものだと思っている人は、日本全国にたくさんいるに違いない。うっかり間違えて行ってしまったという人もいるだろう。場所的にも歩いていけるところにあるからますます混同しがちだ。とはいえ、まったく成り立ちや方向性の違うところなので、今日はそのあたりを書いていきたいと思う。

 湯島聖堂は、徳川幕府の儒臣林羅山が上野忍ヶ岡の廷内に、孔子廟「先聖殿」を建てたことに始まる。1632年というから江戸時代の初期だ。
 儒教好きだった尾張藩初代藩主の徳川義直が、孔子の聖像や顔子、曽子、子思、孟子の四体の像などを贈っている。この義直を尊敬していたのがのちの水戸黄門である水戸光圀で、思想的にも大きな影響を受けている。
 この孔子廟を湯島(かつての神田台)に移したのが5代将軍綱吉だ。そのとき名前を「大成殿」と変えて、整備増築をしてここの総称を聖堂と称すようになった。
 現在の建物はのちに再建されたもので中国っぽく黒の渋い感じになっている。当時は朱塗りと青緑だったそうだから、今よりもずっと壮麗な雰囲気だったのだろう。
 このとき林羅山が開いた私塾「弘文館」もこの地に移っている。これが日本の学校教育のはじまりと言われている。将軍綱吉自ら「論語」の講義をしていたというのはちょっと面白い。
 1797年に寛政異学の禁でここは幕府直属になり、昌平坂学問所(昌平黌)となる。孔子が生まれた村の名前である昌平から名づけられた。
 のちに様々な機関がここに集まるようになり、それらはそれぞれ東京大学や筑波大学、お茶の水女子大学へとつながっていった。また、大成殿は博物館としての役割も担うようになり、上野の東京国立博物館の起源ともなっている。明治5年(1872年)に日本初の博覧会が開かれたのもここ湯島聖堂で、一ヶ月で15万人が押し寄せたんだとか。そのとき、名古屋城の金のシャチホコもやって来て大評判となったそうだ。

 シャチホコといえば、屋根の上にはシャチホコめいた見慣れない魚のようなケモノが載っかっている。なんでも鬼犹頭(きぎんとう)という名前の守り神だそうで、やはり鯱の仲間らしい。頭が龍で尾っぽが魚、二本の足とふたつの角を持っていて、背中には長いキバを持っていると思ったら、これは潮を吹き上げてるところなんだとか。武器じゃなかったか。けど、ある意味ではこの水が武器で、火災から建物を守る水の神様がこの鬼犹頭なのだ。
 しかしこの守護神、メイドイン中国だからか日本では今ひとつ活躍できず、たびたびこの建物は火事に見舞われてしまっている。1703年、1772年、1786年と、江戸時代だけで3回焼けている。オレのせいじゃないアルと鬼犹頭は口を尖らせて抗議するだろうか。1923年の関東大震災でも全焼してしまった。張り切ってるわりには役に立たないゴールキーパーみたいなやつだ。
 それでもめげずにその都度再建されているのは、やはりこの場所は単なる孔子廟というだけでない教育機関の原点という思いが幕府や国にあったからなのだろう。1799年には規模を拡大して新築され、そのときから黒塗りになった。
 1935年(昭和10年)には大規模な再建がなされて、そのとき鉄筋コンクリート造りにしておいたおかげで、第二次大戦の空襲では被害が少なくて済んだ。
 屋根の上には猫みたいなものも載っている。これは鬼龍子(きりゅうし)という名前で、孔子たち聖人の守り神とされる伝説の生き物だ。猫の姿をしていて、するどいキバを持ち、腹は蛇のようにウロコがある。日本でいう狛犬のようなものだろう。

湯島聖堂-2

 大成殿の中は神社ともお寺とも教会とも違う不思議な静謐さに満たされていた。この感覚はちょっと独特。雰囲気は完全に中国。日本じゃないみたい。
 祀ってあるのはもちろん孔子だ。孔子に賽銭を投げて、さて、何を願おうと迷う。専門は学問思想ということになるのだろうか。とっさには思いつかなかったので、当たり障りのない挨拶だけしておいた。でも、日本で孔子と縁のあるところはあまりないから、ここは貴重な場所に違いない。
 このときは何事もなく当たり前に大成殿に入っていったのだけど、ここは土日と祝日しか開いてないのだそうだ。なので、せっかく行くなら平日じゃない方がいいと思う。

