 Canon EOS 20D+SIGMA 18-50mm f3.5-5.6
伊良湖に湖はない。これはある意味、意外な盲点だ。愛知県民にとっては馴染み深いこの場所も、他県の人にとってみれば琵琶湖とか諏訪湖のように湖のあるところだと思ったとしてもそれは無理のない話だ。逆に言えば、どうして湖もないのに伊良湖という名前なんだろうという疑問を持たない方がおかしい。 軽く調べたところによると、どうやら「いらご」という呼び名が昔からあって、伊良湖というのはその当て字らしいということが分かった。万葉集にも登場するほど古い地名で、かつては伊良虞、五十等兒、伊良子、伊良児など様々な字が当てられていたらしい。 一説によると、大昔は鳥羽の方まで陸続きで、湖のようになっていたところからその名がついたという話もあるようだけど、それは正しくない気がする。呼び名が「いらこ」ならともかく、「いらご」と濁るところからもともと湖は関係なかったはずだ。 「いらこ」と打って変換しないからといってPCを叱ってはいけない。「いらご」で変換すればちゃんと一発変換するのだ。 伊良湖といえば恋路ヶ浜がすぐに思い浮かぶ。伊良湖岬から日出の水門まで伸びる海岸名で、なかなかロマンチックなネーミングだけど、そこには悲しい恋の物語があるという。 昔、高貴な男女が許されぬ恋で都を追われこの半島に逃れてきた。女は表浜に住み、男は隠れるように裏浜に住むようになった。しかし、やがて二人は病気で死んでしまう。それ以来、いつしかこの浜は恋路ヶ浜と呼ばれるようになったのだとか。 日本中のあらゆる浜辺には悲しい物語が眠っている。その上にいくつもの恋人たちの足跡が踏み重なり、波が寄せては返し、返しては寄せる。幸福と悲劇はいつだって背中合わせだ。
 高い岩場に人影が二つあって、少し驚く。あんなところによく行ったなと思う。 ここは恋路ヶ浜が終わった東側で、この岩場の向こうは浜名湖まで延々と続く片浜十三里海岸だ。 近くには島崎藤村の「椰子の実」の詩碑が建っている。明治31年の夏に柳田國男がここで椰子の実を一つ拾ったことを藤村に話したのがきっかけで生まれたあの詩の舞台がこのあたりだ。 名も知らぬ遠き島より流れよる椰子の実ひとつ……。 伊良湖ターミナルの中には、椰子の実博物館というちょっとした資料館もある。無料だったのでのぞいてみた。機会があればそこの様子も紹介したいと思っている。
 このあたりは岩にぶつかって砕ける波頭が荒っぽい白さで、日本海の海岸を思わせる。 その様子を見ていると、海の力強さと怖さを感じる。
 これは「日出の石門(ひいのせきもん)」と名づけられた二つの石の内の一つで、写真では波に隠れているけど真ん中に穴が開いていて、ここから日の出が見られるという仕掛けになっている。長い歳月の荒波で削られて、ぽっかり穴が開いてしまったのだ。もう一つの石門は岸にある。 毎年、10月中旬と2月中旬に、この穴から朝日が昇る瞬間が見られるということで、この時期は朝っぱらから人が集まってみんなで写真を撮っているそうだ。私たちが行ったときはまだ少し早かったのだろうか。この情報を知らなかったから、朝はこの場所を訪れていない。タカ見とセットで見られるなら、ここも当然人気スポットとなるだろう。ただし、カメラマンの人種はだいぶ違う。同じ三脚人でも種類はいろいろなのだ。私としては、日の出の決定的瞬間よりも、三脚が並べたおじさんたちの写真を撮ってみたい。平均年齢がかなり高そうだ。 初日の出を見る場所としても有名なようだから、元日も賑わうのだろう。 昔は伊良湖の観光といえば恋路ヶ浜よりも、こちらが中心だったらしい。確かに俯瞰の眺めはこちらの方がいい。特に上から見下ろす片浜十三里は素晴らしい。こちら側の朝日と、恋路ヶ浜の夕陽と、両方見られれば言うことない。
 恋路ヶ浜は、砂浜がかなりきれいで歩いていてもいい感じなのだけど、浜に打ち上げられるものが多いのが少し残念なところだ。人工のゴミはあまりないのだけど、流木などの自然物が多い。これを拾ってきれいにすれば、もっと最高の浜辺になるだろう。 ここは4つの日本百選に選ばれている。砂浜が渚百選に、潮騒の音は音風景百選、松林風景が白砂青松百選に、渥美サイクリングロードが日本の道百選になっている。 伊良湖灯台から日出の石門までの1キロ、大きな波と、ゆるく弧を描くその姿が美しい。夏には海岸沿いに大きな白いハマユウが咲き、遠く近くに大小の船が行き交う。
