現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
タカは上空高く黒いシルエットでも楽しかった伊良湖ホークウォッチング
2007年10月10日 (水) | 編集 |
伊良湖のタカ渡り-1

Canon EOS 20D+EF 75-300mm f3.5-5.6 IS



 秋といえば何? という問いかけに、食欲でも芸術でも読書でもスポーツでもなく、それはもうタカの渡りでしょう! と勢いよく答えてしまったあなたは完全に鳥の人。もう一般人には戻れない。周りに気づかれないようにこっそり鳥の人であり続けるか、お仲間を求めて鳥の人の輪の中に思い切って飛び込むか、道は二つに一つしかない。そうしなければ、私のように半鳥人としてどちらにも属せない孤独な鳥撮り人となってしまうだろう。早く人間になりたい。
 それはともかくとして、秋といえばタカの渡りの季節であることは間違いなく、鳥好きの人にとっては楽しみでもあり、ソワソワしてしまうのが9月の終わりから10月にかけてだ。この時期、そういう人たちが日本全国から愛知県渥美半島の先端にある伊良湖(いらご)へと集結してくる。人は彼らのことを、ホークウォッチャーと呼ぶ。
 私も今年初めて、ツレと共に10月の伊良湖へと繰り出してみた。期待をしつつ軽い気持ちで。しかしながら結果的には、タカの渡りを見ることはできなかった。行った日も時間帯も天気も悪く、条件が整わなかった。5日の日がピークだったようで、その日は3,000羽以上が飛んだそうだ。次の日が1,000羽程度で、私たちが行ったのが7日の夕方、すでに天気は崩れ始めていた。翌8日は早朝までなんとか天気は持ったものの、午前中には雨が本降りになった。
 天気がよくて風の少ない好条件の日、上昇気流を待ってタカたちは一斉に飛び立ち南へと向かう。ときにそれは数十、数百の群れとなり、タカ柱と呼ばれる。だから、天気の悪い日にあえて飛んでいくひねくれ者はめったにいない。花の開花とは違って、いつタカにとっての好条件になるのかを読むのは難しい。だから、当たればそれはとても幸運なことだし、外れたとしても仕方がないことだ。
 今回はちょっと残念だったけど、他にもいろいろと見所や収穫があって思った以上に楽しいタカ見だった。特にホークウォッチャーを目の当たりして大喜びの我々なのであった。おおー、あれがウワサのバズーカ軍団か、と。

伊良湖のタカ渡り-2

 着いた日の夕方は、タカ待ちの人たちもかなり少なくなっていた。この日は天気が悪くてあまり飛ばなかったようで、それ以前にピークは午前中なので夕方まで粘っているのは泊まり込み組の人なのだろう。本格的な人はキャンピングカーで寝泊まりして待っているようだった。食事の準備もしてきており、一週間くらいは自給自足ができるのかもしれないと思わせた。
 条件がいい日は早朝の時点で恋路ヶ浜駐車場は満車になるのだとか。にわかには信じがたい。その光景をぜひ見たかったのだけど、翌日は雨ということでそこまでの激混みぶりは見ることができなかった。タカの渡りを見られなかったことよりもそっちの方が個人的には残念だったりした。
 完全タカ初心者としては、ベテランさんが見てる方向を見るのが手っ取り早い。ただ、みなさん思いおもいの方にデジスコやバズーカ砲を向けているのでどっちを見ればいいものやらよく分からない。おおむね山の方を向いていたので、どうやらどうやらこちらがメインの方向のようだった。
 目をこらしてよく見ると、おお、確かに山の上で何か飛んでるな。って、ちっちゃ! どうせ上空高いところだから私の300mm望遠レンズくらいでは歯が立たないとは思っていたけど、予想を超える遠さだった。あれをまともに撮ろうと思えば300mmレンズくらいではどうしようもない。やはりここはデジスコの独壇場だった。一眼ではむしろ厳しい。明るい望遠に2倍テレコンをつけてもまだ届かないだろう。高画素機でそうやって撮ってトリミングするという手もあるにはあるけど。