湯島聖堂の孔子像

 外には孔子像が建っていた。ひと目見て、あ、孔子だ、と思ったわけではないけど、ここに建っているということは孔子に違いないと予測はつく。
 1975年(昭和50年)に、中華民国台北ライオンズクラブ(台湾)から寄贈されたものというから新しいものだ。昔から建っていたわけではないのか。
 4.75メートルで、世界一大きな孔子像らしいのだけど、そう言われても、はぁ、そうですかとしか答えようがない。古いいわれのあるものではないので、感動とかそういうことはない。

 孔子といっても今の日本ではかなりマイナーな存在となってしまっている。『論語』など授業には出てこないし(出てきたっけ?)、私もパラパラと拾い読みした程度でしかない。儒教の教えも遠いものとなった。お釈迦様、キリスト、ソクラテスとあわせて世界四聖(しせい)というんだけど、この人選もどうかと思う。キリストとソクラテスはジャンルが全然違うし。
 生まれは紀元前551年というから、キリストより500年以上も前の人だ。春秋時代の中国、魯の昌平郷に下級武士の次男として生まれたとされている。または巫女の子だったという説もある。
 幼くして孤児となって、苦労して学んで学問で身を立て、役人を志すが失望し、後半生は弟子たちとともに諸国を巡り、73歳で死んだということになっている。ただ、何しろ昔の話でもあり、その後の伝説によってさんざん脚色されてしまったので、孔子の実際の人生がどんなものだったのかはよく分からない。学者、思想家、宗教家としても、自ら何かを書き残したわけでもなく、孔子がしゃべったことを弟子たちが書いた『論語』があるだけだ。
 それでも、2500年も経った今でも孔子の教えは現在の私たちの中にも生きているということは、やっぱりすごい人だったのだろう。孔子の教えは単純であり、当たり前のことなのだけど、あらためてそう言われるとなるほどそうだなと思うことばかりだ。社会には礼や秩序が必要であり、人を思いやる仁の心が大切だ、なんていうのもまったくその通り。でも、こういうことを正面から言って説得力を持ち得るのは、なんといっても高い人格があればこそだ。名言はどう言うかではなく誰が言うかによるというのと同じようなものとも言える。偉かったのは孔子の思想ではなく、孔子という存在そのものだったのだろう。
 日本人はもう一度儒教を学校教育に取り入れた方がいいのかもしれない。戦後になって、あまりにも戦前のすべてを一度に捨てすぎた。昔から日本人の中にあって捨てなくてもいい美徳さえも捨ててしまったところがある。リメンバー、孔子。儒教、カムバーック。

湯島の聖橋

 御茶ノ水駅の横には神田川が流れ、その上にはニコライ堂と湯島聖堂をつなぐ聖橋が架かっている。電車の路線が幾重にも交差して、電車野郎は大喜び。私も喜んで写真を撮った。おおー、ここはいいぜ、とか言いながら。たぶん、テレビとかでもよく出てくるところなので、行ったこともないのに見覚えがあるという人もいるんじゃないだろうか。逆に御茶ノ水駅のホームから見上げるのもよさそうだ。
 さだまさしの「檸檬」の中では、♪喰べかけの夢を聖橋から放る 各駅停車の檸檬色がそれをかみくだく♪と歌われている。

 湯島聖堂は、あまりお参りに行くとかそういうことではなさそうだ。観光客は少なめなので、東京で人の少ない静かな場所へ行きたいと思ったときには最適だろう。夏でもひんやりしていそうな空気感だった。
 けど、孔子を学問の神様とするならば、湯島天神の道真さんとセットでお参りするのは間違いではないかもれしれない。そういうお守りも売ってるようだし。
 その姿の端正なところから、楷書の元となった古い楷の木が境内にある。大正4年、中国の孔子の墓所からもらってきた種を植えて育てた日本で最初の楷と言われている。
 あとミニ情報として、孔子は身長188センチの大男だったという話がある。このあたりの情報を整理していくと、お願い事が見えてくる。孔子にあやかるということで、背が高くて楷書を上手に書けて人に慕われる立派な人になれますように、というのが正しい願い事と言えるだろう(ホントかよ)。
 それはともかくとして、湯島聖堂はなかなかの異空間ぶりなので、一度訪れてみることをおすすめしたい。




プロフィール

オオタ(マサユキ)

Author:オオタ(マサユキ)
ブログランキング・バナー(FC2)
ブログランキングに参加してます
Dry&Wet(ホーム)



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する