遠く高い丘の上に建っているのは伊良湖ビューホテルだ。その名の通り、全室オーシャンビューが素晴らしいというのがうたい文句となっている。あれだけ高ければ見晴らしもいいだろう。 1泊2食付きで1万5,000円くらいだから、ちょっと贅沢に泊まるにはいいところかもしれない。食事抜きの安いコースなら1万円を切る。 タカの渡りを見るには、ややコースから外れていて遠い。タカ重視なら、ロケーションのいい格安ホテル伊良湖ホテルがある。素泊まりで4,000円くらいで、野鳥の会提携旅館にもなっている。
 かなり大きめの流木も横たわっていた。どこから流れてきたのだろう。これくらいのサイズとなると、海の中でビーチボールで遊んでいるときに後頭部に直撃したら気絶くらいでは済まない。 まあここの海岸はもともと遊泳禁止なので、それを守るならそんな心配は必要ないのだけど。 それにしてもこんなのが打ち上げられる瞬間を見てみたいものだ。何が打ち上がってきたのかとびっくりするだろうな。
 沖合には神島が見えている。恋路ヶ浜からは6、7キロといったところだろうか。遠泳が得意な人なら泳いでいけるかもしれないけど、普通の人は船で行く。伊良湖から15分とのことだ。 今回は全然行く気がなかったから調べもしなかったのだけど、帰ってきてから調べたところ、なかなか魅力的なところだった。三島由紀夫の小説『潮騒』の舞台となった島で、映画化のときは3回ともロケ地になっている。無人島と思っていたらそうではなく、現在でも500人ほどが生活してるそうだ。 一番行きたいと思ったのは、旅する蝶アサギマダラの中継地だと知ったからだ。ちょうど9月の終わりから10月の上旬にかけてアサギマダラが立ち寄るとのことで、これは知らなかったのが痛かった。知ってたら無理してでも行ったのに。島はタカの通り道でもあるから、あちらでもタカを見ることができる。 猫の島でもあって、いたるところに猫がのんびり寝そべっているという。そんなことを聞いたらますます行きたくなった。犬がいないそうで、猫はいたってのんきに暮らしているんだそうだ。島民の暮らしも素朴で、古い時代の日本風景も見られるらしい。 神島という名前が示すように、神のすむ神聖な島でもあるんだとか。それもあって、愛を誓い、プロポーズするのにふさわしい場所として、恋人の聖地30選にも選ばれている。 これで来年の10月、もう一度伊良湖へ行く理由ができた。タカとアサギマダラと猫がいれば、一日たっぷり楽しめる。来年といわず、今年もう一回行きたいくらいだ。
 こちらは恋人の聖地プロジェクト100選のうちの一つ、恋路ヶ浜の鐘だ。 手前に見えているのが「願いがかなう鍵」。内海の灯台にも同じようなものがあったけど、始まったのが2001年と、こちらの方が新しい。 「椰子の実」の詩にちなんで、石垣島から毎年プレートをつけた椰子の実を流すという試みが行われていて、それが14年目にして初めて本当にここまで流れ着いたというのを記念して始まったのが、「願いがかなう鍵」だ。願いを書いて鍵をかけると願い事が叶うとされている。 駐車場前の店やホテルのおみやげ屋などで、鍵と願いを書くためのマジックペンをセットにして売っていた。980円はちょっと高い。でも、100円ショップの鍵で済ませようなんて考えていては、叶う願いも叶わない気がする。恋愛に出し惜しみは厳禁という無言の圧力だろうか。
 夕暮れどきの鐘と、丘の上でこうこうと光る伊良湖ビューホテル。やや日本ばなれした風景だ。ここはやっぱり、恋人たちがよく似合う。
渥美半島は金輪際、高速道路や自動車専用道路を作る気がないのだろうか。作っても採算が取れないというのは分かるけど、豊川インターからの一般道はあまりにも遠く感じる。名古屋からは不便すぎて、めったなことでは行く気になれない。三重県の鳥羽からの方が船で近い。名古屋港から安い海上バスでも出てればいいのだけど。もしくは、知多半島の先端から橋をかけられないものか。 それはともかくとして、伊良湖はいいところなので、個人的には好きだしオススメもしたい。タカの渡りというのは特殊な楽しみで、それがすべてじゃない。海と砂浜を見るだけでも行く価値がある。 私はまた来年の秋だ。
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