現身日和【うつせみびより】
この世界にはたくさんの美しいものや面白いものがあることを知るための毎日であれば、それは楽しくて幸せなこと。
富士には富士桜がよく似合うと言いたかった -激闘・河口湖編<第五回>
2008年05月07日 (水) | 編集 |
富士桜-1

PENTAX K100D+TAMRON SP 17-35mm f2.8-4 / TAMRON 70-300mm f4-5.6 Di



 富士御室浅間神社の流鏑馬を見たあと、1時間かけてよろめくような足取りでなんとか河口湖駅に帰り着いた我々は、創造の森行き最終バスに乗り込んでやれやれと思ったのもつかの間、チケットは駅の窓口で買ってくださいと言われて大あわてで駅まで走り、窓口のお姉さんからチケットをひったくるように受け取って、大急ぎでバスまで戻るというてんてこ舞いぶりを見せた。この時点で私たちは河口湖周辺で一番ヨレヨレの二人組だったんじゃないだろうか。
 富士山五合目行きの路線バスは、15分ほどかけて創造の森に到着した。途中でこの日初めて窓の外に富士山が見えて、おー、見えた、見えたと喜ぶ二人。初めて富士山を見た外国人のようだ。しかし、至近距離で見る富士山はやっぱり迫力がある。他の山とは威圧感が違う。遠くから見る富士は女性的な曲線で優しげだけど、近くから見る富士はオヤジのような荒々しい存在感だ。
 富士山の麓近くのへんぴなところにある創造の森までわざわざ行ったのは、このあたりに自生する富士桜というのを見るためだった。「富士桜ミツバツツジまつり」というのが開催されていて、行く前から楽しみにしていた。
 森の様子を写真に撮ると雑然としてとりとめがない感じだけど、実際はもっと印象的な桜風景が広がっていた。カラマツ林の中で、可憐な白い富士桜と、鮮やかなミツバツツジが彩りを添えて、これぞ野生の春といった風情だ。
 富士山麓の遅い春を告げるこの二つの花は、人の手によって植えられたものではなく野生で咲いているものだ。そこがいい。毎年4月の中旬から5月の半ばにかけて花を咲かせる。今年は一週間くらい早かったようだけど、ソメイヨシノのように花期が短くないから連休中は大勢の人で賑わっていたことだろう。今日は天気が良かったから富士山がよく見えただろうか。
 土壌の関係で、富士山の2合目から1合目にかけてたくさん自生して、離れるほど少なくなっていくんだそうだ。富士吉田市にも多く咲いていて、そちらでも毎年富士桜まつりが開催されるようだ。

富士桜-2

 かなり広範囲に広がって自生しているようで、向かっている途中の道路の両側にも点在していた。桜会場になっている創造の森がやはり一番多いようだ。
 写真の中央あたりに写っているのがバス停で、私たちが乗った路線バスは、この先の終点まで行って折り返し運転となる。つまりそのバスを逃すと帰る交通手段がなくなるということだ。その間、30分ちょっと。のんびりしている暇はない。さあ、急いで富士桜を観賞だ。
 なんて、ハードでタイトなスケジュールなんだ。この日の我々は、最初から最後まで売れっ子タレントみたいに時間に追われる一日だった。

富士桜-3

 あー、なるほど、こういう感じねと、一目見て納得した。手作り感が強いこんなイベント会場ってあるある、と思う。どこが開催しているのかは知らないけど、屋台とかが並ぶというのではなく、地元の関係者がみんなで協力してやっているようだ。
 特産品の販売や、苗木のプレゼントなどがあったようだ。ボランティアによる野草ガイドコーナーなんてのもあった。けっこう渋い。ゴールデンウィーク期間中はオリエンテーリングなどの参加型イベントも行われた。

富士桜-4

 桜祭りだから桜ソフトだろうと思いきや、それはラインナップにない。ノーマルのバニラでは面白くないということで、山梨にちなんで巨峰ソフトを選んでみた。300円だったかな。
 味は濃厚というか、懐かしいというか、昔の粉で作るグレープフルーツジュースのような味だった。ソフトがちょっとシャーベット状になっている。なかなか美味しかった
 そういえば、体がソフトクリームを求める季節になったんだという点でも初夏を感じたのだった。もっと暑くなるとアイスが食べたくなり、それが氷に変わったらもう夏本番だ。季節というのはそういうところでも感じ取ることができる。

