現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
名東区三大緑地の一つ猪高緑地は演出下手でいい作品になり損ねている
2008年03月19日 (水) | 編集 |
猪高緑地-1

Canon EOS 20D+EF-S 17-85mm IS / EF 75-300mm f4-5.6 IS / TAMRON 90mm f2.8 SP



 名古屋市東部の名東区には3つの大きな緑地がある。そのうちの2つ、牧野ヶ池緑地と明徳緑地はここにちょくちょく登場しているのに、もう1つの猪高緑地(いたかりょくち)はほとんど出てきていない。ブログを調べてみると、2005年の12月に一度出たのが最初で最後だった。2年以上行っていないというのは自分でも驚いた。
 場所は東名名古屋インターの近くなので、家から車で15分と、牧野ヶ池より近所だ。なのにどうしてそんなに行っていないかといえば理由ははっきりしている、写真の撮りどころが少ないからだ。これまでに4度は行っているけど、いつ行っても収穫が少なくて、そのうち足が遠のいてしまった。
 まず花が少ない。だから虫も集まってこない。池には水草なども豊かではないのか、冬場もカモの飛来数が周りの池に比べて極端に少ない。初夏は多少賑やかになるものの、他の緑地ほどでもなく、それ以外の季節は見所があまりないというのがこれまでの猪高緑地に対する私の印象だった。
 それが今回急に行く気になったのは何故だろうと自分自身に問いかけてみたけど、よく分からなかった。ふいに思いついて、久しぶりに行ってみようかと思っただけだ。本当に何もないのか、もう一度確かめてみたいというのもあった。

 表通りの方の駐車場がよく分からないので、いつも名東プールの裏に車をとめている。駐車スペースが10台分くらいあって、散策コースの入り口だから便利というのもある。名東プール側のスペースにとめると夕方5時で閉められてしまうので注意が必要だ。
 上の写真は、この緑地最大のため池の塚ノ杁池だ。夏から秋にかけては水面が見えないほど水草が覆っているけど、冬場はそれも消えてクリアになる。水も悪くなさそうだ。なのにカモたちには人気がなくて、めったに見かけない。近くの牧野ヶ池や明徳池とどこがそんなに違うんだろう。
 ここはブラックバスの池で、バス釣りの人の姿を見かける。バスがエサにしている小魚もいるはずだから、そういうのを狙ってサギなどがいてもよさそうなのに、それも少ない。今日はコサギを1羽見かけただけだった。カワウにさえ見放されているのか。
 遠くの雑木林からは鳥たちの声がさかんにしていたから、鳥はそれなりにいそうだ。

猪高緑地-2

 この池に限らず、この緑地はどこか暗さがある。生き物の気配があまりなく、この空間を包んでいる気が重たい。気のせいかもしれないし、相性がよくないというのもあるかもしれないけど、雰囲気としてやや健全さに欠けるところがある。自然というのはもっと陽気で命に満ちているもののはずなのに、静かというか躍動感がない。歴史的にみて、何かあったところではないのかと勘ぐったりもするけど、私には霊感などない。
 緑地の東部分はもっと開けていて、公園やテニスコート、スポーツセンターなどがあって、そちらのゾーンは明るい。ここは二つの顔を持つ緑地と言えるだろう。

猪高緑地-3

 散策路はきちんと整備されていて、歩く人もそれなりにいるから荒れている印象はない。ただ、名古屋市内であることを忘れさせるワイルドネイチャーで、アップダウンもきつい。ヒールで散歩できるような場所ではなく、ほとんど小山歩きに近いくらいのものがある。雑木林も一歩踏み込むと、そこはジャングルだ。タヌキやキツネが生息しているというのも納得する。今日も茂みの中で鳥よりも大きな何かが動いていた。
 最初にこの緑地を歩いたときは、一番奥で日没を迎えて迷子になった。本気で朝まで出られないんじゃないかと思ったほどで、泣きそうになった。市内の緑地だと思って侮っていると痛い目に遭う。最後はデジカメの液晶モニターの明るさだけを頼りに道を探しながら歩いた。街にもまだまだ闇はあるのだと思い知ったのだった。
 あちこちに人の手は入っているものの、昔ながらの里山の雰囲気を色濃く残している。市内の緑地の中では最もワイルド度が高い。

猪高緑地-4

 畑になっている一角があって、そこには街の空き地や田んぼなどで見かける野草たちが咲いている。実はこういう野草は、山中には少なくて、人の暮らしの近くの方が多い。山の栄養素が少ない土よりも、農作物用の肥沃な土を好む。
 人のいない野生の方が命に満ちていると思うのは勘違いだ。自然の生き物たちも昔から人間と上手く共存して豊かさを獲得してきたという一面がある。だから、里山でも人が入らなくなるとだんだん荒れて自然の命が少なくなっていく。
 今は程良さのバランスが崩れてしまった。昔みたいにはもう戻れないから、今後は自然を作り出すという方向で進めていくしかない。

猪高緑地-5

 オオイヌノフグリは日の出と共に咲き始めて午後にはしぼんでしまう一日花だから、夕方はほとんどの花が閉じてしまっている。わずかに夜更かしのやつが咲いているだけだ。今日は夕方から太陽が隠れてしまったから、咲き残っているやつも普段以上に少なかった。
 人が立っている目線からは小さな青い雑草でしかないものが、しゃがんで近づいてみることで青い宝石に見える。視線を変えることと近づくことの大切さを野草は教えてくれる。この世界も、自分が立つ位置と見る場所によってまったく違って見える。

