 PENTAX istDS+Super Takumar 50mm(f1.4), f1.8, 1/80s(絞り優先)
名古屋港水族館で何が一番面白かったかと訊かれたら、砂の上をはいずり回っていた地味な生き物たちと私は答えるだろう。これでもかと次から次へと繰り出される地味な生物の連続に、だんだんヘラヘラ笑いが止まらなくなってくる。猫ひろしのギャグに唖然としつつ、そのうちなんだかヘンに面白くなってくるような感覚だ。地味な生き物の魅力は大人だけじゃなく子供にも意外と伝わるようで、ちびっこたちも水槽の前でけっこう盛り上がっていた。もっと動けと叫びながらガラスをガンガン叩いたりして。おいおい、叩くなよ。 砂水槽には、シロギスやクロウシノシタなどの地味な魚の他に、ヒトデとか何か分からない生き物たちが半分砂に埋まったまま動かない。イシガレイなどは、ときどき思い出しようにもぞもぞと移動するだけで、あとは砂底でぬーぼーとしている。何を考えているのか、何も考えてないのか。悪ガキがガラスを叩いたくらいではビクともしないのだ。
 これはかなり見つけやすい方のイシガレイだ。もっと深く砂に埋まってるのは、動かない限りほとんど分からない。ほぼ砂底と一体化している。 こいつはまだ子供なのだろう。食用にもなるくらいだから、成魚になればけっこう大きくなるはずだ。海では日本や朝鮮半島あたりの浅瀬で暮らしている。淡水にも入り込むことがあるそうだ。 砂に潜るのは、自分が食べられないように身を隠すというよりも、ハンターとして獲物に姿を見られないようにという意味合いなのだろう。小さな甲殻類やゴカイなんかを捕まえて食べている。 シロギスもこれはまだチビだ。だいたい20センチくらいになって、釣り人のターゲットにもよくなる。日本国内の広い範囲に分布している。 こいつがなんで砂水槽に入れられているかというと、シロギスも身の危険を感じると砂に潜る習性があるからだ。水槽の中ではそれほどの危険はないだろうからめったに潜ったりはしないだろうけど。
 別の砂水槽にいたマゴチという魚。太平洋からインド洋あたりに生息していて、こいつもあまり動かない。一生の間に動く範囲はかなり狭そうだ。 しかし、こう見えてけっこう凶暴で、甲殻類や魚なんかを大きな口を開けて丸飲みにしてしまう。いいものを食べているせいもあってか、なかなか美味しい高級魚とされている。ただ、獲れる数が少ないからあまり魚屋などでは見かけないはずだ。料亭とかで出てくるそうだけど、そんなところとは縁がないので、一生私は食べずに終わりそうだ。刺身にしたり天ぷらにしたりすると美味しいらしいのだけど。 雌雄同体魚で、最初は全部オスとしてスタートして、大きくなったものがメス担当となって卵を産む。同じ雌雄同体魚でも逆のパターンもある。
 テナガエビ。これまた地味だ。およそ彩りというものがない。世界は地味な生き物に満ちているということを名古屋港水族館は我々に教えてくれる。海水魚といっても派手な色をしていたり元気に泳ぎ回っている魚ばかりではないのだ。 名前の通り手が長い。すごく細くて頼りない。こんなきゃしゃな手で何か掴めるのかと心配になるほどだ。でも手が長いのはオスだけで、メスの手は短い。正確にいうと手ではなく、はさみ脚だから、足が細いということになる。 野生のものは見たことがないけど、日本の河口付近や池なんかにもいるそうだ。ただ、小エビのときは川を下って海で過ごす習性があるらしい。近年は水質の悪化でだいぶ数を減らしているようだ。 食用の川エビといえばこのテナガエビを指すことが多い。