富士桜-5

 花の販売も行われていた。普段花を買うことがないので安いのかどうなのか判断ができない。いくら安くても、こんなところで買って持って帰るのは大変だ。買うのは車で来た人たちだろう。
 富士桜やミツバツツジも売られていたようだ。背丈よりも大きな桜の木をかついで電車に乗ってもいいもんなんだろうか。

富士桜-6

 富士桜は、とても小さくて可憐で、これはかわいい桜だ。遠くで見ると華やかさはないけど、近くで見るとその魅力が分かる。いっぺんで気に入った。
 品種としてはマメザクラ(豆桜)という野生種で、富士山や箱根山を中心とした山地に多い。フジザクラというのは別名というか通り名だ。昔は箱根桜ともいったようだ。
 咲いている姿がうつむいて恥ずかしそうに見えるところから乙女桜とも呼ばれているとか。
 花の直径は2センチくらいの背の低い桜で、そのあたりからもマメザクラの名がつけられたのだろう。
 大きくならないから盆栽としても人気らしい。この盆栽なら欲しい。いっちょ買ってやろうかと思ったらけっこう高かった(5千円くらい)。

富士桜-7

 マメザクラは変種が多くて、花の色も白からこんな紅色まであるというから、これもマメザクラでいいんだろうか。上の写真のものとはまったく別の種類の桜に見える。八重咲きのものもあるようだ。
 花はガク(萼)の部分が長いのが特徴で、まれにガクが緑色のものもあるらしい。
 マメザクラの中には、富山や石川と近畿に自生するキンキマメザクラ(近畿豆桜)もある。

富士桜-12

 ほんの短い時間、明るい光が差したときがあって、あわてて撮ったのがこの一枚だ。このあとまたすぐに太陽が雲に隠れてしまって、そのまま日差しが戻ることはなかった。
 光に当たると、うぶ毛が多いのがよく分かる。これも富士桜の特徴の一つだ。

富士桜-8

 これは富士桜じゃないと思ったんだけど、どうだろう。背が高すぎるし、花のつき方も多すぎる気がする。でも、これくらい大きく育つ富士桜もあるのかもしれない。ほっそりした幹と枝を見るとそれっぽい。

富士桜-11

 森の中ではいろいろな鳥の鳴き声が聞こえていた。光がなくて、木が茂っているから姿はほとんど見えなかったのだけど、シジュウカラだけは撮れた。
 ウグイスもホーホケキョと盛んに鳴いていた。ウグイスは山梨県の県鳥になっている(福岡県も)。
 県の花は富士桜だ。
 ついでに書くと、桜を県花にしているのは、東京がソメイヨシノ、京都がしだれ桜、奈良が八重桜と、4つしかない。意外と少ない。愛知県のカキツバタは知立や刈谷に有名なところがあるから納得だ。

富士桜-10

 すごい毛深くてもしゃもしゃな枝が面白かったので、見上げて一枚。
 上からざばっと罠が落ちてきて捕らわれそう。

富士桜-9

 富士桜とミツバツツジと富士山のコラボレーションを撮ろうというもくろみは、厚い雲に阻まれて果たせなかった。バスから見えていたのもほんの一時のことで、またすぐに隠れてしまった。かえすがえすも残念無念。
 せっかく太宰治に対抗して、富士には富士桜がよく似合うというセリフで決めようと思ったのに、肝心の富士山が見えなければ用意してきた決めゼリフもひっこめるしかない。
 バスの時間ぎりぎりまで粘ってはみたものの、ついに富士が全貌を表すことはなかった。

 このあと我々は無事に最終のバスに乗り、河口湖駅まで戻ることができた。間髪入れず最終のレトロバスに乗って美術館へ行き、また戻りの最終のレトロバスに乗るという綱渡りのようなことをすることになるのだけど、それはまた別の話。
 河口湖編はそろそろ終わりが見えてきたようだ。番外編が1回におさまるか、2回になるか。
 今日でゴールデンウィークも終わったことだし、ぼちぼち河口湖編も完結させて次のシリーズに移りたい。実は松本も滋賀もまだ完全には完結していないことがずっと気になっている私なのだけど。




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