猪高緑地-6

 春先の地味な野草の代表選手のようなナズナも、近寄ってみれば、両手を一杯に伸ばしてバンザイしてるように一所懸命咲いている。
 ナズナなんていうよりぺんぺん草といったほうが通りがいいだろうけど、ぺんぺん草を見分けられる人も最近では少なくなったのかもしれない。昔の子供は野山や空き地で遊んでいたから、そういうところで見る草や花は多少なりとも知っていた。そういう場所を子供たちから奪ってしまった世代の大人たちの責任は、思っている以上に重い。
 でも、こうやって行くところに行けば、まだまだたくさんの野草が咲いている。そういうのを見せて教えてあげるのも大人の責任だろう。
 地球上のことで知らなくてもいいことなんて何もない。

猪高緑地-7

 彼岸の入りで春本番というのはまだまだ暦の上でのことで、自然の風景はまだ冬色をしている。
 それでも至る所に春の訪れは表れていて、目に見えやすい花という形だけでなく、こうして枯れ枝に新芽がたくさん芽吹いていたりもする。
 冬の色は茶色で、春の色は緑だ。学生の制服の色が変わるように、自然界も4月になれば衣替えをする。気づいたらいつの間にかそうなっているものだけど、その変化の始めを見つけることができたらそれは嬉しいことだ。自分もまた、あらたな気持ちになれる。

猪高緑地-8

 畑ゾーンをあとにして、再び散策に戻る。
 右に曲がって木道の方へ行けば、スポーツセンターなどがある表通りに出る。どうしてここにだけ木道を作ったのかはよく分からない。湿地帯というわけでもないのに。ただの気分か、雰囲気作りか。
 初夏になると、この木道沿いに植えられているアジサイの花が咲く。季節イベントが少ない猪高緑地の中では貴重な花風景となる。

猪高緑地-9

 私は木道の方には行かず、いつも一番奥というか、北西出入り口方面を目指す。
 勢子坊の竹林と名づけられたこの竹は、野生のものなのか人工のものなのか。
 タケノコ盗るな、なんていう立て札もある。そういえばそろそろタケノコの季節だ。新タケノコは美味しいから楽しみにしている。

猪高緑地-10

 井堀分岐近くに、井堀の大クスと名づけられた大きな楠が立っている。名前がつけられているくらいだから特別な木なのだろう。かなり立派で、まだまだ元気がある。もっと大きくなりそうだ。
 長く生きた木には敬意を払いたくなる人間の心理からして、長生きの木には精霊が宿るというのは本当かもしれないと思う。そういう畏敬の念というのも人間には必要なものだ。

猪高緑地-11

 奥の方にも、井堀上池、井堀下池という2つの池がある。
 こちらは更に生き物の気配がない。死んだように静まっている。昔はもっと生き物もいたんだろうけど、今は寒々しい。夏になればもう少し生き生きとするようになるのか。
 近くにめだか池と書かれた小さなため池があった。めだかを放流しているのかもしれない。そういう試みはもっとしてもいい。ホタルが飛び交う里山にするといったようなこともあちこちでやっている。
 せっかく素材としていいものがあるのだから、もっと有効活用できないものだろうか。活動グループの人たちがいろいろやっているにしても、名古屋市民の関心が低いのが問題だ。現状では人を呼ぶ魅力に欠ける。

猪高緑地-12

 北西部分は復元棚田になっている。振り返ると高速道路が通っている場所だけど、ここが猪高緑地の中で一番いい場所だと個人的には思っている。田植えが終わった初夏は、里山の田んぼ風景が広がっていい感じになるのだ。
 ここは個人のものではなく、オーナー制のようになっているんじゃなかったか。体験田植えなどもできるのかもしれない。田植え前の水を張った田んぼでどろんこ大会などをしても面白そうだ。

猪高緑地-13

 そうこうしてるうちに日没時間となった。もう道は分かっているとはいえ、迷子になったときの記憶は消えずに残っていて、帰り道は自然と早足になる。暗くなる前に脱出しなくてはと気持ちが焦る。

 猪高緑地は、歩くにはとてもいい場所だ。街中でこれだけ自然の中を歩ける場所は多くない。広さも適度で、ざっと歩いて1時間くらい、全部歩いても2時間くらいだろう。道は平坦なだけでなく、アップダウンあり、ちょっとした山登りもありと変化に富んでいる。
 写真となると撮りどころが少なくてもあまりおすすめできない。初夏に行けばそこそこ撮るものはあるのだけど。
 個人的には、豊田市自然観察の森くらい手を入れて、生き物いっぱいの森にしたらどうだろうと思う。お金も時間もかかるけど、牧野ヶ池とも明徳緑地とも違うオリジナリティのある緑地にして、もっと市民に親しんでもらうというのは悪くない考えじゃないか。豊田市自然観察の森は、生き物満載であんな楽しいところはめったにない。手つかずの自然を残すよりも、身近にある自然の魅力を分かってもらうことの方が、与えるものは大きい。それが作られたものでもかまわない。
 私の猪高緑地に対する印象は、今回も変わることがなかった。もったいない。面白い原作を演出が下手なばっかりに面白い作品にし損ねた映画を観るようだ。それでも随所に魅力はあるので、捨てがたさは残る。




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