伊良湖のタカ渡り-3

 黒い粒はけっこう上空を舞っている。その大部分はトンビなのだけど、中にはタカも混じっていたようだ。日差しがなくて羽の色が見えないもんだから、トンビとタカの区別もつかない。そもそもタカに関しての知識がほとんどないも同然なので、姿をはっきり見たとしても分からない。タカ撮りを私は侮りすぎていたようだ。そんなに甘い世界ではなかった。鳥撮り人は一日にしてならず。

伊良湖のタカ渡り-4

 一日目は夕方の短い時間で状況もよく掴めず、手応えのないまま終わった。
 二日目の天気予報は雨で降水確率は60〜80パーセント。たぶん駄目だろうけど、少しでも雨の降り出しが遅くなってくれと願いつつ起きたのが朝の6時。こんな時間に起きられるなんて、私としては奇跡のようなものだ。それに応えるかのように窓の外を見るとまだ降り出してない。これはもう行くしかないだろう。顔も洗わず服だけ着替えてホテルを出た。
 朝6時半、我々は再び恋路ヶ浜駐車場に戻った。その途中では電柱の上に止まったトンビが私たちを見送ってくれた。けっこう近い。これくらいの距離でタカが見られるといいのだけど。

伊良湖のタカ渡り-5

 早朝の6時半だというのに、すでにタカの観察会は始まっていた。しかも、とっくにという感じで。自分たちも相当早いつもりだったけど、実際は出遅れ組なくらいだった。みなさん、意気込みが違う。泊まり組もすでに機材はスタンバイ完了だった。
 けど、まだタカは出てきてないらしい。みんなあちらこちらへと望遠鏡や双眼鏡を向けてのぞいている。その方向は一定ではなかった。手持ちぶさたのようにぼんやりする人などもいて現場に緊迫感はない。私たちも海岸を歩いたり、海を撮ったりして過ごす。どうせ自分が第一発見者になれるはずもないのだ。人が騒ぎ始めたらそっちを見ればいい。実際に飛び立てばざわめきが起きたり歓声が上がったりするに違いない。

伊良湖のタカ渡り-6

 何度か数人が同じ方向にバズーカを向けて写真を撮っているような様子があるものの、思っているような盛り上がりもないまま時間は淡々と過ぎていく。私も思い出したように上空の黒い粒に向けてシャッターを切ってはみるものの、相変わらずトンビとタカの区別もつかない。なんとなく違うかなぁというやつも見かけはしても、それが何者なのかが分からない。
 そんな私たちのド素人ぶりを見かねて、一人のおじさんが近づいてきた。今、あそこに飛んでるのがタカですよ、という。何!? どこだ、どこだ? やや、あいつがそうか! トンビより小さいやつがそうです。おー、そうなんですか、あれが。なるほど比べてみると大きさも違うし、シルエットも違う。そこでようやくタカを見たという実感が少しだけわいたのだった。
 おじさんも外れ覚悟で連休を利用してタカを見に来たらしい。全国からホークウォッチャーが集うといっても、やはり来られる日は限られている。地元民なら通えても、遠くからなら一発勝負だ。毎年訪れてるような人でも、必ずしも当たりに遭遇するとは限らない。今年は5日がピークだといっても、来年も同じ日なわけではない。だいたい9月の終わりから10月の始めにかけてというぼんやりした情報にとどまる。ネットのブログ検索が最新の情報ということになるものの、それでも一日遅れだ。

