 Canon EOS Kiss Digital N+EF50mm(f1.8 II), f1.8, 1/8s(絞り優先)
名古屋人は意外と名古屋名物を食べない。それはどの地方の人についても言えることなのだろうけど、独特の食文化を持つ名古屋人は名古屋名物を愛してやまないのだろうと他県の人が想像するほどは食べていないという現状がある。基本的に外食をしない私のような名古屋人は特にその傾向が強い。家で毎日のように味噌カツや味噌煮込みや名古屋コーチンを食べてるなんてことは決してないのだ。 名古屋人が名古屋名物を食べるのは、よそから人が遊びに来たときが多い。そのときになって初めて、はて、名古屋名物ってどこで食べられるんだろうとあわてて探すことになる。スタート地点は観光客とほとんど変わらない。 今回は味噌煮込みを食べようということになった。味噌煮込みといえば「山本屋」がまず最初に思い浮かぶ。そして次にしばし考え込むことになる。「山本屋本店」と「山本屋総本家」ってどっちが本家なんだろう、と。日常的にそんなことは興味の外なので深く思い悩むことはなくても、いざ本場の味噌煮込みに招待しようとなるとその点はけっこう大事になってくる。 結論的に言えば、結論は出ないという結論に至る。はっきりしてるのは、「山本屋」というのが大須で明治40年に創業して、その後戦争のどさくさで本店も支店も曖昧になって、気づいたら山本屋総本家と山本屋本店ができていたということらしい。総本家は大正14年創業をうたっているのに対し、本店の方ははっきりさせていない。ということは、総本家の方が年代的には古いのだろうか。ただ、名古屋人のぼんやりしたイメージの中では、本店の方が値段が高くてやや格上かなという気持ちがないでもない。最終的にはまあどっちでもいいかということに落ち着く。 面白いのは、両方のサイトに、紛らわしい名前の店があるので注意してくださいと書かれてあることだ。表立っては反目し合ってなくても互いに意識しすぎるくらい意識していて、内心面白く思ってないのが注意書きからも読み取れる。二店とも山本屋から派生した同じ系列の店だという話もあるようだけど定かではない。 それで結局おまえはどっちの店へ行ったんだとあなたはちょっとイラっとしながら上の文章を読んでいたかもしれない。私たちが行ったのは、長久手にある「ひらのや」という日本料理店だった。なーんだそりゃ。上の長すぎる前置きは何だったんだ!?
 山本屋本店も総本家も、街の中心にある店に車で行くと有料駐車場で割高になるし、郊外店は家から遠いのでやめた。ネットで調べたところ、けっこう評判がよかったのがこの「ひらのや」だった。郊外なら広い駐車場もあるし(32台)、座席数も150席と充分だ。 場所は、長久手役場の道を隔てた正面あたりで、大きな店なので見逃すことはないと思う。 創業27年で、そば粉や塩、水にいたるまでこだわっているとのことで、そのあたりはチェーン店とは心意気が違う。名古屋の人なら、ちょっと「サガミ」っぽいんじゃないかと思うかもしれないけど、同じと思ってはいけない。 味噌煮込みの値段は普通タイプで1,000円くらいだっただろうか。味噌煮込みとしはまずまずで、高くもないけど安くもない。総本家が確か900円くらいで、本店が1,260円とかだったはずだから、その中間くらいか。ただし、本店の場合、名古屋コーチン入りや黒豚入りになると突然牙をむいて2,310円の値段が襲いかかってくるので注意が必要だ。松茸、茸、地鶏セット入りは3,570円と凶暴さはとどまるところを知らない。たかがうどんに3,000円オーバーって、香川の人が知ったら怒りで頭に血が上って倒れてしまうかもしれない。あっちじゃとびきり美味しいうどんが300円で食べられる。総本家はここまでの豹変ぶりは見せない。それにしても、うどんで1,000円はちょっと高いなとは思う。
味噌煮込みうどんの味は、普通に美味しかった。もっと濃い味を想像していたらまったくそんなことはなくて、むしろあっさりしてると表現してもいいほど上品な味だ。顔は濃いけどつき合ってみるとけっこう爽やかな平井堅みたいなやつと言えば分かりやすいだろうか。味噌煮込みうどんを人に説明するときは、平井堅みたいなうどんと言えばいいだろう。 実際、塩分もラーメンより少なく、関西のうどん並みというから、食べた印象は間違っていない。関西人は見た目で抵抗があると思うけど、食べてみれば大丈夫だ。関東の人にはちょっと物足りないくらいかもしれない。 味噌煮込みうどんのもうひとつの特徴として、麺の固さがある。最初に食べたときは、これ茹で足りないぞと思う人も多いだろう。アルデンテを超えた芯の固さがある。でももちろん、これは失敗などではなくわざとこういう仕上げにしてある。麺は塩を使わずに打って、麺単独では茹でずに、味噌の中に生麺を入れてから煮込む。