 FUJIFILM FinePix S2 pro+VR Nikkor 24-120mm f3.5-5.6 / Nikkor 35mm f2D / DMC-TZ1
この風景を撮りたくて、年末のせわしない中、近鉄の終着駅の一つである賢島(かしこじま)までぶらっと行ってきた。この時期にそんなことをしてる場合かという気がしないでもないけど、この一枚が撮れたことで行ったかいがあったとしたい。 賢島大橋から見る夕焼け風景は、日本の夕陽100選にも選ばれている。見所が多くない賢島の中では、一番の名物と言ってもいい。これ以外に何もないのが賢島というところだったりする。 残念ながら夕陽は雲に隠れたまま沈んでしまったけど、空と海の焼け具合は悪くなかった。オレンジに染まった入り江の静かな海に、真珠の養殖筏のシルエットが点々と浮かぶ様子は、英虞湾(あごわん)特有の景観だ。港に帰ってきた船が描く波模様がアクセントとなった。
 時間を朝までさかのぼる。 ここは朝の近鉄宇治山田駅のホーム。白いソックスの女子中学生と二両編成のローカル列車が懐かしい。昔ながらの近鉄風景だ。 今回、賢島へ行ったのは、深い意味があったわけでも、賢島に対して熱い思いを抱いていたからでもない。ただ単に近鉄電車を使ってなるべく遠くまで行ってみたいと思ったとき、たまたまた賢島になったにすぎない。 奈良へ行くときに近鉄の株主優待券を使って安く行く方法を知って、それなら別のことろへも行けるじゃないかと思いついた。チケットは1,000円前後で手に入るから、近鉄が走っているところならどこまででもその金額で行くことができる。奈良だって京都だって大阪だって。その一つが賢島だったというわけだ。 賢島というのがどんなところかまったく知らなかったけど、島というのに惹かれたというのもあった。島という響きにはロマンがある。ネットの情報がほとんどない中、行けば何かあるだろうという軽い気持ちで私は近鉄の急行に乗り込んだ。特急を使うと特急券が必要になって安くなくなってしまうから、なるべく安くて遠くまでという趣旨に反する。途中で特急に追い抜かれながら、のんびり急行で行くことにしよう。
 イメージも中途半端なまま、賢島に到着した。島といっても本土とは短い橋一本でつながってるし、電車も乗り入れてるから、離島という感じはまったくしない。ただ、近鉄の終着駅に着いたという感じだけだ。しかし、自動改札もない駅で、駅員に切符を渡して出るというあたりはさすがに田舎に来たなと思わせる。 さて、駅から出たもののどこへ行っていいものやらよく分からない。一応マピオンの地図は印刷してきたけど、簡略地図なのでどの道が歩ける道なのか判断がつかない。 とりあえず船着き場から左の方に向かって歩き出した。東へ向かってぐるりと一周歩いて回ろうと思って。がしかし、いきなり行き止まりになった。なんだそりゃ。道が切れてその先は海になっている。なんだこの道は。意味があんのか!? 仕方なく元来た道を引き返して、また駅前に戻ってしまった。 これは単なる序の口にすぎなかったことをあとから私は知ることとなる。2時間後、この島は観光客が歩くようにはできていないという結論に達した。あっちで行き止まりになり、こっちで私有地につき進入禁止といわれ、はたまた別のところでは立ち入り禁止の看板が立ちふさがる。島の西半分で私は2時間もさまようことになるのだった。
 島で一番の老舗真珠屋「松井眞珠店」。志摩地方の英虞湾といえば真珠が有名で、多くの真珠が養殖されている。 松井眞珠店の創業は明治38年だから、かれこれ100年になる。昭和4年に賢島に店ができて現在に至っている。 ここは映画『男はつらいよ 寅次郎物語』(39作)の舞台にもなったところだ。映画を観て覚えている人もいるかもしれない。私も観てるけど、ここが出てきたかどうかまでは覚えていない。 店構えは老舗らしい本物の古さがある。このあとうっかり足を踏み入れた私は大いに戸惑うことになる。ちょっとしたおみやげを買おうとしたら、数千円単位のものがない。ちょっとした小粒のものでも数万円は当たり前という世界で、すみません、真珠を侮ってました私と誰にともなく謝りたい気持ちになった。安いものはいくらでもあるのだろうけど、老舗のプライドから廉価なものは扱っていないようだ。
 略地図を頼りに、島の西側へとやって来た。それにしても、この島は道が少ない。海に囲まれた島であるにもかかわらず、なかなか海へ辿り着けない。細い道を進んでいくとホテルの敷地だったり、民家に行き止まりになったり、真珠の養殖場に出たりと、思うようにならない。やっとの思いで視界が開けたこの場所も、港関係の事務所などがあるところの裏手だった。およそ観光客が海を見ながらたたずむようなスポットではない。 この島には公園もないし、休憩所のようなところも見あたらず、そもそも散策路のたぐいが一切ない。道は生活のための最小限の道で、それは島の中央部分に集まっている。それ加えて私有地だ立ち入り禁止だというから全然歩けない。 ここまで観光地化されてないと、かえってすがすがしい。なるほどそういうことかとこっちも納得する。 ただ、それじゃあ手つかずの自然が残されていて冒険心を駆り立てるかといえばそういうこともない。島の住人は150人ほどだそうだけど、適度に開発はされているから、古き良き島の風情といったものもない。要するにここは、島で暮らす人のための島なのだ。観光客を呼んで成り立っているのではない。私が勝手に思い描いていたようなロマンチックな島ではなかった。