伊良湖のタカ渡り-7

 やや低いところを旋回するように飛んでいたこいつは、明らかにトンビではない。羽のシルエットがほっそりして尖っているし、尾羽の形も違っている。これはチゴハヤブサというやつだろうか。全然自信がない。
 はっきり写った写真を見ても分からないのに、シルエットだけで当てろというのが無理な話だ。詳しい人でも、撮っているときは分からずに写真を見て初めて分かるということがあるんじゃないだろうか。とにかく遠い。
 このタカはこのときはまだ渡りではなかったようだ。しばらくぐるぐる回った後、また山の方に戻っていった。上昇気流を見つけられなかったのだろうか。
 タカの渡りは上昇気流を利用して行われる。上空を旋回しつつ上昇気流を見つけて、それに乗って高いところまで舞い上がったら、そこからは滑空しながら進む。途中でまた上昇気流を見つけて乗り直す。そしてまた滑空するという繰り返しで飛んでいく。
 秋から冬にかけて日本は寒くなっていくので、暖かい東南アジアへと渡って冬を越し、また春になったら戻ってくる。ただし、その春は集団にならないのでタカの渡りが風物詩になるところまではいかない。はやりタカの渡りは秋のものだ。
 東北や関東を出発したタカは、陸沿いを南下しつついったん伊良湖岬に集結する。ここで上昇気流を待って海を渡っていくのだ。一般的なコースとしては、紀伊半島から淡路島を通って四国を横断し、九州へと至る。第二の集結地が鹿児島の南端にある佐多岬だ。集まるタカの群れは数万羽といわれている。

伊良湖のタカ渡り-8

 これは上の写真のものとはまた別の種類だと思う。羽が太いし先端が丸っこい。トンビではないと思うけど、本当にそうかと聞かれるとはっきりそうだとは断言できない。ノスリあたりかなぁと思うけどどうだろう。
 タカといってもその種類は多い。オオタカ、クマタカ、ハイタカ、ツミ、チョゲンボウ、ハヤブサ、ミサゴなど。伊良湖の渡りの代表となると、サシバだ。ハチクマもそれに続く。
 街中でヒヨヒヨとうるさく鳴いているヒヨドリも集団で日本国内を南へと移動する。伊良湖でも大きな渡りの群れを見ることができる。その他、ツバメなども単独で渡っていく。
 松尾芭蕉も伊良湖を訪れて、「鷹ひとつ 見つけてうれし いらご崎」の句を詠んだ。季節は冬だったようで、芭蕉も季節をはずしている。渡りのシーズンに来ていたら、どんな句を残したのだろう。
 伊良湖がタカたちの渡りの中継地とはっきり分かったのはわりと最近のことで、昭和47年だったそうだ。それまでは、よく見られるなという程度で、タカ渡りの名所というほどではなかった。今ではすっかり全国区となっている。それは駐車場にとまっている車のナンバープレートでも分かる。このときは特に関東方面のナンバーが多かった。

伊良湖のタカ渡り-9

 近くでタカを撮ることはできなかったので、せめてトンビを大きく撮ってみた。これくらいの至近距離でタカを撮れたら楽しいだろうけど、そうしたければ黙ってデジスコを買うしかない。いや、本気でちょっと欲しくなってきている自分が恐い。タカに限らず、本腰を入れて鳥を撮りたければやっぱりデジスコだ。一眼では限界がある。
 今から来年の話をするのはちょっと気が早いけど、もし行けるようならもう一度行ってみたい気持ちはある。来年の今頃はどんなカメラで何を撮っているのだろう。もしかしてデジスコ使いになっていたりするのだろうか。もしそんなことになっていたら、無条件に行くことになるだろう。
 誰かがどこかで書いていた。秋の一日を無駄にするつもりで、のんびり眺めてください、と。確かにそうなのだ。ちゃちゃっと行って、ササッと撮って帰るとかそういうことではない。しっかり泊まり込みの用意をして、一日中粘るつもりで待つという姿勢が必要となる。
 人生の中の一日や二日、収穫のないまま無駄にしてもいい。今年こそタカ柱が見られるんじゃないか、今日の天候はどうだろう、去年話をしたあの人は今年も来てるだろうか、そんなワクワクを胸に抱いて出向いていって、することもなく日がな一日空を見上げて待って、今年はまずまずだったなぁなんて思い出を持って家に帰る。そういうトータルが風物詩としてのタカの渡り観察なのだと思う。大人の遠足のようなものだ。
 鳥の人ではない人も、来年は向こうで会いましょう。たいしてすることもないし、ゆっくり無駄話でもしながら秋の一日を過ごそう。伊良湖岬よ、また来年。渡っていったタカたちよ、春になったら無事に戻ってくるんだぞ。




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