だから、麺が固いのは当然だ。煮込みという名前から麺もしっかり煮込まれているようなイメージを持ってしまいがちだけど、そうじゃなかった。煮込まれてくたくたになった金子貴俊のような麺は味噌煮込みではお呼びじゃないのだ。 固麺は最初抵抗があっても食べていくうちにだんだんこれで正解だということに気づいていく。この方が味噌つゆとよく馴染んで、しっかり食べているという感覚が強い。そう、味噌煮込みうどんはすするものではなく食べるうどんでもある。 それは食べ方にも表れていて、土鍋のふたに穴が開いてないのは、ふたにうどんを取って、そこから食べるのが正しい流儀とされているからだ。土鍋はぐつぐつ煮立っていて熱いので、最初は持ったり直接口をつけて汁を飲めないというのもある。土鍋からダイレクトにすすると味噌が服に飛んだりするし。 そんなわけで、味噌煮込みうどんは非常にオススメだ(なんか、すごい強引な結論)。
 名古屋名物のもうひとつの麺といえば、きしめんだ。名古屋というときしめんを真っ先に思い浮かべる人もいるかもしれない。けど、きしめんというのは名古屋であまり市民権を得ている食べ物ではない。名古屋のうどん、そばの店できしめんが注文される確率は1割ほどだというから、いかに食べられてないか。ひょっとすると名古屋以外の人の方がきしめんをよく食べてる可能性もある。名古屋に来たらきしめんだろうということで。家庭できしめんを食べる機会もめったにない。きしめんは名古屋のうどん屋ならどこでも食べることができるけど、きしめんが美味しい店というのは聞いたことがない。きしめん専門の店もたぶんないんじゃないと思う。 私はきしめんは嫌いじゃない。うどんよりも好きだから、ごく稀にうどん屋に入ったときなどは積極的にきしめんを注文する。特に夏場の「ざるきし」は好物と言ってもいい。 「ひらのや」のきしめんも申し分なく美味しかった。うどんを平に伸ばしただけなのに、食感がずいぶん違って、味も変わってくる。つゆに絡みやすい分、味が濃く感じられるというのもある。 きしめんは漢字で書くと「棊子麺」で、碁石のように平たいというところから名づけられたという説が有力のようだ。初期のものはどんな形をしていたのかはっきりはしてないものの、碁子麺という名前は室町時代には登場している。思ったよりも古いものなんだ。 この前の「ミリオネア」で、うどん、そば、そうめん、ひやむぎで一番新しい麺は何という問題があった。答えは意外なことにそばだったのだけど、あれはいい問題だった。そばは江戸時代で、ひやむぎやそうめんなどは思いのほか古くて、室町時代にはあったんだそうだ。うどんはもっと古い平安時代に登場している。 きしめんは基本的にはうどんと同じ扱いなので、味噌煮込みのきしめんバージョンやカレーきしめんなど、食べられ方のバリエーションは多い。 名古屋に来たらぜひここの店でというのは難しい。有名どころでは「きしめん亭」あたりになるのだろうか。「住よし」、「うるぎ」なども美味しいらしい。あと、名古屋駅のホームにある立ち食いの「名代きしめん」で済ますという手もある。あそこも味は案外悪くないという。
 「ひらのや」は、とても安心感のある店としてオススメできる。味、値段、店の雰囲気、接客と高いレベルでまとまっている。過剰な美味しさや突飛さはないものの、ここなら家族で行ってもデートで行っても、まず大きな問題は起きないと思う。 基本的には日本料理屋なので、麺類だけでなく刺身や天ぷらなどメニューは豊富で、高いものは高い。必ずしも一般大衆向けの店ではないようだ。そばのこだわりも強くて美味しいらしいので、今度はそのあたりを食べに行きたいと思っている。長久手という場所柄、行ける人や行く機会がある人は限られてるだろうけど、「モリコロパーク」へ行った帰りなどは都合がいい。 ここのところツレを名古屋に迎える機会が増えて、私も少しずつ外食が増えている。いい機会だから、名古屋メシをちょっと追求してみたい。これまでそういうところに無関心すぎた。名古屋名物ネタはけっこういろいろあるので、あれこれ食べに行って、またここで紹介しよう。 味噌カツ、天むす、あんかけスパ、手羽先、どて煮、台湾ラーメン、「コメダ」さん、シャチボン、などなどネタは多い。ひつまぶしはこの前「しら河」で食べたけど他のところでも食べ比べてみたいし、名古屋コーチンもちゃんと意識して食べたことがないから、美味しい親子丼なんかもいい。そういえば、ものすごく久しぶりに「すがきや」のラーメンが食べたくなってきた。モーニングの小倉トーストも食べなくちゃ。 みなさんも名古屋名物を食べに名古屋へ遊びに来てくださいね。そして、ついでに私におごってから帰ってください。
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