現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
2007年春の海上の森で、森の音と匂いと空気とC・W・ニコルを思い出した
2007年04月13日 (金) | 編集 |
海上の森春模様

OLYMPUS E-1+Super Takumar 50mm(f1.4), f6.3, 1/60s(絞り優先)



 そういえば最近、海上の森へ行ってないなと、ふと思った。いや、ずいぶん行ってないぞ。思い返してみると、去年の最後が確か秋の入口だった。ヒガンバナが西日に照らされていたのを覚えている。今年になってから一度は行っただろうかと考えてみる。行ってない。ということは、半年もご無沙汰ではないか。これはまずい。何がまずいのか具体的には分からなくてもまずいことだけは分かった。そうなるといてもたってもいられなくなって、夕方、バッグにE-1とタクマー一式を詰め込んで、食パンを口にくわえたままあわてて家を飛び出した私は、曲がり角で女の子とぶつかって、それが今度うちのクラスに転校してきた女子だったというストーリー展開があったりなかったりしつつ、海上の森へと向かった。
 4月の森は、すっかり春の装いで私を迎えてくれた。山桜には残念ながら間に合わず、大部分が散ってしまっていたけど、それでも森の木々に彩りを添え、小川にも花びらの化粧をほどこして風情を演出していた。山桜の渋さもまたいい。街のソメイヨシノとは違った趣がある。
 野草は、春一番のメンバーから春の主力メンバーにバトンタッチするところだった。スミレも飽きるほど咲いていた。木々の上の方からはウグイスやその他いろいろな鳥たちの鳴き声が聞こえる。
 海上の森を歩きながら、森はいいなぁとあらためて思う。森には森の音があり、森の匂いがあり、森の空気がある。立ち止まって背を伸ばし、胸一杯に空気を吸って、耳をすませてみる。小川のせせらぎや、風が葉を揺らすささやきが聞こえてくる。森は生きている、そんな言葉が頭に浮かんで、何年ぶりかでC・W・ニコルのことを思い出した。正確には、C・W・ニコルのモノマネをする関根勤をだけど。
 4月の海上の森は、まさに春本番待ったなしであった。お久しぶりね、海上の森、少しは私も大人になったでしょう。あなたはお変わりないようで安心しました。と思ったら、湿地があんなことにっ。

海上の森ネコノメソウ

 今日私が歩いたのは、お気に入りの広久手の森-赤池コースだった。四ツ沢を入口とする一般的なコースからずっと南の、「愛知海上の森センター」があるところから出発する。赤池まで行って引き返して、途中の道を北に入って湿地へ行くコースだ。こちらはあまり人が訪れないゾーンなので、めったに人に会わない。会うと両方ともびくっとしてしまう。出会った者同士、こっちにも人がいたんだ、と驚く様子が互いに分かる。
 こちら側で一番目立っていたのが、上のネコノメソウだった。ネコノメソウは、ヤマネコノメソウ、ツルネコノメソウ、マルバネコノメソウなど種類がいくつかあって、区別が難しい。たぶんこれは普通のネコノメソウだとは思うのだけど、咲いている場所からしてヤマネコノメソウの可能性もあるかもしれない。ヤマネコノメソウは葉が互生で、ネコノメソウは対生というのだけど、互生と対生の意味がよく分からない私であった。
 野草としてはさほど珍しいものではない。北海道南部から九州にかけて広く分布していて、林や渓谷などのやや湿った場所を好む。
 黄色い部分全体が花びらではなくて、花は真ん中の5mmくらいで、あとはガク片だ。アジサイみたいな構造と思えば遠くはない。
 猫の目草の由来は、花のあとに果実が裂けて中からのぞく黒い種が猫の瞳孔に似てるところからきている。もしくは、ガクの黄色から黄緑の変化が慌ただしくてそれがよく変化する猫の目のようだというところからきているという説もあるらしい。

海上の森タチツボスミレかな

 スミレシーズン開幕と同時に、今年もまたスミレの名前当ては半ば以上あきらめた。スミレは種類が多くて難しすぎる。いつも、スミレのシーズンが終わる頃には、来年こそスミレの勉強をしようと思うのだけど、次の年になるとその決意はすっかり鈍っているのだった。
 これはたぶん、もっともポピュラーなタチツボスミレだと思う。もし、違ったら、私のスミレに対するわずかな馴染みぶりも崩れてしまいそうだ。
 ニオイタチツボスミレ、シハイスミレ、マキノスミレ、コスミレ、スミレ。葉っぱが細いノジスミレや、花の色が白っぽいフモトスミレなんかはかろうじて区別がつく。しかし、そこへスミレサイシンなどが入ってきて事態をまたややこしくさせる。スミレは3種類くらいでいいじゃないか。
 けど、スミレというのは日本でしか咲かない花だということを知れば、やっぱりちゃんと勉強して区別できるようにならなければと思う。日本以外では朝鮮半島近くの島にしかない。国内では森から街から山まで、いたるところで当たり前のように咲いているから、日本人はあまり大事にしてないけど、本当は国を代表する花としてもっと大切にしてもいい。
 スミレというのは、花の形が墨入れに似ているところからきている、というのが一般的に浸透している。けど、これは牧野富太郎が勝手に言い出しただけなので、本当とは言えない。他にもいくつか説があって、はっきりしたことは分かっていない。万葉集の中では「須美礼」という漢字で登場している。

