江戸彼岸、その千年の孤独の中で何を夢見る 2006年4月4日(月)

春日井に覚成寺というお寺さんがあって、そこには推定樹齢100年の立派なエドヒガン桜がある。しかし、非常にマイナーな存在で、ほとんど誰も知らない。というと大げさだけど、検索してもこの桜に関するページは数件しかヒットしないということからみても、かなりマイナーであることは間違いない。その中の一件は私のページだし。近所の人か、檀家さんくらいしか知らないのではないかと思われるほど、訪れる人も少ない。こんなに満開だというのに。
去年、ネットでこの存在を教えてもらって、初めて見に行ってとても感動した。それで今年もまた行ってみた。でも、去年に続いてまた曇天。やはり桜も青空バックで光があった方がきれいなので残念だった。曇りの日にもそれなりのよさはあるのだけど。
場所はちょっと説明しづらい。春日井市朝宮町の朝宮公園のすぐ南東、細い道を少し入った住宅地の中にある。前回も迷って、今回も迷った。2回目なのに。観光地でも桜の名所スポットに指定されているわけでもないので、案内のたぐいは一切ない。大きな桜が目印になるかというとそれもあまり期待できず、近くまで行かないと気づかない。ただし、私の方向感覚は人並み以下なので、一般的な感覚の持ち主なら楽勝かもしれない。私は来年行ってもまた迷いそう。
来客用の駐車場は10台分以上あるので心配はない。観光客も訪れないし。とにかく普通のお寺さんで、生活感もあふれている。本堂の横はたぶんお寺の住職さんの家で、そこでお母さんたちが集まっていたり、境内では子供が駆け回ったり、石を投げ合ったり、自転車が何台も放り出してあったりする。写真にも写ってるようにミニ焼却炉がこんないいポジションに置かれていたりもする。そのすぐ右には鯉のぼり用のポールが寝ていたり。左に写ってる寄付をしていただいた方の名前一覧の木板も、ここじゃなくてもいいだろうと思う。
そんなわけで、写真を撮るということに関してはちょっと残念な面もあるけど桜はいい。枝振りも花も勢いがあるし、姿もいい。樹齢推定100年ということで、まだまだ成長途中。数百年は生きるエドヒガンにとって100年は人間いうところの20代だ。目に見えては分からなくても、たぶん去年よりも更に立派になっているのだと思う。
時期的には今日4月4日でやや遅かったかもしれない(去年は4月6日でほぼ満開だった)。年によってバラつきはあるにしても、ソメイヨシノの満開より一週間くらい前がエドヒガンの満開に当たると思っておけば大きくハズレることはないはずだ。
江戸彼岸桜。別名、東彼岸(アズマヒガン)。もともと江戸を中心に自生していたから東の彼岸桜で東彼岸と呼ばれていたのだろう。またの名を老婆彼岸(ウバヒガン)。これは、花が葉のないうちに咲くから、歯のないウバ(老婆)のようだというんでウバヒガン。江戸っ子の洒落のようなものだ。彼岸は、お彼岸の頃に咲くところからきている。
本州、四国、九州に自生していて、沖縄と北海道にはない。朝鮮半島や中国にも分布しているそうだ。
特徴はなんといっても長寿。全国の長生きの桜はたいてい江戸彼岸だ。前にも書いたように、ソメイヨシノはこの江戸彼岸と大島桜から生まれた。ソメイヨシノが長寿の要素を受け継がなかったのは残念に思う。
エドヒガンとソメイヨシノの花はとても似ている。エドヒガンの方が少しピンクが強くて花びらが小さめだというけど、並べてみないと分からない。見分け方としては、萼筒(がくとう)が壺状にぷくっとふくらんでいたら、それがエドヒガンだ。東北地方から南下するに従って花色が強いピンクから白になっていくという面白い特徴もある。
東の彼岸に対して西には吉野桜に代表される山桜がある。元々歴史に登場する桜は、この山桜が多いんじゃないだろうか。今でも山に自生してる桜は山桜が主だと思う。吉野の桜はいつか見に行きたい。
その他、山桜が伊豆半島に適応して生まれた変異の大島桜、富士山周辺などで咲いている小ぶりの豆桜、沖縄に咲く寒緋桜、人里近くに咲く里桜、河津の河津桜など、野生種は10種類くらいあるそうだ。彼岸桜というのは小彼岸桜のことで、江戸彼岸とは別もの。
エドヒガン。この言葉の響きになにか心打たれるものがあるのは、その名前を聞くと江戸悲願という言葉を思い浮かべるからだ。桜そのものが持つ切ないイメージと重ねて人と桜の長い歴史を思うと、少ししんみりした気持ちになる。数百年、千年という時間は人の一生を超えている。長い歳月を生きてきたことに対する畏怖心のようなものもあるのかもしれない。
日本の山奥のどこかには、まだ誰も知らない樹齢千年以上の江戸彼岸桜が朽ちそうになりながら立っているのかもしれない。誰が植えたわけでなく、誰に見守られているわけでもなく。誰ひとり見たことがない桜の花が咲いて散って倒れて、そんな歴史もきっとたくさんあったのだろう。人類がこの世界に誕生する前から。そして、人類が世界から去ったあとも。

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