世の中に神社は数あれど、お稲荷さん、八幡さん、天神さん、神明さんと並んで多いのが住吉さんこと住吉神社だ。うちの近所にはないからあまり馴染みはなかったけど、愛知県半田市へ行ったとき見つけて、おっと思った。こんなところにあったか、と。赤レンガ工場(webサイト)近くの宮池のほとりに住吉神社(地図)はある。
全国に住吉神社は2,000社ほどあるという(本社は614社)。これは、単純計算して一県に40社以上あるということになる。総本宮は大阪の住吉大社(公式サイト)だ。初詣客の多さでも毎年全国ベストテンに入っている。
しかし、そんな数多い住吉さんについて詳しく知っているという人は案外少ないんじゃないだろうか。お稲荷さんなら商売繁盛のキツネ、天神さんなら菅原道真の学問の神、八幡さんは源氏と深い関わりのある戦いの神、弁天さんなら芸事の女の神様と、それぞれイメージは持っていても、住吉さんに対して何か特定のイメージを持っている人がどれくらいいるだろう。今日はそのあたりのことについて少し書いてみたいと思う。
赤レンガ工場の方から鳥居をくぐると、入水神社とあって少し戸惑う。あれ? ここって住吉さんじゃないの、と。行ったときは分からなくて、帰ってきてから調べて納得した。
昔は入水下天神だったのがいつしか住吉天神と呼ばれるようになっていたものの、でもやっぱりここは入水(いりみ)だろうということで入水神社と改名したのが江戸時代の1838年。けど、どういうわけか昭和27年にもう一度住吉神社に改称している。
一番古い棟札(建物を新築または再建したときの大工や責任者の名前や年号などを記した細長い板)が1559年というから、創建はそのときかそれより前だったようだ。はっきりしたことは分かっていないらしい。
祭神は、海の神、底筒男命(そこつつのおのみこと)、中筒男命(なかつつのおのみこと)、表筒男命(うわつつのおのみこと)の住吉三神と、仲哀天皇、神功皇后となっている。大昔、半田の半分は海だったというから、このあたりは海岸近くだったのかもしれない。
境内にはこの他、稲荷社、猿田彦社、秋葉神社、天神社、金比羅社、厳島社、熊野社などがある。
全体的にやや荒れ気味だったのが少し気になった。
ここの住吉さんは、4月の上旬に行われる”ちんとろ祭り”があることで地元では有名のようだ。2台の山車(だし)が曳き出されて盛り上がりを見せるという。これは江戸時代から今に至るまで続いているそうだ。
祭りのもうひとつの主役が宮池に浮かべられる2叟の「ちんとろ船」だ。津島天王祭りから伝わったもので、山車よりもこちらの方が先に始まったとされる。
名前の由来は、船上の提灯が「珍灯籠(ちんとうろう)」で、お囃子(はやし)が「チントロ、チントロ、サッサァーイ」と聞こえるところから来ているという。
夜、ちんとろ船の屋根に365個の提灯を飾り、月の数である12個の提灯を掲げ、船上では子供による「三番叟(さんばんそう又はさんばそう)」と呼ばれる舞が奉納される。
最近は花火も上げられるらしい。どんなものなのか、機会があれば一度見てみたい。
南側の鳥居には住吉神社とある。赤レンガ方面からだと、宮池沿いに歩いていくとここに着く。境内にやたら車がたくさんとまっているのは、中に市の文化会館があるから、その関係の人たちのものだろう。初詣でもないのに普段からこんなに賑わう神社とは思えない。
住吉大神は『古事記』や『日本書紀』に登場する。
イザナギノミコト(伊弉諾尊)が死んだ奥さんのイザナミノミコト(伊弉冉尊)を追いかけてあの世(黄泉の国)へ取り戻しに行って失敗。あきらめて地上に帰ったものの、黄泉の国の穢れ(ケガレ)がついてしまっていた。そこで海に入って禊ぎ(ミソギ)を行ったときに生まれたのが住吉大神である底筒男命、中筒男命、表筒男命だった。
この他いろいろな神が生まれているのだけど、最後に生まれたアマテラス(天照大神)、ツクヨミ(月讀)、スサノオ(素盞嗚尊)がそれぞれ高天原、夜、海原の統治を任されることになる。
住吉神社は、第14代仲哀天皇の皇后である神功皇后が作ったものとされている。本名、息長足姫 (おきながたらしひめ) はとても強い女性だったようで、仲哀天皇と一緒に九州の熊襲征伐に向かって、天皇亡きあとも単独で九州を平定し、更に懐妊中にもかかわらず朝鮮半島まで行って、そちらまで勢力下に治めてしまった。そのときの守り神としたのが住吉大神で、それを祀るために建てたのが住吉神社というわけだ。
最も古い住吉神社は福岡の博多にあるものだとするのが一般的な説となっている。大阪の住吉神社は、船がそこで動かなくなって、住吉大神がここが気に入ったということでそこを住吉と名づけて祀ったのだった。のちに神功皇后も住吉神社に祀られることになる。
そんなわけで、住吉神社は海の神、航海の神、お祓いの神というのがもともとだった。最近では、家内安全、交通安全、開運、厄除け、安産、商売繁盛など様々な御利益があるとされる。
住吉大神や住吉神社について、誰に訊かれてももう大丈夫。物語や起源をひもといてみればそんなに複雑は話でもなかった。海の三兄弟神様で、イザナギの息子たちで、神功皇后が住吉神社を建てた、という単純なストーリーだ。御利益も、基本的には海や航海の安全とケガレを祓うというもので、そのあたりを念頭に置いてお詣りするのが筋ということになる。初詣としてはどうなんだろうとちょっと思うけど、みんな多かれ少なかれケガレてるものだからいいのか。
ただ、神社というのは一応そのいわれや御利益を知った上で行った方がいいとは思う。住吉さんで受験合格祈願はやっぱり違う気がするし、お稲荷さんに縁結びをお願いすると違うところに糸を結ばれてしまいそうだ。お願いされた事が自分の得意分野の方が神様としても叶えやすいだろう。住吉三兄弟にしても、オレたちに恋人探しをお願いされても困るよな、と顔を見合わせることになるんじゃないだろうか。とりあえず海でナンパしてみろというアドバイスになってしまうかもしれない。
とはいえ、いろんな神様と顔見知りになっておいて損はない。日頃から親しくしていればいざというときに助けてくれる可能性が高くなる。神様たちは街をうろついたりしない、神社仏閣にいる。だからこっちから出向いていって縁を結ぶしかない。お願い事などなくても立ち寄って挨拶をするだけでもいい。頭を下げてお詣りされたら神様だった悪い気はしないはずだ。信心というのはそういったちょっとした礼儀のようなものなのかもしれない。
【アクセス】
・名鉄河和線「住吉町駅」から徒歩約3分。
・無料駐車場 あり
・拝観時間 終日
記事タイトルとURLをコピーする