海上の森エナガ

 ウグイスの鳴き声がさかんにしているものの、どうにも姿を見ることができない。かなり近くから聞こえても見えない。色が地味ということもあるにしても、あれだけ見ることが難しい鳥もそうはいない。一度は撮ってみたいとずっと思っているのだけど。
 今日、唯一撮れた鳥はエナガさんだった。こいつらはサービスがよくて、近くでさえずりながらチョコマカしてくれるから、姿を見つけやすい。ただ、異常に落ち着きがないので、狙い通りに撮るのは難しいとも言える。一ヶ所にじっとしてることを知らないやつらだ。
 日本にいる鳥の中ではキクイタダキに次いで二番目に小さくて、9グラムほどしかない。スズメでも20グラムあることを思うと、いかに小さいか。
 全長の半分は尾っぽで、そのスタイルがひしゃくの柄のようだというんで柄長(エナガ)となった。
 秋になるとエサを確保するためにシジュウカラやメジロたちと混成グループになるエナガも、春は恋の季節でペアで過ごすことが多くなる。5月には子供も生まれる。変わった特性として、ペアの他にヘルパーと呼ばれるエナガがひなにエサをあげたりして子育てを手伝うというのがある。エナガは仲間同士でも、他の鳥たちとも仲良しさんなのだ。

海上の森シデコブシ

 少しだけシデコブシの花が残っていた。これは愛知、岐阜、三重の限られた湿地帯にのみ自生する珍しい花で、愛知万博が海上の森を会場にすることを断念したひとつの理由になったのがこの花の存在だった。
 通常のコブシと比べると、花びらの形と色がずいぶん違っている。花びらは10〜25枚でヒラヒラと波打っていて、色も白からピンクまで変化が多い。
 もともとはコブシとタムシバが交雑して生まれたものと推測されている。
 現在は日本全国で栽培されいて、見ること自体は難しいものではない。公園などでも咲いている。たくさんある園芸種のマグノリアの親ともなっていて、英名をスターマグノリアという。
 コブシの木よりも小型で、2メートルほどにしかならないので、庭木にも向いている。春先にピンクの花びらがヒラヒラと踊るように咲いて、ほのかな香りを漂わせる。

海上の森ハルリンドウ

 湿地にたどり着いた頃は森の向こうに日が沈んで暗くなり始めていた。今回の一番の目的だったハルリンドウはこの通り、早くも眠りについてしまっていたのだった。残念無念、また来週、は来られないから、今年は見られずじまいで終わってしまうのか。
 去年、初めて見たとき、この世にこんなに清楚な青が存在するのかと感動したのをはっきり覚えている。あれは生まれて初めて見る青だった。空の青とも海の青とも違う、他の花の青とも違った。秋のリンドウの青とも違う。もはや、ハルリンドウ・ブルーとしか呼べないような青だ。
 陽の当たる昼間だけ咲き、日が沈むとしっかりと花を閉じてしまう。春の太陽の申し子。なのに、花は星の形をして咲く。昼に咲くブルーの星。
 政夫さんがりんどうのような人なら、私はハルリンドウのような人になりたい。そのためにはまず夜型の生活を根本から改善する必要がある。

 半年ぶりの海上の森で激変していたのが、湿地帯の金属道と進入禁止のロープだった。なんじゃこりゃ、と驚いた。手つかずの森だったのが、愛知万博をきっかけに少しずつ人間の手が入って、自然から遠ざかっていっている。小屋や集落にトイレができたのはありがたいことだけど、湿地のあれはちょっと残念だった。人が踏み込んで湿地が荒れてしまうというのは分かるけど。あれでは夏にハッチョウトンボを近くで見るのも難しくなる。
 愛知県がどう考えているのか知らないけど、個人的にはもう何もしないでいいですからと言いたい。
 海上の森は、これからますますいい季節になっていく。ただし、快適な散策ができるのは6月までだ。それ以降は暑くなるし、蚊やクモの巣という大敵が現れて、いろんな意味で消耗が激しくなる。8月の海上の森は、間違ってもヒールを履いた女の子とデートで行くようなところではない。野草や花が一番賑やかになるのも、5月、6月だ。暖かくなれば、蝶や虫たちもたくさん飛び交うようになる。海上の森デビューは、この時期をおいて他にはないと言い切ってしまおう。
 今シーズンも、私は月に一度くらいのペースで行きたいと思っている。森歩き、楽しいぞ、と再認識した一日だった。海上の森、ありがとう、近いうちにまた行きます。




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