 Canon EOS 20D+SIGMA 18-50mm f3.5-5.6
路面電車には異国情緒のようなものがあって、私は路面電車を見るとそれだけでけっこう興奮してしまいがちだ。ただ電車が道路を走っているだけなのに。 名古屋もその昔は市内を路面電車が走っていた。1973年まであったというから、私も幼い頃に見ているのかもしれない。まったく記憶にはないのだけど。 現在、愛知県内では豊橋市に唯一残っている。天下の国道1号線を路面電車が走るのはこの豊橋だけだ。地元では単に「市電」と呼ばれることが多く、街のシンボルともなっている。正式名は、豊橋鉄道東田本線(あずまだほんせん)という。 前から一度見てみたいと思っていたところへ伊良湖行きがあって、その帰りにせっかくだから見ていこうということになった。あれももう先月のことになる。 あまり時間がなかったのでついでに少し写真を撮るというだけで、乗ったりはしなかった。今になってみると、一区間だけでも乗っておけばよかったかと少し悔やんでいる。来年、伊良湖へタカの渡りを見に行くことがあれば、そのときこそ乗ってみよう。 全長わずか5.4キロ、20分と、日本で一番短い路面電車となっている。停留所は14。端から端まで乗っても150円。ちょっとした旅行気分を味わうにしても安上がりなもんだ。
 豊橋の地理はまるで分からないのだけど、豊橋駅と東エリアの赤岩口、運動公園前をつなぐ路線にどれくらいの需要があるのだろう。東京の都電は大賑わいだったから、あれなら黒字というのは分かる。豊橋の場合は見ていた範囲では利用者は少なそうだった。朝夕の通勤通学時は混雑するにしても、昼間は乗客が少なそうだ。 おそらく、単なる交通手段としてではなく、付加価値を持った存在としての意義を豊橋は見いだしているのだろう。この路線ならバスで充分まかなえる。 豊橋路面電車のちょっと驚くことは、昭和57年(1982年)に600メートル延長して、更に平成10年(1998年)には150メートル延ばして豊橋駅まで乗り入れしたことだ。全国で次々に路面電車が姿が消していく中、時代に逆行して路面電車を延長するところなどめったにあるものではない。 けど、経営はさすがに厳しいものがあるのか、電車はどれも動く広告塔になっている。最近はバスもこういう広告カーが増えた。カラフルになって見た目はいいのだけど、ときどき情緒がない。
 見慣れてしまえばなんでもない光景も、よそ者の目には新鮮に映る。路面電車のある風景はやっぱりいいもんだ。古き良き時代が偲ばれる。 生き急ぐ時代だからこそ、こういうのんびりした要素がアクセントとなって、人の心を和ませる。都電や江ノ電に人気が出るのもうなずける。あまり深くうなずくと電車の人となってしまうので、うなずきは小さめにしておきたい。
 路面電車は交差点を大きくカーブしていく様子が絵になる。 豊橋の路面電車の線路には日本一の急カーブがあるというのだけど、それはここのことだろうか。違うのか。 豊橋にもかつてのカラーリングを再現したレトロ電車が導入されて走っているという。これがそうかと思ったら、ちょっと違った。カラーはこんな感じだ。
 歩道橋を渡って反対側から狙ってみる。 ここはちょうどおあつらえ向きに歩道橋がぐるりとつながっているから、電車を撮るには絶好のポイントだ。きっと電車の人たちが頻繁に出没する地点に違いない。一般の人からしたら、このときの私たちが電車の人に見えていたのだろう。
 こうして見ると、やぱり路面電車がいかに無駄に多くのスペースを取っているのかがよく分かる。この部分を道路にしたら、どれだけ車の流れがよくなるか。車社会になって邪魔者にされて、次々に姿を消していったのも仕方がないことだった。 荒川線の路面走行部分は車と共有していたけど、ここは独立していて車は進入できない。共有は事故の危険性も高まるし、あまり現実的ではないか。 でも、やっぱりこの風景はいいなと思う。なつかしくて、むしろ新しい。近未来では、ここをチューブに入った電車が走っているかもしれない。
 すれ違う電車。私は電車の人ではないから、何形とかそういうことは一切分からない。モ3100形とかモ3200形とかいろいろあるようで、その道の人は一目見たら分かるのだろう。 調べてみると、ここを走っているのは、どこかしらからもらった車両が多い。名古屋市電から譲り受けたものがかつての主力だったり、岐阜などで廃線になった電車を引き取ったり、都電からももらっている。ほとんどもらいものだけで成り立っているようだ。車両に詳しい人なら、これはあそこで走ってたやつだとか分かって楽しいのだろう。それをいちいち説明されも、はぁとしか言えず困ってしまうのだけど。
 豊橋は車のバックミラーにも路面電車がいる素敵な街だった。もっとじっくり時間をかけていろんな角度から撮ってみたかった。このあと都電でけっこう撮ったから余計にそう思う。また次の機会を作ろう。
1930年代のピーク時は、全国65の都市で路面電車が走っていた。49都道府県だから、1県に1線以上あったということだ。 戦後、車社会の発展と共に過去の邪魔者扱いされて、現在は全国で20都市ほどで走っているのみとなった(一部が路面電車だったり、路面を走っていても路面電車扱いになってないところなどもある)。岐阜市も、2005年の3月でとうとう廃止になってしまった。 今後もますます減り続けるだろうと思いきや、世界をみると、実は逆に増える傾向にあるというのだ。世界では50以上の国の400都市で路面電車が走り、一度廃線になったものが近年復活した例が50都市以上もあるらしい。地球温暖化だ、環境破壊だなどと言われて久しい現代だからこそ、路面電車のよさが見直されつつあるのだろう。日本にもこの流れがやってこないとも限らない。地下を掘るばかりが脳じゃない。 地方ではなかなか採算が取れないだろうけど、都市ならいけるはずだ。モノレールなんかを作るよりもよほど安いし、バスよりも安全でクリーンだ。ガソリンも高くなる一方だし、そろそろ脱車社会という方向に転換していってもいい時期なのかもしれない。 21世紀型の路面電車というものある気がする。銀河鉄道999のように外観はレトロでも中身は最新鋭みたいなものが。 またどこかの街へ路面電車に撮りに行こう。そうこうしてるうちに私も知らずしらず電車の人となっているかもしれない。寝言で「キハ……形」とか言い出したら、もう引き返せない。残り後半生は、撮り鉄として生涯を全うするしかあるまい。
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