 PENTAX K100D+smc PENTAX-DA 18-55mm f3.5-5.6 AL
名古屋のチベットだとか、いやネパールだ、ヒマラヤだなどさんざんな言われようの守山区だけど、名古屋の秘境とまで言われると、おいおいそれはちょっと言い過ぎだろうと、守山区民の私は制止したくもなってくる。そこまで奥地じゃないぞと。 けれど、名古屋市最高峰193メートルの東谷山(とうごくさん)を擁し、名古屋で唯一の吊り橋がかかる白沢渓谷まであってしまった日には言い訳もむなしく響く。日本でただ一つのチベット寺院、強巴林(チャン・バ・リン)さえ存在する以上、名古屋のチベットどころか日本のチベットとして守山区民は自覚する必要があると言えよう。守山区民であることから目を背けようとしてはいけない。 そんな守山区にまた一つ、知られざる伝説が加わることとなった。なんでも赤煉瓦造りのトンネルがあるという。名古屋市内の有名どころはかなり回ったし、行ってないまでも名所旧跡はたいてい知っているつもりの私も、それは初耳だった。観光名所とか保存地区とかではないはずだ。それなら知らないはずがない。本当にそんなものがあるのだろうか。これはもう、自ら行ってこの目で確かめるしかない。そんなわけで私はさっそく現地に飛んだのであった。
 場所はJR中央本線の新守山駅の南あたりで、住所としては鳥羽見(とりばみ)1丁目ということは分かっていた。ただ、地図で見てもそこにたどり着くはっきりとした道がない。いかにも狭そうな一方通行が複雑に入り組んでいる。北から行くか南からアプローチするか迷って、北の瀬戸街道を選択した。この道を通るのは久しぶりだ。お馴染みの瀬戸電も走っている。
 確かにそれはそこにあった。守山区民のみなさん、喜んでください、私は確かに見つけましたよ、赤煉瓦のトンネルを。しかし、ホントにあったのだな。 この老朽化ぶりからして、よもや張りぼての赤煉瓦もどきということはあるまい。車一台がやっと通れるくらいの狭さで、高さも2.5メートル制限されている。昭和になってノスタルジーなオシャレを気取って赤煉瓦トンネルにしたとも考えにくい。やはり昔に造られたものがそのまま残ったと考えた方が自然だろう。
 赤煉瓦といえば明治時代だ。これも明治のものだろうか。 JR中央本線の多治見-名古屋間が開通したのが明治33年(1900年)だから、基本的な部分は当時のままとも考えられる。だとしたら100年以上前のものということだ。ところどころに中途半端な補修あとも見られる。 あるいは、鉄道とは別の時期に造られたトンネルなのだろうか。
 反対側に回ってみると、赤煉瓦トンネルにコンクリート製のトンネルを継ぎ足しているのが分かる。かなり乱暴な継ぎ足し方だ。同じデザインで延長させえようとか考えなかったのだろうか。意匠も何もあったもんじゃない。なんて無粋なことをするんだ、国鉄。 おそらく、昔は単線だったものを複線にしたとき線路を造る幅が足りなくて、トンネルをつなぎ足したのだろう。ただ、それならどうして古い煉瓦造りの方まで全部新しく造り直さなかったのだろうかという疑問もわいてくる。せっかく古いものだからあちらは残してこっちだけ新しくすればいいやと思ったのか、そんなに予算をかけたくなかっただけなのか。どちらにしても、赤煉瓦を残してくれたのはありがたいことだった。こうしてずっとあとになって私が見つけることができたのだから。
 しばらく待っていると、お目当ての列車が通った。これを一緒に写さなければ意味がない。それ、今だ! って、見えんっ! 列車の上半分も見えてない。これは失敗だ。どうやらポジションが近すぎたらしい。もっと下がって後ろから撮らなくては。 しかし、ここは古くからの民家が集まった住宅地。観光地でも何でもなく、おまけにどういうわけか人通りも車通りも意外と多い。近所の人の通り道や抜け道になっているらしい。そこに完全に異質な存在の私がカメラを持ってうろついているものだから、近隣住民がこの人何を撮ってるんだといういぶかしげな視線を痛いほどにぶつけてくる。赤煉瓦トンネルが貴重だという自覚もないのかもしれない。いや、私は決して電車クンとはではなくてですね、ただ写真が趣味で、ここに珍しい赤煉瓦のトンネルがあるって聞いたからそれを撮りに来ただけなんですよ、と道行くすべての人に説明したかった。でも、完全に変な電車男が今日トンネルのところで写真を撮っていたというお茶の間の話題になってしまったんだろうなと考えると、それがちょっと悲しかった。 電車は夕方ということで10分に一度くらいは通るのものの、シチュエーション的にここで何もせずカメラを持ったまま10分立ちつくすというのはつらいものがある。無駄にうろうろしてもかえって不審だ。なんとか必要最小限のうろつきに抑えつつ次の電車を待つことにする。
 ついにチャンス到来。うまいことに右から電車が来てくれた。このときを逃してなるものか。すでに日が沈んであたりが暗くなってシャッタースピードが稼げず少しブレてしまったけど、ぜいたくは言ってられない。ちょっと焦ってタイミングも早かったか。 でも、なんとか目的を達成したのでこれでよしとしよう。そそくさと逃げるように現場を立ち去る私。鳥羽見のみなさん、私は怪しい者ではありません。
 赤煉瓦トンネルから最後は電車撮りに目的が変わってしまっていたけど、赤煉瓦造りのトンネルは確かに見つけた。あれはニセモノじゃなく本物だ。守山区には確かに赤煉瓦造りの架道橋が存在する。 帰ってきてからあらためてネットで調べたけど、ここの詳しい情報は見つからなかった。JR東海に問い合わせてみればある程度は分かるのかもしれないけど、そこまで知りたいわけじゃないので、私のレポートはここまでとしたい。あとは電車の人に続きを託すことにしよう。 写真としても、ちょうど西向きということで夕焼け時間に行けばドラマチックな写真が撮れそうだ。私が狙った左斜めから撮るなら、名古屋行き列車のダイヤを調べてから行った方がいいかもしれない。電車が通る時間さえ分かっていれば、車の中で待機していればいい。近所の人の注目の的にならずに済む。 行き方は矢田川にかかる矢田川橋を南から北上する方が分かりやすい。橋を渡ったすぐの細い道を左折して、そのまま道なりに行って突き当たりを右に曲がったところだ。車は線路沿いの路上に短時間ならとめておけそうだった。
ワンダーランド守山区には、私の知らないワンダーがまだまだ潜んでいそうな予感がしてきた。長年住んでいるのに、チベット寺院も吊り橋も赤煉瓦トンネルも、知ったのはここ数年のことだ。これらの存在をいまだ知らずに守山区に住んでいる守山区民も多いことだろう。 今後も、一人守山探検隊として様々な場所に潜入捜査を試みて、知られざる守山区の魅力をお伝えしたいと思う。まだまだ名古屋で唯一とか、名古屋で一番みたいなものがありそうだ。いつか、胸を張って私は守山区民だと大きな声で言える日が来ることを願ってやまない。きっと来ないだろうけど。
|