 入り江近くの養殖筏。お母さんたちが何か作業をしていた。 向こう岸に見えているのが住居だろうか。これ以上近くに寄っていけるような雰囲気ではない。 左奥に見えているクレーンは、何か大がかりな工事をしていて、立派な建物を建てていた。必ずしもさびれる一方というわけではなく、開発は続いているということなのだろう。新しいホテルでも作ってるんだろうか。
 賢島ホテルは閉鎖して久しい様子だった。 この島の状況ではなかなか商売繁盛とはいかないだろう。夏場は多少賑わいも見せるのかもしれないど、海水浴場のようなものもなさそうだから、あまり期待はできない。美味しい食事などは食べられそうではある。 この近くにはドッグラン場なんてものがあったけど、そちらも扉は閉ざされていた。なんで唐突にここにドッグランだったんだろう。あれは街中で犬を自由に放せないから意味があるもので、島なら犬くらい好き勝手に走り回らせておけばいい。ドッグランなんてものは必要ない。そもそも犬の姿もまったく見なかったし。そういえば猫もいなかった。港町にノラはつきものなのに。
 植生はあまり豊かな感じではなかった。道の両脇にはシダが繁殖している。このあたりは原生林ということになるのだろうか。 鳥の声はたくさん聞こえていたから、野鳥にとってはなかなか住みやすいところなのだろう。動物はタヌキ、キツネ、イノシシなどがいるそうだ。中には本土から泳いで渡ってくるやつもいるらしい。その決定的瞬間が撮れたら最高だったけど、そういう動物たちとは出会えなかった。
 島でおそらく唯一の神社であろう、賢島金比羅宮の鳥居前だ。 階段を登ってお参りしてきた。参拝客はあまり多くないようだ。それでも、これが島の守り神ということになるはずだ。 金比羅宮といえば香川の金比羅さんが有名だ。海の守り神ということで、金比羅さんを島の神として招いたのだろう。
 志摩マリンランドの屋上展望台から見た賢島大橋。志摩マリンランドの話はまたあらためてしたいと思っている。 橋の左側が賢島で、右は本土。これだけしか離れていないから、島という感じが希薄なのだろう。東側にももう一本、賢島橋が架かっていて、隣を近鉄が走っている。 本土と島の一番近いところは10メートルしかない。 島の人口が少なく、船で行き来する必要がないということで、生活に必要な店なども島には揃っていない。コンビニやスーパーのたぐいも見あたらず、暮らすには恐ろしく不便そうだ。 小学校、中学校もなく、何故か代々木高校という高校だけがある。これも通信制なのか、普通の高校ではないかもしれない。 島には子供がいるのかどうか、冬休みに入っただろうに、姿は見かけなかった。
 賢島大橋から見た入り江の奥の方。写真には写ってないけど、右手に志摩マリンランドがある。右奥遠くに見えているのは、本土側にある賢島グランドホテルだろうか。 こちらは東向きになるから、朝焼けのときがきれいだろう。
 賢島大橋から今日の夕焼け風景を見たのは私だけではなかった。先客として女の子の二人組がいて、その前には男の人も一人いた。やはりここは夕焼けスポットとしてよく知られた場所なのだろう。ホテルから見るなら、賢島ビューホテルが最適のようだ。志摩の南東にあるという西山慕情ヶ丘(にしやまぼじょうがおか)というのはどこにあるのか分からなかった。 最初の予定では、この場所で夕景から夜景にかけても撮ろうと思っていたのだけど、雲が多くなって夕焼けも鈍くなっていったので、早めに切り上げて帰ることにした。もう充分堪能したから、それでよしとしよう。
賢島。なんてところだろう。今日行って帰ってきたばかりで、まだ自分の中で完全には整理しきれていない。写真もまだだいぶ残っているので、志摩マリンランドとあわせてあと2回か3回は賢島編が続くことになると思う。最後に総括して感想を書くことにしよう。あと2、3日は寝かせないと印象も成熟しない。 いずれにしても、行って良かったことだけは間違いない。行かなければどんなところか分からなかった。観光という意味ではほとんど何もないところだけど、私としては得るものがいろいろあった。言葉としては矛盾するけど、ぼんやりとした強い印象を長く残しそうな気がしている。
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