 また砂に潜ってるし。ヒラアシクモガニ、おまえもか。こんな赤い体をして中途半端な潜りではあんまり意味がないんじゃないと思いきや、こいつは水深200から300メートルという深い海の底にいるやつで、太陽の光が弱い海底では赤色は黒っぽくなってカモフラージュになる。だから、これで充分隠れていることになるのだろう。 ヒラアシは平べったい足で、クモガニというのは姿が蜘蛛に似ているからだろう。 それにしても、海の底には見たこともないいろんな生き物がいるんだとあらためて思い知るのであった。
 水槽の底にゴミのかたまりが落ちてるぞと思ったら、ゴミをいっぱい身にまとったカニだった。 毛むくじゃらの体に、そこらにあるものを何でもくっつけてしまわずにはいられない性質を持っている。海の藻屑を背負うことからモクズショイ。ボロは着てても心は錦なのかもしれない。 自分ではいろんなボロを身にまとってカモフラージュしてるつもりのようだけど、ものによってはかえって目立ってしまう結果となる。何が目立って何が目立たないかまでは判断できないらしい。水槽では実験的に毛糸やスポンジのくずをくっつけさせていた。実際の海では藻なんかをくっつけてるそうだけど。
 身動きもままならないような狭い水槽の中で不機嫌そうな顔をしていたタカアシガニ。うう、ここは狭くてかなわん、と言ってるようだった。何しろ足を広げると4メートルにもなるような世界最大のカニだ。快適に過ごしてもらおうと思えばちょっとしたプールくらい必要になる。 日本の周辺の海底深く、最高800メートルの深海で静かに暮らしている。 生きた化石といわれるほど昔からいるカニで、駿河湾などではそこそこ獲れるから名物となったりもしてるようだけど、全体的な数は少ないので今後は保護される方向に向かいそうだ。深海であまり動かないカニだから美味しいのかどうか。
 自分で撮った写真なのに、一瞬何が写ってるんだろうと分からなかった。よく見たら、エビの上にエビが乗ってる写真だ。ああ、そうそう、こいつらいたなと思い出した。 下にいるピンクと水色のがニシキエビで、上にいるのがシマイセエビだ。手がストライプ模様になっている。 関東以南からインド洋、太平洋の暖かい海にいる伊勢エビの仲間で、珊瑚礁や砂の海底で生きている。見るからにまずそうだけど、実際まずいらしい。水色のエビって食卓向きではない。 かなり巨大になって、最大60センチ、5キロにもなるそうだ。見栄えがよくて大きいから水族館だけでなく観賞用としても飼われたりしている。 シマイセエビは名前の通り縞のある伊勢エビで、これも食べられているようだ。ただ、こいつも暖かい海を好むので、本物の伊勢エビよりも味は落ちそうだ。暖かい海でだらりと暮らしてる魚介類は身の締まりがない。
こうして地味な海の生き物を並べてみると、あらためて水族館らしくない顔ぶれだなと思う。けど、こう次々に繰り出されると、だんだん楽しくなってくる。最初薄味と思った料理があとから深みのある美味しさだと気づくように。この水族館はマニアックだけど面白い。特に砂ものが充実している。ここには紹介しきれなかったものもいるので、ぜひ自分の目で見てみて欲しいと思う。イシガレイ探しとかもけっこう盛り上がる。 名古屋港水族館は子連れではなく大人同士で行った方が楽しめるところかもしれない。子供は一ヶ所に集中しなくてどんどん先へ行こうとするから落ち着いて地味生物を観察できない。ひと目見て派手できれいな熱帯魚だけでなく、地味な中にも海の生物の奥深さがあることを知ると、水族館はもっと楽しくなる。動物園より深い。 とはいえ、次回はもう少し派手目の海の生き物を紹介したい。さすがに地味なだけではマニアック水族館になってしまって一般人が置いてけぼりになってしまう。ある程度は見栄えのいいものも取り揃えておく必要がある。大きいものや優雅なものや笑えるものなんかを。 それにしても地味生物展示水槽は楽しかった。今度名古屋港水族館へ行くときはここをメインに見学したいと思っている。
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